27 炸裂の打撃
やりたい放題
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【F県TV専用 実況席にて】
「――ついに始まります。第■■■回、全国高校野球夏季大会、F県代表選抜の決勝戦。激戦を勝ち抜いた2校が、これより、この県営球場にて雌雄を決します。解説は惜しくも準決勝で敗退した飯坂工業高校監督、島本 和也監督。実況はF県TVのスポーツ担当アナウンサー、私こと東田でお送りします。島本さん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「さて島本さん、今回の決勝に勝ち残った2校、どちらも特徴的というか、キャラクターが際立っていますね」
「ははは。確かに。片や甲子園常連校と言われるほどに、毎年の県予選で準準決勝以上に進出するのが当然と言われている明星高校、片や前年度までの実績が欠片も無い弘前高校ですからね。私立名門、対、公立無名校、という対決です」
手元の資料をペラりとめくって。
「えー。明星高校は前年度、甲子園出場の切符を手にし、甲子園大会本選では2回戦で敗退しています。方や弘前高校は……前年度までの実績がありません。近年の参加大会ではすべて1回戦敗退。今年に至っては春の県大会にエントリーもしていません。なんというか、大躍進ですね」
「春大会に関しては、おそらくは人数の問題でしょう。弘前高校は部員が大会登録されている12人しかいないようです。そのうち1年が4人。おそらく春大会の参加受付期限までに選手が定員の9人に達しなかったのではないでしょうか?」
「確かに。その可能性が高いですね。…資料によれば、第1試合は選手の体調不良などにより、9名ギリギリで参加しています。その後は選手が順次復帰していますが…登録人数が20名以下になってしまう学校というのは、いまどき珍しいですね」
「人材が乏しいにも関わらず決勝まで勝ち進んでしまうのですから、大したものです。ウチも弘前と対決しましたが、冗談みたいな打撃力でしたよ」
「ええと…確か、10点差により、5回コールドの試合でしたね」
「…ウチのチームの名誉のために言っておきますが、別に今年の選手がダメだったとか、そんな事はありません。突出したスター選手こそいませんが、チームの総合力としては去年と同じレベルを維持していました。あくまで、弘前の打撃力が異常なだけですよ。負け惜しみと取られるかもしれませんが、明星高校といえど、油断すればウチの二の舞です」
「対戦したからこその実感、という事ですね。明星高校にはプロスカウトも注目している、すでに150キロ台の速球を投げる木村選手がいますが、それでもですか」
「先発登録されている木村選手ですね。彼は速球だけでなく、左右の変化球もあるし、なにより190センチの上背があります。確かに弘前の打線も、今までとは同じにいかないでしょう。ですがどんな投手の球筋でも、慣れる事はできます。2打席目以降、相応に打ってくると思いますね。…ああ、例外はありますよ」
「例外ですか。どのような?」
「1番の山崎選手、4番の北島選手です。あの2人は別格です。おそらく、1打席目から当ててくるでしょう。明星としては要注意の2人ですね」
「確か、どちらもホームランバッターでしたね」
「ウチの試合では、ほぼ全打席で本塁打を打ってます。…まったく、せめて2打席目からは、どっちか一人でも敬遠しておけば、もう少し失点を抑えられたものを…私の采配ミスでしたね」
「…それほどですか…。1番の山崎選手は、女子選手ですが、それでも?」
「あれを女子の括りで判断しちゃいけませんよ!!」
思わず大声を出してしまった、と。ハッとする島本監督。こほん、と咳ばらい。
「…失礼しました。あれ…じゃない、山崎選手をですね?『女子だから力はさほどでもない【だろう】』などと判断したが最後、本当に酷い目に遭いますよ。私が言うのだから間違いありません」
「実感のこもったお言葉ですね」
「まったくですよ。おそらく木村選手が、山崎選手の特異性を皆さんに分かるように教えてくれるでしょう」
「どういう事でしょうか?」
「山崎選手の、バッターとしての特異性ですけどね。彼女のバットスイングは異常な速さを持っているはずなんです。さんざん打たれて観察した結果、一種の化け物だと確信に至りました」
「化け物ときましたか。スポーツ選手としては最高評価のように聞こえます」
