48 千羽鶴と夏の妖精
ねがいをこめて…
『――以上の件について、弘前高校野球部は高野連を通して正式に抗議いたします。また、今回の件だけでなく、野球部員を指導監督する指導員全般に対して、高校野球のあるべき姿、とりわけフェアプレー精神というものが、なぜ必要か?という点を、あえて教育する必要があると私は考えます。この件に関しては今回だけで終わらせる事なく――』
2回戦第1試合の平塚先生のインタビュー映像は、その後繰り返し使用された。
夏の甲子園大会、2回戦第1試合、俺たちの試合が終了してからのインタビューから直後、スポーツニュースの一部が荒れに荒れまくった。弘前高校が(その監督である平塚先生が)『抗議声明』と同時に、『どこがどう問題だったのか』を、事細かに指摘して見せたからだ。
あと、スポーツ掲示板などの高校野球実況関係サイト、今期の高校野球解説サイトなどは、その直前くらいから荒れまくっていた。主にこちらは『大槻タンが負傷退場!』とか、『俺の嫁がコーチングボックスで(ry』という記事で埋め尽くされていたのだが。
もちろん平塚先生のインタビュー直後からはもっと凄まじい事になったようだ。
こうした格好のゴシップネタはスポーツ新聞などが飛びついて大げさに書き立てるものだが、数々の証拠と言っても過言ではない映像と、疑惑でほぼ真っ黒の状況証拠などが、細かな指摘とともに監督が大きな声でコメントする事は初めての事だったらしく、今回の件の『疑惑の検証と問題の指摘』は一種の流行となってスポーツ関係各所を騒がせる事となった。次いで今までにも問題として取り上げられた事のある、過去のスポーツ『事故』の検証、とりわけ高校野球の『事故関係』が再検証される事にもなった。
そして追い討ち、致命的な一撃となったのは【選手への聞き取り調査】の結果だった。これは即日に行われたのだが、弘前高校の選手からは『明らかに何度も踏もうとしたと思う』『走路妨害はあったと思います』『危険球を必死になって打ち返しました』というコメント等が飛び出し、さらには加害側としての疑惑調査を受けた入善東の選手の一部から、【監督の指示があった】という言葉が出てきた事で状況が加速した。
これが決め手となって、『叩き』『責任追及』だけでなく『問題行動の原因』『教育姿勢』などが取り沙汰されるようにもなっていった。
※※※※※※※※※※
テレビでは試合後のインタビューで、平塚先生が熱く語るシーンが流れていた。それはもう繰り返し。次いで大槻センパイの接触事故のシーンと、最後の整列前に、補助を受けながら歩くシーン。そして山崎の打球が入善東の1塁ベンチに飛びこむシーンと、音声が無いものの、山崎が何やら喚いてその後に注意されるシーンが。
これらの映像が、当日夜のスポーツニュース枠で繰り返し流れていた。どこの局でも。生放送の枠があれば、バラエティー関係でも取り上げられていた。伝説の開幕試合に続き、弘前高校がまたも話題に!的な感じで。
山崎が注意されるシーンはついで扱いだろうが、検証映像がザクザク出てくる状態での、抗議の嵐を平塚先生がインタビューで語った結果。かなりの物議をかもす事件と化していた。しかも勝ったチームの抗議とあって、負け惜しみだと片付けられる事もなく。
【ラフプレーの嵐】【勝利至上主義の闇】【教育指導者としての自覚は?】
などと。夕刊のスポーツ新聞が高校野球記事のトップに載せる目玉記事と化している。ついでに【ビーンボールにキレて喚く山崎選手】という見出しで、少しばかり山崎も話題になっていた。監督に直撃は偶然だろうが、ベンチへの打ち返しは意図的か、とか。まぁ、本当に狙ったとは思われていないようだが。
