29 心を残し、終わる夏
時間に間に合わず。チェックも甘く滑り込み(アウト)投稿。
「なにあれ――!聞いてないよぉ!!」
バックスクリーンの速度表示を見た直後。
私は思わず叫んでいた。
アンダースローでもない。サイドスローでもない。オーバースローの、剛速球。
確かに山崎さんならオーバースローでも投げられるんじゃないか、とは思うけれど。速度が女子の投球速度を完全に逸脱している。
155キロ?今日の試合通して、いちばん速い球じゃないの?あんな速球持ってたわけ?うちの試合じゃ投げてなかったよね?まさかあの後に特訓でもしたの?
「え?何。あんたも知らないの?あれって新技?」
本田がなにやら頓珍漢な事を言っている。ラクロスには投球技術を技っていう文化でもあるのかな?あれは速球でしょ速球。普通の、いや普通ではないけど、剛速球。
『お嬢ちゃん、知らないのかい?』『あれが山崎の速球だぜ』
ふっふっふっふ。とかドヤ顔で笑っている人達がいた。
いちばん端っこにいるのは私の叔父さんだ。
「知っているの、叔父さん!」
『もちろんだとも』『しかしまだ手の内を見せてはいない』
なんだってー?!
「まだ奥の手があるの…?」
『今に分かる』『赤い秘密兵器の全貌を知る時が来るさ』
ふははははは。などと笑う叔父さんと仲間達。
―――なんかイラつくなこのオヤジども。ちゃんと教えなさいよ。あと赤い秘密兵器ってなんなのさ。
思うに、社会人野球時代に山崎さんが暴れていた時の事だろう。大人相手に暴れた山崎さんの、奥の手があの150キロオーバーの速球なのだろう。しかも、まだ見せていない手の内があるという。普通に考えれば左右の変化球。あの速度で曲がれば、まともに打てる選手は限られる。これは、明星に充分に通じる奥の手だ。凄いよ、山崎さん。
『しかし、まだ155キロだ』『そうだな』
「――え?!どういう事なの叔父さん!」
ちょっと聞き捨てならない!まだって言ったよこのオヤジども!!
『いずれ分かる。いずれな』『明星はその時、絶望を知る』
ああああああイラつくなもぉ―――!!俺たちだけは知っている、っていうドヤ顔が超イラつく!山崎さんは私の友達なのに!いや私達の友達なのに!山崎さんの事で他人にドヤ顔されるのがこんなにイラつくなんて!…しかし、まだ、か。それはもしかして…いや、ありうるのかな…?山崎さんは、プロを目指すと言っていた。もしも、もしも本当に…現状の150キロ台の速球でもそうなんだけど。もしも、150キロ台の壁を超えた速球を投げられるのなら…間違いなく、プロの即戦力になる。ただのビッグマウスでは収まらない。
「大滝!おおたきー!試合始まるよ!」
いや試合は始まってるよ本田。始まるのは7回裏の明星の攻撃だよ。あと名字呼びするもんだから、叔父さんまで振り返っちゃったじゃん。
ともかく、もう一瞬たりとも目が離せない。山崎さんの本気が見られるんだ。もちろん、全力で応援するよ、山崎さん!!
※※※※※※※※※※
【F県TV専用 実況席にて】
「なんだあれは!聞いてないぞ!!」
解説の島本監督が、思わず大声を出した。
「…な、なんと山崎選手…投球練習ですが、155キロの速球…本日の両チーム通して、最速のボールを投げました!明星の木村投手の本日の記録は154キロ、公式の最速記録は156キロですが…山崎選手、木村投手に匹敵する剛速球です!!」
「いったい誰が、こんな化け物を育てたんだ……」
「これが、弘前高校の『隠し玉』いや、【秘密兵器】とでも呼ぶべき切り札ですか?」
「まさかこれほどの、取って置きがあったとは…まさに秘密兵器、最後の切り札とでも言うべきシロモノですね。ここまで引っ張ってきたという事は、全力投球できる球数制限が厳しいのかもしれませんが…あと3回、抑えてしまえば弘前の勝ちです。勝負を決めにきましたね」
「最後の切り札ですか。明星高校も驚いているでしょうね」
「手札をすべて見切って、もう勝った!と思っている時に、存在しないはずの鬼札がもう一枚取り出されたも同然です。明星にとっては悪夢ですよ」
「全国レベルと自負する、自軍の木村投手に匹敵する速球投手との対決。明星の打線との激突に目が離せませんね!!」
※※※※※※※※※※
「なんだあれは…聞いてないぞ…」
バックスクリーンの速度表示を見て、思わずそう口に出してしまう。
「155…?木村のベストとほぼ同じだと…」「故障じゃないのか…」
ウチの選手の言うことも分かる。しかし間違いなく事実だろう。
明星高校の選手は、練習で木村の150キロ台を見慣れている。それが故に分かる。あの速球が、間違いなく150キロ台の速度であるという事を。多少の誤差はあるかも知れないが、山崎選手…山崎投手の速球は、ウチの木村に匹敵する。バカな!!