「打者としては県下最強クラスですよ。腕力は男子に劣るかもしれません。しかしなんというか、仕組みは説明できませんが、彼女は身体の使い方が上手い。予備動作の開始が遅いのにバットスイングが異常に速いんですよ。正確には、トップスピードに持っていくまでの時間が異様に短いというか…とにかく、木村投手の速球に合わせるところを見てもらえば分かります」
「それは木村くんの150キロ台をも『打てる』という事でしょうか?」
「できると思います。下手すると1打席目から飛ばしてきますよ。ボールの球種とコース、速度までもを見切っているんじゃないか、と思うような眼の良さと、異様な速さのスイング速度。木村投手の速球に合わせて振るところを見れば、素人目にも彼女の特異性の一端を理解できますよ。私としては、木村投手には速球を投げてもらって、彼女のバットスイングを観察させてもらいたいくらいですね」
「まさに最高評価ですね。では、4番の北島くんは?」
「彼も眼がいい。投げるコースが全部バレてるんじゃないかと思うくらいにね。ですが山崎選手に比べれば、予備動作の開始速度は一般選手と変わらないですし、スイング速度も普通といえば普通です。…なんというか、『まだ未完成』という感じがしますね。もちろん、1年生ですから将来の伸びしろと考えれば、楽しみなくらいですが」
「貴重なコメント、ありがとうございます。さて、そろそろ試合開始です。ではここより、選手の皆さんに試合前に書いてもらった、この試合に対する抱負などを紹介しつつ、試合進行の実況を続けたいと思います。…まずは投球練習中の明星高校の木村投手から。『甲子園本戦出場のため、全力で投げます。自己記録を更新するつもりで頑張ります』との事です。この自己記録というのが速球の最高速度更新なのか、あるいは連続奪三振記録の更新なのか、非常に楽しみなところですね。そして対する1番バッター、ネクストサークルで軽く素振りをする弘前の山崎選手…えぇと…」
「…どうしました?」
「……そのまま読みますよ?『あとで難癖つけられないように、ドーピング検査をやってます。試合前と試合後の検査結果は大会本部に提出する予定です』……以上です」
「ははは。本当にやったんですか。いやそれ、あくまで悪口のレベルですけど、言われているんじゃないですかね?『女子のくせに力がありすぎる』とか『なんかやってるに違いない』とかね。まぁそれは絶対にないと思いますけど」
「ちなみに、なぜそう思われます?」
「一般的に即効性のあるドーピングというと、筋肉増強剤系のものだとか、興奮剤だとかですけどね。あれは筋力を一時的に増す事はできますが、一瞬の判断力や筋肉の使い方を急に上手にできるようなものじゃありません。さっきも言いましたが、彼女は球種の判断能力と、バットスイングに関する体の動作が凄い。パワーもありますが、それ以上に技術的なものが凄いんです。悪口を言う前に、もっと選手を見ろ、と言いたいですね。彼女の打者としての性能は、よくあるドーピング程度じゃ説明つきませんよ。……しかし、『あとで難癖つけられないように』ですか?」
「はい、そう書いてあります」
「事実上の勝利宣言ですね。『勝つけど、それはあくまで実力です』という事ですか。いやはや、彼女の性格が見えますね。さすがに男子選手の中でホームランバッターをやるだけの事はある。相当に気が強いですな」
「おおっと。そう言う間にもプレー開始です。山崎選手、礼をしてバッターボックスに入ります。木村投手、山崎選手のストライクゾーンを確認するように、ようく見ています。第1投を制限時間いっぱい使って、ゆっくりと準備していますね―――」
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おっぱいでけぇ。
――いやほんと凄ぇボリュームだな、この子。マウンドから見てもなんか胸部の自己主張がスゲーよ。キャッチャー大丈夫かよ。さっきからガン見してんじゃねぇか。いや、前傾で構えてるとなんか本当に凄ぇけどさ!サインよこせよサイン!……やっと来たぜ。投球制限時間が切れるかと思ったぞ。……外角低めへ全力の直球?内角低めの、おっぱい下狙いじゃねーのか……まぁ、最初はストライクゾーンから逃げるボールへの反応確認と、全力のコントロール確認か。ストライクゾーンからボール1個分外へ……全国有数の速球、見せてやるかな!!自己記録更新、一投目から狙うぜ!!