そもそも投球そのものが頭部への故意死球じゃないのか、との問題の方が大きく取り上げられているため、これはそれほど問題にはなっていない様子。世論的にも弘前高校の立場に同情的なので、特に山崎が叩かれているという訳でもないし。
対して入善東、とりわけ監督に対しては同情の欠片もない風潮だった。引責辞任は当たり前で、謝罪会見を開くべきだとか、もう散々な扱い。もちろん同情などしないが。
「しかし…ウチのダメージがでかい。あの監督め…」
山田キャプテンが苦々しくつぶやく。
俺たちの当初の目標、『無傷で試合を終える』は、達成できずに終わった。
大槻センパイは打撲、なによりも足首の捻挫により、選手としての起用はできなくなった。テーピングで固めての歩行には問題ないが、走れない以上、守備要員として認められない。以後、登録選手としては名前が残るが、実質的に記録要員としてベンチ入りする。
そして岡田先輩。デッドボールを受けた場所、いちばん下の左肋骨だが、検査の結果、実は折れていた事が判明。無理をさせると重篤な2次的負傷を招く可能性があるため、現在は胸部の保護プロテクターのようなものを装着し、鎮痛剤を服用している。治療期間的に大会中の復帰は不可能なため、ベンチ登録からも外れた。
要は弘前高校の選手、現在は実質10名である。
弘前野球部としてはもう、想定以上のダメージと言える。しかも投手が1名欠員ときた。岡田先輩は特に、3年の最後の大会だというのに、途中退場という始末。1人だけ地元に帰るという事にはなっていないが、無念な事この上ない。以後は、応援席の最前列からの甲子園参加となる。レギュラーなのにな。
「――ともかく。今日はもう休むか。明日も聞き取り調査があるかもしれないし」
「確かにな。今日は取材攻勢で本当に疲れた」「まったくだ」
少なくとも平塚先生は明日の取材予約がすでに入っている。もうみんな休もう。そう言って当日の夜は、早くに床に就いたのだった。
※※※※※※※※※※
翌日。朝はごく普通に食事を取って、前日の夕方のようにスポーツ誌を読み散らかした。相変わらずの記事、そして平塚先生への取材と、部員数名への取材。
そして昼。駅前まで出てスポーツ誌の号外記事を入手した俺は、宿に戻ると、皆と一緒にテレビを見ている山崎の前に座った。俺が号外を持っているのに気づき、山崎を含めた全員が俺の方を向く。
「…山崎。少し聞いてみたい事があるんだが」
「あら、何かしらね?」
いつもと同じ様子の山崎だ。俺は山崎に問いかける。
「入善東の監督なんだが。あの人、更生の余地はあると思うか?」
「そりゃ何とも言えないなぁ。ただ、ねぇ」
「うん。ただ?」
「ああいう『自分は安全だから何を命令しても大丈夫』なんて勘違いをしている奴はね、自分も反撃を受けるっていう現実を見せてやって、その上で恐怖心を植え付けてやらなきゃ、何度でも同じ事をするわよ。マスメディアで叩いて辞任させるだけなんて生ぬるい。徹底的にいびってやらなきゃ。今後、同じような被害を受けるプレイヤーが出ないようにするためには必要な事だと思うわ。同じような連中は他にもいるだろうし」
「なるほどな。山崎らしい、現実的な意見だ」
俺は薄いスポーツ新聞、駅前で配られていた号外記事をテーブルに置いた。
「で、これについてのコメントも聞きたい」
号外に、でかでかと書かれている文字に、皆が食い入るように目を走らせる。そこには、こういった文字が並んでいた。
【 甲子園マスクの呪い!疑惑の監督を襲う!! 】
「「「……………」」」
皆の視線が、山崎に向けられた。次いで視線が新聞に戻され、記事の内容を追う。そこに書かれている記事の内容は、次のようなものだった。