変則的なアンダースローに加えて、150キロ台の速球も使うだと?!何だそれは!!悪い冗談も程々にしろ!!あれは本当に女子選手なのか?!
「…木村の速球と同程度なら、見慣れているはずだ。打て。あと1点で同点なんだ」
「「「――うっス!!!」」」
泣きごとを言う余裕は無い。対策を取る時間もない。とにかく慣れるしかない。木村と練習をしているウチの、明星高校の選手ならば、できる、はずだ。
「…想像以上の化け物か…山崎……」
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きいてないよー!とか言ってそうだなぁ。少なくとも俺が明星ベンチに居たら言ってる。あと、明星高校ベンチがさっき見た山崎の速球を、山崎の奥の手だと思っているなら、もう半分がた、山崎のペテンに引っかかってる。
さっきのは見せ球だ。
もちろん、これから同じくらいの速球を投げるだろう。そこでベンチの選手が山崎の速球の球筋を覚えてしまえば、おそらくジャイロは打てない。
普通の直球、ファストボールと、高速ジャイロはリリースから途中まで、軌道からの見分けがつかない。変化球なら飛び出し角度やら変化軌道で気付いたりするが、普通の速球と高速ジャイロはどちらも直線に見える。落下の高低差が違うだけとも言えるのだ。
もちろん減速率も違うから、バッター直前の伸びも違う。
ジャイロを投げる投手だと分かっていて、かつ、ジャイロの軌道に慣れていなければ、まともに当てる事なんかできないのだ。
重力落下しない軌道のつもりで振れば、ボールの上で空振りだ。そして速度ゆえに、振り遅れたと錯覚する。
もちろん、まぐれ当たりはある。しかし…明星は一流選手の集団だ。この場合、それこそがアダになる。狙って当てにいく打者が、的外れな部分を狙ってしまう。これは最悪だ。変化する直球、ムービング・ファストボールの一種だと気づくのは、何人打ち取られた後になるかな?気づいたところで簡単には当てられないだろうが、気付かなければ最後まで当てられないだろう。
そして7回裏。全員を三振にしてしまえば、2順目のチャンスが回る打者はいない。気づいた時には遅い、そんな状況になる可能性が高いのだ。もちろん山崎は30球程度、全力で投げる力は残しているだろう。ノリにノリまくっているしなー。手がつけられんぜ、今のウチの暴れん坊は。
「ゆくぞ。――私の本気を受けてみろ!」
そりゃキャプテンの仕事だな。がんばれキャプテン。
※※※※※※※※※※
【F県TV専用 実況席にて】
「おぉ―――っと!またもや三振!明星高校、山崎投手から一本も安打を奪えません!」
「今のは内角低めへのシュートですね。ほぼ150キロのシュート。こりゃたまりませんよ。当てる事もできてませんが、今のを当ててもピッチャーゴロかサードゴロ。木製バットなら、へし折られていても不思議ではない威力です」
「現在8回裏、点差は7回からそのままで弘前が1点リード。両チームとも、まともにランナーを出せていません。ここへ来て投手戦の様相を呈していますが、このままいけば弘前高校の逃げ切りです」
「山崎選手…山崎投手が猛威を振るっていますね。木村投手は打点につながらないだけで、少しは打たれてランナーも一人出しています。ですが、山崎投手は7回裏の救援後、まだ打球の一発も許していません。すべての打者を三振です」
「現在、5連続奪三振ですね。――っと、6人目の打者にツーストライク目を取った!空振りです!!」
「タイミングが合っていません。ボールのかなり上を振ってもいます。いまのは直球でしたが、変化球と合わせて緩急をつけていますね。とはいっても、かなり高速ですが」
「球速は154キロ!つづけて3球目―――空振り!三振です!球速は156キロ!本日の最速記録をついに更新です!!」
「こりゃ、最後までいきかねませんなぁ。明星は追い込まれましたね」
※※※※※※※※※※
「――あの直球、確かに速い。コントロールもいい。だが、なぜ打てんのだ?!」
球筋は投球練習を含めて見ている。ウチの打者なら、当てるだけでもできるはず…できるはず、だ!だのになぜ、かすりもしない?!残すは9回裏の攻撃のみ。最低でも1点を入れて同点にしないといけないものを…
もう時間がない。9回表の弘前の攻撃が終わって、今は守備の準備中だ。何か、何か打開策は…くそっ、あの化け物め!