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【F県TV専用 実況席にて】
「木村投手、第1投を投げた―――」
「あっ」
「――うぅ打った―――!!!打球ぐんぐん伸びる!!ボールはライト方向上空へ飛んでいく!高い高い!そして速い!強烈な流し打ちの打球、ホームラン確実の飛距離!!そしてボールはライトスタンド……スタンド上部の夜間照明脇を消えていく!!場外だ――!!!山崎選手、噂に違わぬ恐ろしい打撃センス!試合開幕の強烈な一撃!これは凄すぎる!!マウンド上の木村投手、茫然として見送るのみ!島本さん、彼女本当に凄いですね!!」
「今のは直球ですね。ストライクゾーンをぎりぎり外れていたと思いますが、迂闊な1投と言わざるをえません。……もっとも、一度経験しないと分からない実感でしょうが。彼女のストライクゾーンは、普通の選手よりも広いですからね。判定どうこうではなく、打ってくる範囲の事です。普通の打者なら手を出さない場所のボールでも打ってきますからね。いまのは近すぎた、と言わざるをえない。速度の乗った速球だったのも飛距離を出された要因ですね。しかし場外とは」
「今の投球の速度表示、なんと154キロです!これを一撃ですか!!」
「木村選手の公式記録は156キロが最高速のはずですから、ほぼMAXですね。全力の速球で自分と相手の調子を見ようとしたのでしょうが、コースが甘かった。もちろん、彼女限定の話でしょうが…いやはや、木村投手の長身からの速球、初見のはずですよ?彼女の視界には、いったい何が見えてるんでしょうね?」
「これはなんというか、ビッグマウスだ、とかの発言すら封殺せんばかりの力ですね」
「勝利宣言がわりのドーピング検査も、必要な措置だったかもしれませんね。あぁ、今の打撃の瞬間、スーパースローとかで見られませんかね?できれば他の選手のスイング速度と比較できればいいんですが……」
「再生はもうしばらくお待ちください。なお、今回の試合を含めて、ベスト4以上の試合を収めたDVDとブルーレイが発売されるそうですので、視聴者の方はチェックを」
「ウチの備品予算で購入確定ですな」
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「容赦ないわー」「木村くん可哀そう」「無残なり木村。成仏せえよ」
「おっぱいに見とれたかな?」「対価が高すぎる」
弘前高ベンチでは、木村投手の失投(我々の感覚では失投以外の何物でもないコース)に対して、木村投手への若干同情的な会話がされていた。
なお、ベンチ上の弘前高校にわか応援団は、現在大フィーバー中である。
『『弘前!弘前!!』』『『山崎すげー!!!』』『『場外だよ場外!!』』
応援団が元気なのはいい事だ。しかし今日は最低でも9回まである長丁場。あんまり飛ばしすぎるなよ?
『せーの!』
『『『山崎さーん!かっこい――!!!』』』
雲雀ヶ丘女子応援団の声が聞こえる。塁を軽快に回る山崎が走りを止めずに手を振ると、途端に『きゃー!!!』と黄色い声援。
……あれ山崎の仕込みじゃなかろうな?打ったら『かっこいい』って言うとか。ホームラン打たれた木村くんには言及されてないけど、裏を返せば『打たれた木村かっこ悪い』てな事にも受け取れますからね?女子声援を使って木村の心をへし折ろうとしてるんじゃなかろうか。だとしたら山崎さん容赦ねえよマジで。
「美味しかったわぁー」
「高級料理でも食ってきたみたいに言いおる」
山崎がベンチに戻ってきた。
「個人で全国区の注目投手の速球だから、学生では中々手の出ない高級料理と言っても過言ではないかも。荒削りでボリューミー。脂身たっぷりで噛みごたえのある豚肉がゴロゴロ入っているジャンクな野菜炒めっていうか」
「高級料理と木村くんに謝れよ」
あたし味の付いた脂身好きだもんね!鳥皮とか!!とか言いながら、山崎はバッティンググローブを外す。せめて肉厚のステーキとか、大好きな唐揚げの盛り合わせみたいだった!みたいなコメントくらいはしてやったらどうなのかな。
「パイルドライバー1号、お仕事完了!2号から4号、つづけー!!」
『いえっさー』「了解っス」「オーケー。ボス」
ネクストサークルから順に返事を返す。さて、おそらくは舐めてかかっていた女子選手に、開幕1投で場外ホームランを打たれた木村くんに動揺はあるかな?つけ込む隙があるなら、ここである程度稼いでおきたい。というか、最初に一発食らわせて怯んだところをボコボコにして余裕を作るのが、いつものウチの手法だ。