【本誌記者は疑惑の監督が入院している病院、そして個室の病室を特定する事に成功し、突撃取材を試みた。しかし!記者が病室に突入すると、病室のベッドとその周辺には、悪夢のような光景が広がっていた…!なんと!白目を剥いて死んだように気絶する監督氏の周りには、無数の呪いのホッケーマスクが散らばり、壁やカーテンには呪いのホッケーマスクが所狭しと張り付いていた!!!以下が、その現場写真である】
俺は折り曲げて隠していた写真部分を、見えるように広げた。
「「「ひゃあ――――っ!!!」」」「ひぃ――!」
思わず飛び出す、うら若き男子高生と女子高生の悲鳴。大写しのカラー写真には。
ベッドから落ちたのか、ベッド脇の床で白目を剥いて気絶している監督氏。そしてその周りには、100枚近くはあると思われる、例のチープな作りの殺人鬼風ホッケーマスク。白いマスクの頬や額の部分には『許さぬ』『いつでも見ているぞ』『恥を知れ』『呪』などの赤い文字が書かれており、どこをどう見てもホラー映画のワンシーンか、ミステリの殺人事件現場みたいな感じだった。
新聞記者の言が正しければ、他にも壁やカーテンにも呪いの言葉が書かれたホッケーマスクが張り付いているという事だ。いったい何枚の呪いのマスクが存在しているのか。
これが甲子園マスクの呪いだというのなら、奴はかなり強力な怨霊に違いない。
「やだー。何これ、すっごーい」
「何を白々しい」
山崎の(棒)という注釈がつきそうなセリフに、思わずツッコミを入れる俺。
「まあ、ちょっと話を聞いてよ。違うの。違うんだったら」
「何が違うのか甚だ疑わしいが、とりあえず話を聞こう」
俺と山崎が位置を変わり、山崎の前に皆が並ぶ形になる。こほん、と小さく咳ばらいをした山崎、とつとつと語り始める。
「まず最初に。確かに私は例の監督氏の病室に行きました。目的は嫌がらせです」
ぶっちゃけやがったな。この野郎。
「ちょっと待ってよー。嫌がらせとはいってもね?暴力行為とは無縁な訳ですよ。つまり、形としては『お見舞い』なわけ。プレゼントがちょっと変わってたり、気づかれないようにコッソリと、お見舞いの品を置いてくるとか、そういう形なだけで。これ合法」
つまり合法的に嫌がらせをしてきたと。しかし言うに事欠いて、お見舞いとか。
「ほら、最近はあんまりやらなくなったけど、怪我や病気の快癒祈念に、願いの込められた千羽鶴とかを入院患者に贈ったりするじゃない?あと、ギプスに『早くよくなってね』みたいなメッセージを書いておくとかさぁ。これってそういうやつじゃん?」
「呪いのメッセージが書かれた怨念マスクじゃねぇか」
千羽鶴にあやまれよ。
「そもそも、あたしが持っていったのはメッセージつきマスク10枚程度だし」
「「「えっっっ」」」
え?どゆ事?なんかいきなり、リアルホラーになってきたんですけど。夏だから?怪談?
「……私は、顔の半分を隠す大きな風邪マスクと、色つきメガネをかけて、例の監督氏の病室へと歩いていたのです。廊下にも人気はなく、歩く足音は私だけ…ヒタリ。ヒタリと。廊下に足音を残し、私が病室のドアを、カララ…と静かに開けると。なんと、そこには…驚きの光景が広がっていたのです…!」
こいつ、無理やり怪談みたいな語り口調にしてきやがった。大槻センパイがちぢこまっているじゃんか。俺も少し身構えちゃったよ。
「……なんと、そこには………!!私と同様に顔を隠した男女2人が、ホッケーマスクを部屋に飾りつけていたのです!!!」
「「「………………えっ」」」
えっ?あれ?ホラーじゃなくて……サスペンス???