「監督。いいでしょうか」
「なんだ木村」
思わず不機嫌な声が出てしまう。考えをまとめなくてはならないのに。
「あの直球、ムービングファストかもしれません」
「何?だが、カット等の変化はなかったぞ」
ムービングファスト。打者の直前で小さく変化する速球系統の球種の総称。しかし、それらしい変化は無かったはず。
「フォーク…いえ、スプリットかも。落ちてると思います」
「はぁ?!SFFかっ?!」
スプリット・フィンガー・ファスト。メジャーでは日本で言うところのフォークもこれに含まれる。フォークよりも変化の小さい落ち方で、しかし速いものを、日本では別種の変化球として呼び分けている。だが、SFFも速度は通常の速球よりも速度が落ちるはず。そんな速度変化はあったか?
しかし、もはや山崎が化け物の一種であることは間違いない。ただの直球に見せかけて、速球系の変化球を混ぜて投げているとしたら…
「…もう迷う時間はないか。この回の打席、直球は目測よりも下を叩け。やれるか」
「「「うっス!」」」
いい返事だ。…もっとも、あと3打席で、どれだけ直球が入ってくるか……
※※※※※※※※※※
キィン!
「おっ?!」「おおっ?!」「うぉっ?!」
ボールがはじかれ、バックネットに向けて飛んでいく。山崎がマウンドに上がってから、はじめての事だ。バッターボックスの打者は明星ベンチに向けて頷いている。
カウント2からのボールをはじかれた。直球狙いかな。
「ありゃー?バレちゃったかしらん?」
口元をグラブで隠して山崎が言っている。反射した声がちょうど俺に聞こえた。
「だとしたらさすがだなぁ。で、どーするよ?」
「そりゃあもちろん」
ここで山崎のやる事など、一つだけだ。
「本気の全力で、力ずくでねじ伏せてやる」
やっぱり。
キャプテ―――ン!逃ぃげて――!!この子危険よぉぉー!!!
しかしキャッチャーは投手から逃げる事は許されていないのだ。最低でもあと7球。もしかするともう少し。闘志全開の山崎の球を受けなくてはならないのだ。
本気の全力全開山崎、おおきく振りかぶって、投げる。
ズパァ―――――ン!!!!ミットが快音を叩き出す!!