相手が立ち直って慎重になってくると、さすがに大量得点はできない。加えて、俺たちのチームは守備が鉄壁ではないことを自覚もしている。打てる時に打っておかないと、長丁場では後半が特に厳しくなる。さて、どうなるか。
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【F県TV専用 実況席にて】
「おおっと。木村投手、ならびに明星ナイン。先ほどの一撃で動揺したのか、動きがすぐれません。2番3番とシングルヒットを許し、ランナー2塁1塁。ここで弘前のホームランバッター2枚看板のひとつ、北島くんを迎えます。なお、北島くんのコメントですが『チームの勝利のために精いっぱい頑張ります』との簡潔なコメントでした」
「仕事を確実にこなすタイプですかね。ちなみに彼も、中学時代には派手な戦績がありません。中学公式リーグに登録すらされていない山崎選手ほど謎ではありませんが、今大会で一躍名前が知られるようになった選手です。ここまで伸びると知っていれば、どこも欲しがったでしょうねぇ」
「いま、山崎選手が中学野球をやっていない、と聞こえましたが」
「公式記録がありません。対戦相手はどこも調べているでしょうが、目下調査中です。遠投能力を含む投球能力や、バットスイングは訓練しないとものになりませんから、高校で野球を始めたとは思えない。少なくとも何らかのスポーツを続けていたはずですが、今のところ謎です。どこで何をやっていたかは分かりませんが、彼女を指導した指導者をウチのコーチに招きたいくらいですね」
「さて北島選手に対し、第1投――ボール」
「今のは外に逃げるスライダーですね。しかしけっこう大きくはずしてきましたね」
「山崎選手の一撃が効いていますか?」
「それはありますね。もう直球は2人に対しては投げて来ないかもしれませんね」
「つづけて第2投です。――打ったぁ!!打球は左中間を深く切り込む!センター追うがなかなか追いつかない!その間にランナー走ります!打った北島くんは2塁で停止。その前に出塁した2人はホームに帰りました!弘前これで2点追加です!ノーアウト3点!」
「かなり速い内角へのシュートでしたね。ですが狙い澄ましたように打たれました」
「野球名門である明星高校、無名の弘前高校に厳しいスタート!まだまだ弘前高校の攻撃が続きます!これはいったいどこまで伸びるのかー?!」
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「で、打者一巡という惨状なわけよ。あたしの出番あるかな?」
「あったとしたら悲惨だな」
山崎がネクストサークルへ歩いて行く。
現在、打順9番のピッチャー岡田(先輩)が打席に立っている。
ツーアウトだが、2塁1塁と走者がいる。俺はホームに帰る事ができたため、現在は1回の表で4点が入っている。ここでパイルドライバー9号機がフォアボールで出塁でもすれば、満塁という面白い状況で、最悪のホームランバッターを迎えてしまう。
心なしか、マウンドの木村投手の眼が必死に見える。まぁ、1回表から悲惨な目にあっているから仕方ないけど。ベンチ上からは『岡田!岡田!』の岡田コール。相手チームの応援も必死だ。野球名門の実績あるエースが初回から酷い目に遭うとか、なかなか見られない状況じゃなかろうか。
甲子園本選ではないものの、夏の大会。大きな大会には魔物が潜むという。
夏の魔物が牙をむき、明星高校に襲いかかったか。…まぁ、その魔物って、山崎 桜っていう名前だと思うけどな。
『ボール、フォア。テイクワンベース』
弘前ベンチ上の応援団が爆発的に歓声を上げる。明星としては最悪の展開。あとひとつ。あとひとつのアウトが取れずに、魔物の牙の前に身をさらす事になろうとは。
おっと。内容は分からんが、向こうのベンチからサインが出てるな。勝負しろ……の逆だよなぁ。4点やるより1点の方がマシだしな。しかし苦渋の決断、というのはこういうのを言うのだろうか。背に腹はかえられぬ、みたいな。
しかし、キャッチャーは腰を浮かさないな。ちょっと外へ寄っただけだ。
……さすがに、名門の全国区エースが、売り出し中とはいえ無名高校の女子選手相手に、大げさな敬遠はできないのかな?絶対にバットの届かない場所へ全力投球させるとか?