「鎮痛剤がよく効いて寝ている監督氏を置いて、飾り付けに熱中していた2人も、突然あらわれた私に驚いていました。どうやらこの2人も、私と目的が同じようでした。誰でも同じような事を考えるって事よねー」
「「「…つまり複数犯だったという訳か…」」」
謎が解けてきたぜ。そういうトリックだったのか。
「だーかーらー。お見舞いであって、犯罪じゃありませんー。サプライズお見舞いよ!!とっても気持のこもったやつ!!」
「まあ確かに気持ちはこもっているのだろうが…」
しかし。わずか3人でこれだけの惨状を演出するとは。先に来ていた2人も只者ではないな。特にこれだけの物量のマスクを揃えるだけでも、かなりの情熱と言わざるをえない。
「でも、明らかに量が多いわよね。このホッケーマスク」
「お前らが飾っておいて、よく言う」
自分でやっておいて、何を。
「いや、だからね?あたし達が持ち込んだマスクの量じゃないのよ。この写真だけでもマスクが100枚以上…もしかすると、もっとあるでしょ?画面外や、壁やカーテンにも飾ってあるとなると、400枚とか500枚とかあったりして…。あたし達が持ち寄った御土産なんて、いいとこ50枚くらいで」
「なんでホラーに戻ってくるんだよ!うそつけ!ホントはお前ら3人の仕業だろ!!」
「ほんとだってば!あたし達5人が飾ったのは、いいとこ50枚くらいで」
「ちょい待ち」
今なんて言った。
「5人て言ったか。3人じゃないの?」
「あとでまた2人増えたのよ。関西の人ってノリがいいというか」
関西人んんん!!!愉快犯が増えてんじゃねえか!!!
「まぁそう考えるとー。あたし達が帰った後で、また誰か来たのかもね。監督氏に気持のこもった御土産を渡したい人たちが。…ふふっ。夏の妖精さんのイタズラかな?」
「その妖精って、怪人・甲子園マスクだろうが」
関西の人に好かれるキャラだったのかなー、などと言う山崎。まずい。変なものがこの地に根付きつつある。というか、なんでどいつもこいつも同じ思考で同じ行動を取るんだ。マジで怪人甲子園マスクに憑りつかれてるのか?!
「とにかく、皆さんの気持ちの表れよね。この千羽鶴は」
「千羽鶴ちがう」
断じて千羽鶴などではないが。都市伝説と化した甲子園マスクの怨霊のようなものではあるが。あの試合内容、あのニュース、あの記事を見た甲子園ファンその他の気持ちが、監督氏への抗議の怨念マスクという形を取って表れたわけか…。
お前のやった事は世間に受け入れられる事ではないのだぞと、少々特殊な形ではあるがメッセージとして伝わった事だろう。どう考えてもホラーだけどな!!
意識が戻った瞬間、部屋中が呪いのマスクで飾りつけられていた監督氏に、少しだけだが同情する。そんなん俺でも気絶しかねん。怖すぎる。
「つぶやき系SNSとか掲示板で、呼びかけた甲斐があったわ」
「やはり貴様の仕業か」
怪人・甲子園マスクの怨霊パワーの源は、やはり山崎だった。
わずか半日程度で無茶苦茶やるなコイツ。
※※※※※※※※※※※※※※※
甲子園マスクの呪いの記事がスポーツ新聞の紙面を賑わせた、その翌日のこと。
「それで、だ。質問がある」
「はいよー。何かな?」
山崎と隣り合って小さくなっている俺。「ちょっと付き合って」との言葉に釣り出された俺は、もはやどうにもならない状況の中、せめてもの説明義務を果たしてもらうべく、山崎に質問していた。
「俺たちは、これから何をするんだ」
「強引に退院する、例の監督氏のお見送りよ」
そんなこったろうと思った。