『ひぎぃ!!』
山田キャプテンの悲鳴が聞こえた気がした。
※※※※※※※※※※
【F県TV専用 実況席にて】
「ストライク、バッターアウト!9回裏の明星の攻撃、一人目が打ち取られました!しかし!しかしこれは凄い!!球速がまた新記録更新です!!」
「こいつは厳しい。――160キロ。この速度のボールを打つのは至難の業です。しかも、的確にストライクゾーンのコーナーを突いてる。山崎投手、この速度でもコントロールが効くようですね。手に負えないとはこのことだ」
「まさに弾丸のような剛速球!これはまだ速度が上がるかも?!そしてこれで連続奪三振7人目です!このままいってしまうのか――?!」
「…ん?…弾丸…弾丸、ですか……。いや、まさかな…」
「何か気になる点でもありましたか、島本さん」
「いえ、弾丸…のような、現代の魔球とも言われる球種があるんですが…まさかね」
「ほう。現代の『魔球』ですか」
「打てないボールはみんな魔球扱いですけどね。本物の魔球は剛速球だ、なんて言う言葉もあるくらいです。ですが現代の魔球と言えば、一つはナックルボール。もう一つは変化する速球の一つ、ジャイロです。とはいえ、高速ジャイロに限りますが」
「ジャイロ…ですか。すみません、聞いた事はあるのですが、どんな特徴の球種ですか?」
「減速しない、落ちる速球です。ジャイロ回転、つまり進行方向に対して直角回転のボールです。どうして減速しないかという説明は、流体力学とか物理学とかの話になるので私も詳しくはないのですが…拳銃やライフル銃の弾丸は、これと同様の直角回転をしています。単純に言えば、破壊力のある速球です」
「弾丸になぞらえると、確かに凄そうですね」
「普通の直球は空気抵抗で減速します。しかしジャイロは減速しない。だから目測を誤る。普通の直球は少しですが揚力を得て浮きながら飛んでくるため、重力落下とプラマイゼロで直線的な軌道になる。しかしジャイロは重力落下するので落ちる。ゆえに目測を誤る。普通の直球のつもりで振れば、ボールの上を空振りする事に………」
「ええと…さっきの状況に似ていますね?」
「スーパースロー再生はできますか!あと定規か何か!できれば横に近い角度の画像を!160キロのジャイロなんか本当に魔球扱いですよ!!」
「投げるのが難しい球種だと?」
「速度との両立がとんでもなく難しいんです!ただでさえ160キロの速球なんて打つのは難しいのに、160キロの高速ジャイロなんて、プロだって簡単に当てられませんよ!!」
「――っと!またも空振り!これも直球です!」
「160キロを維持してますね。あと2人、力で押し切るつもりか…」
「今のもジャイロでしょうか?」
「分かりません。ですが彼女、かなり気が強いですからね。さっき1球だけ、チップファウルになったでしょう?もう最後まで直球で押すつもりかもしれませんよ。そしてもしも投げているのが高速ジャイロなら……まともに当てる前に試合が終わります」
「ストライーク!!またも直球!!しかもど真ん中です!!」
「タイミングが合ってませんね。やはり速度だけでも厳しい」
「明星、もう後がありません!ここからの逆転はあるのかー?!」
「厳しそうですなぁ。この切り札、ちょっと強すぎますよ」
※※※※※※※※※※
『ストライーク。スリー、バッターアウッ』
審判がツーアウトを宣言する。
『『『あっとひとり!あっとひとり!』』』
『『『やーまざき!やーまざき!!』』』『『やっまざっきさ――ん!!』』
ネクストサークルから歩きながら耳に入る、凄まじくうるさい弘前の応援。明星応援団の声も響き渡るが、『あとひとり』の言葉がプレッシャーとなって押し寄せる。
「…すまん。落ちてるが、落下量が分からん。しかも速い。…あとは頼んだ、木村」
「…いってきます!」
バッターボックスから戻ってきた先輩と言葉を交わす。…そうだ。俺はまだ2年だが、先輩たちはもう来年が無い。その事すら気遣えなかった。真剣さが足りなかった。
今となっては、女子が相手だとか、おっぱいスゲェとか、そんな浮ついた気持ちで相手を舐めてかかっていた自分が恥ずかしくてたまらない。
天狗になってた。慎重さが足りなかった。相手をよく見ていなかった。
ようく見ろ。あの女子選手を。マウンドの投手を。
目つきが尋常じゃない。微笑むように見えて、刺し射抜くような視線。
気配が普通じゃない。女子の細い体つきなのに、やけに大きく見える。
こいつは間違いなく化け物だ。立ちはだかる巨大な壁だ。
最強の敵だ。
「おねがいしゃっス!!」
気合いを込めて、バッターボックスに入る。
落ちる速球を投げるのは分かっている。そして、こいつは気が恐ろしく強い。ピッチャー向きの性格ではある。そしてそれが欠点でもあるはずだ。
左右の変化球だってあるのに、さっきから直球ばかり投げている。自慢のボールで、相手を完膚無きまでに叩きのめすのを望んでいる。そこに付け入る隙がある。高速のSFFを投げてくるのは分かっているんだ。打ち返してやる。――必ず!!!