今、俺たちが居るのは、甲子園に近いとある総合病院の近くの路地。路地とはいっても障害物はほぼ無い、見通しのいい路地。そしてこの路地、今はすし詰め状態である。大勢の人間が、ぎゅうぎゅうに詰まっているのだ。俺たちは最前に近い集団の一角にいる。
そしてこの大勢の群衆であるが、俺たちを含めて共通のユニフォームを着ている。この暑い真夏日の最中、飲み物を手にしつつもレインコート着用なのだ。
「噂によれば、治療拒否して強引に退院するそうでねー。何があったのやら」
「精神的な負担じゃなかろうか」
甲子園マスクのお膝元から、一瞬でも早く逃れたいとか。治療が始まれば逃げられないからなあ。周りの人間すべてが甲子園マスクに見えているとか。
「おっ。動きがあったわよ」
「出てきたのか」
病院の玄関の方で、騒ぎが起きた。おそらくは、例の監督氏に新聞やら地元テレビやらの取材記者が詰め掛けたのだろう。
『者ども!出陣じゃあ!!』
群衆の最前にいた誰かが声を張り上げ、俺たちは集団ごと早足で歩き始める。そして各自が手荷物の中からチープな作りのホッケーマスクを取り出し、顔に装着していった。
総勢200名は下らないであろう、量産型甲子園マスクの集団が病院へと早足に歩いていく。そしてそんな集団が、あちこちから集まってきた。
「こ、こんなに……合計1000人はいるぞ…」
「発案者はあたしじゃないからね」
絶句する俺に、すぐ脇の山崎が答えてくる。俺たちもマスクを装着しながら歩く。
「あたし達はフラッシュモブのお誘いに乗っかっただけだから」
「世も末だよまったく」
そう言う間にも、辺り一面を覆い尽くした量産型甲子園マスクの集団は、病院の前に到着した。カメラのフラッシュやら、記者の声やらが間近に迫る。
『監督!監督!逃げるんですか!』『普段からあんな事させてたんですか!』
などという記者の背後に、量産型甲子園マスクの集団が迫る。
『よぉー、記者さんたち。ちょっと道、開けてくれんか』
などと言う最前列の甲子園マスク(量産型)。そして声をかけられた記者が振り返る。
【 うわぁあああ甲子園マスクだああああ 】
記者を脇に追いやり、監督の周囲を取り囲む甲子園マスク(量産型)の集団。どこを見てもホッケーマスク、マスク、マスク………まるで悪夢のような光景が広がっていた。
『いよぉ監督さん、退院だそうで、おめでとさん』
『ケガは大丈夫なんかぁ?』
『ゆっくりしていってもいいんやで?』
口ぐちに監督に声をかける最前列近くの甲子園マスク(量産型)たち。周囲を囲まれて地面にへたり込む監督氏。
『まぁワシら、ちょっと見送りに来ただけでな』
『ちょっと一声かけに来ただけでなぁ』
『別にボコりに来たわけや、ないんやで?』
『そうビビんなや』『やましい事がなければなー』
『――そんじゃあ!合言葉で!例の監督を見送るぞぉ!!!』
うおおおおおおおおおおおおおお
唸り声を上げて応える甲子園マスク(量産型)の集団。
そして音頭を取っていた最前列の甲子園マスク(量産型)が、声を限りに叫んだ。
『養生!せえやあああああああ!!!!!!』
その叫びに続いて、すべての甲子園マスクが勝手に叫び始める。
『養生せえやあ!!』『養生せええ!!』
『養生せええええ!!!』『養生せんかいコラー!!』
『養生しやがれええ!!』『養生せええええええ!!』
『おとなしく養生せえ!!』『養生しとけやああああ!!』
『養生せいやあああああ!!!』
俺の隣の甲子園マスク(たぶん本物)も叫んでいた。俺の脇腹を、つんつん、と突っついている。…仕方ない。これも付き合いだ。
『養生しろおおおおおお!!!』
俺も叫ぶ事にした。
養生せえ!!養生せえ!!養生せえええ!!
ょおおじょおぉせええぇええええええええ
量産型甲子園マスクの見送りコールは、監督が気絶して病院に再搬送されるまで続いた。
『なんや帰らんのかい』『根性が足らんなぁ』
『ああいうのが根性で熱中症に耐えろとか言いよんのやな』
『二度と学生スポーツに関わんなよ』
『今度ナメたマネしたらタダじゃおかんで』
『もう勝手に地元に帰れや。二度と来んなよ』
『まったく迷惑なオッサンや。選手も難儀しとるなぁ』
口ぐちに好き勝手な捨て台詞を残しつつ、現地解散していく量産型甲子園マスク。その姿を報道のカメラやビデオカメラが追っていたが、俺たちも量産型の流れに乗って帰路についた。何人かがインタビューを受けていたようだったが。
ちなみに外出に関しては特別許可を取ってあると山崎は言っていた。理由は「怪我人のお見舞い」だそうである。
※※※※※※※※※※
例の監督氏の、お見送り事件の翌日。
当然ながらスポーツ新聞と、テレビのスポーツニュースのトップ見出しは
【 往生せえや!疑惑の監督に押し寄せる甲子園マスク 】
に類するタイトルのもので染まりきっていた。
スポーツ新聞の記事を読み散らかす俺たち。記事の中に、インタビューを受けた甲子園マスク達の言葉が載っていた。
『ええまぁ、ワシら暴力行為は一切してませんからね?ただ声援を届けにきただけですわ。もっとも、あちらさんが勝手に気絶しましたけど(笑)。なんぞ、やましい事でもあって、過剰にビビったんですかねぇ?お気の毒ですな(笑)』
『この格好ですか?最近、知り合いの間で流行ってるファッションっすわ(笑)』
『いやー、安物のレインコートは通気性最悪ですわ。もっと高いの買わんと』
『往生?いやいや違いますって。養生ですわ養生。早くなおれー!ってな?』
などといったコメントだった。
「…これが、本物の意思とは関係なく起きたものだとは…」
おそろしい現実だった。
「もうすっかり、夏の妖精さんも独り立ちね」
山崎が吞気な事を言っている。
「どうすんだよ!変なものが流行っちゃったじゃん!」
原因を作った奴が吞気すぎるわ。本格的に市民権を獲得しつつあるだろ。怪人が。
「心配しなさんなって。人の噂も七十五日、って言うでしょ?一過性の流行りものなんて、2か月も経てば廃れるわよ。気にしない気にしない」
「2か月したらハロウィンじゃねえか」
仮装する連中がブームを再燃させたらどうする。
ふーむ。と、少し考える山崎。
「ハロウィンって、日本の風土には合わない気がするのよねぇ」
「そこが問題ではない」
考えすぎ、考えすぎ。などと言う山崎。ホントに大丈夫なのかな。
ここまでエスカレートした、関西系のノリがどうにも心配なのだが。
後日。
【甲子園マスク仮装セット】なるものが駅前の土産物屋で販売されているのを、俺たちは発見する事になる。さらには他の商品までも。
「うそー!キャラクター商品まであるー!!」
さすがの山崎も驚いていた。
「…甲子園マスクどら焼き…?…焼印の型を、この短期間でか…関西職人、恐るべし」
「甲子園マスクの首振り人形とか…え?これ売れるの…?」
「なんだかハロウィンを先取りしている感がある」
もうわけがわからん。
ハロウィンまでブームが続けば、神輿が出来ても不思議ではないな。仮設神社とか。
「ネット社会と、関西のノリって凄いなぁ………」
「ほんまに」
結局、俺たちは甲子園マスクどら焼き、甲子園マスクゴーフルを購入して戻った。パッケージはともかく、味は普通の菓子だった。
…ま、土産物って、そんなもんだよな。
日本語の語感って不思議。やっぱり日本語は表音文字でなく表意文字ですよね。
書いてみないとわかんない、みたいな。そこがダジャレ文化の源かな?
UPしようとして誤字チェックしてたら寝ちゃったのでこんな時間になりました。睡魔つよい。
あと疲労が溜まっているのかも。養生せないかんのぅ。
それと毎度毎度、誤字チェックなどありがとうございます。助かっております。今後ともよろしくです。
評価入力やブックマークなど、お気に召しましたら最新話の下あたりでポチっと。お気持ちで。
更新間隔は不定期です。気楽にお付き合いください。
【この作品はフィクションです】現実世界の団体や地域性とは関係ありませんし批判などもしておりません。ゆるーく読んでください。