振りかぶった。体を横倒しにするかのようにして、オーバースロー投球。来る。
ズバァ―――ン!!! 『ストライーク!』
――なんだ今のは!速すぎんだろが!!
球速を見る。…【 162 km/h 】は?…また上がった、だと?
160だって高校野球じゃ速すぎなんだよ!もはや反則じゃねぇか!!
SFFっていや高速フォークだろ!速いにも限度があらぁ!!
くそっ!もう次のボールかよ!!
球筋は…見た。速くて変化が分かりづらい。だが落ちる球だ。
目測よりも下を…振り抜いて当てる!
ズバァ―――ン!!! 『ストライーク!ツー』
かすりもしない。タイミングが合っていない。速すぎる。
球速…【 162 km/h 】くそっ。おかしい。いくら何でも速すぎる。
SFFなら減速しながら落ちるはずなのに。逆に伸びてくる。逆に……
「…SFFじゃ…ないのか…?」
キャッチャーの顔を見てしまったのは、ただの偶然だった。見た瞬間、眼があった。そして俺の独り言を聞いたであろうキャッチャーは、さっと眼を逸らす。こいつ、正直者か?
そして素早く振りかえり、ピッチャーマウンドの女子を見る。その鋭い眼を。
にやり。と。
切れ長の奇麗な眼が、笑いの曲線を描くのを見た。
瞬間、一つの答えが脳裏に浮かぶ。不思議と確信した。
「こいつ…ジャイロボーラーかっ!!」
『気づくのが遅いのよねー。残念、時間切れ』
思わず口に出していた。そして、喧しい歓声の中、小さな声が、グラブ越しの声が聞こえた気がした。…なんなんだこいつ!アホみたいに打ちまくる上に、162キロのジャイロを投げるジャイロボーラーだと?!規格外にも程がある!!なんで高校球児やってんだよ!とっととメジャーにでも行けよ!!!
あたまが混乱する間にも、化け物は3球目を投げるモーションに入った。ワインドアップで、おおきく振りかぶり、体全体を巻き込み、振りおろすようなオーバースロー。
―――投げた瞬間。肘から先が消えたように見えた。
ズバァ――――ン!!! 『ストライーク!スリー!バッターアウッ!!』
考えをまとめる間もなく放たれた球に、苦し紛れに振ったバット。
しかし、ボールにはかすりもしなかった。
速すぎる。タイミングが合っていない。軌道予測すらできていない。
球速は…【 164 km/h 】
最後の最後まで、高速ジャイロの…球速更新のおまけつきか。化け物め。
『ゲームセット!!選手集合!!』
審判の宣言。割れんばかりの弘前応援団の歓声。うなだれる俺。
どうすれば良かったのか。どうすれば、いちばん良かったんだ。
申し訳ない。恥ずかしい。考えがまとまらない。
ぐるぐる回る出口の見つからない思考のまま、顔を上げると。
『みなさーん!応援ありがとー!!』
外野の守備が戻ってくる間、マウンドで手を振っている、陽気な化け物の姿があった。
―――そういうのは後にしろよ!後に!!
イラつく感情が、かろうじて俺を正気に戻した。
俺たちの夏は終わった。そして俺たちの代わりに、この化け物率いる弘前高校が甲子園に出場する。くっそ!簡単に負けたりしたら、承知しねえからな!この化け物が!!
歯を食いしばり、そんな事を考えながら、俺は整列した。
明星高校野球部の夏は、そんな風に――終わった。
次回から閑話のようなものを連続で放り込みます。あと更新が少し開くかも。
人によっては「ダレる!!」と言われるかもしれません。でも前からの予定です。あと好きなエピソードを好きなタイミングで無計画に書くのが当方の芸風です。ご容赦ください。
誤字脱字計算間違い、連絡大募集です。前回は打順1と4の間違いとかありました。修正ずみ。
誤字報告機能の活用は本当に大歓迎です。だって修正が楽なんですもの。
手作業で修正すると、修正したつもりで別の不具合をまた発見したりするんですよー。
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あとなんか、そろそろ圏外に落ちるかと思ったらまだ居座っててびっくり。読者の方に優しい人が多いわー。なんかすごい。期間限定の楽しみが延長中です。