木村投手、苦い表情でサインにうなずく。ボールは大きく外へはずれて、ストライクゾーンからボール数個分は外側にはずれた中ほどの高さへと――
「ばかめ。そこは届く」
致命的なミスだ。キャッチャーか。それともピッチャーか。
いずれにせよ、山崎を常識で計ってはいけない。
ホームランはともかくとして、ヒット性の当たりを出せるかどうか?という事に関して言えば、山崎にとってはバットが届くかどうか。それだけなのだ。
もちろん今のボールの位置。山崎の身長とバットの長さで言えば、普通に振ればボール2個分近くは届かない。『常識的な打撃』のできない距離だ。物理的な距離。しかし。
せめて低めいっぱいであれば、山崎も見逃しただろう。しかし高さがいただけない。中途半端な距離もいただけない。来ることが分かっていれば。山崎の下半身の強さならば。山崎の瞬間的な握力ならば。あの距離は射程範囲。
右腕一本で、遠心力だけでバットの先端をぶちかます事は可能なのだ。
ガキィ――――ン!!
芯をおもいきり外れた、鈍くてひどい音!しかしボールは飛ぶ。
これぞ山崎いわく。
【 秘打・野球盤打法 】
名前ひどい。せめてテニス打法とか独楽回し打法とか何かもっと他になかったのかよ。
でもボールは飛んだ。まともに狙いのつけられない打法なんで、ダメもとで打っただけだと思うけど。どこまで飛ぶのかなー。ボールの行方を目で追う。
「…ひでーな。こりゃひどい」
本当にそう思った。
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【F県TV専用 実況席にて】
「うぅ打った―――?!打った!当たった!!大きくはずれたボールを無理やり打った!!打球は遅い!だが高い!これは変な回転かかってるぞー!高い!そして曲がる!ボールはライト線へとどんどん近付いていく!おーっと!!」
「当たりましたね。内側に跳ね返った」
「ボールはライトのポールを直撃!ホームラン!ホームランです!!明星高校、1回表から最悪の状況!!まさかのボール球を、山崎選手にホームランにされましたー!!これで4点追加!!1回表で8点の失点です!!」
「ウチより酷い目に逢ってますな。同情を禁じ得ない。あと、もう山崎選手を女子だからという目で見るのはやめないといけない。変な自尊心は自分の首を絞めますよ」
「ここまでやられれば、もう女子だのなんだの言ってられませんね。それはそうと、今のどうやって打ったんでしょう?急にバットが伸びたような……」
「再生映像、出ますよ。……これは……無茶苦茶だな……」
※※※※※※※※※※
大歓声のもと、山崎がベンチに帰ってきた。
「超うめぇ!木村くんサイコー!!」
「聞こえるから。聞こえちゃうから!可哀そうだから!」
当の木村投手、マウンドで項垂れている。見るも無残な有り様だ。泣いてないよね?
「まるでマンガ肉みたい!!」
「お前は食った事あるのかよ。どんな味なんだよ」
それとも夢のようにウマい、とでも言いたいのか。確かにダメもとの振り回し打法で、出来すぎの結果だったけど。もしかしてあれ、狙って打ったとか思われてないだろうな。距離も方向も、半分くらい運まかせだったと思うんだが。
「さーて。けっこう杭も沈んできたみたいだし、地面まで打ち込みましょーか。パイルドライバー2号!叩いてらっしゃい!」
『うぃース』
と、その時。
『審判!タイム申請します!!』
『タイム!!』
明星高校ベンチよりタイム申請。受理されると、明星ベンチよりマウンドに伝令が走る。伝令と木村投手が何事か話し、木村投手とベンチの間で視線が交わされる。そしてお互いに頷き合うと、伝令はベンチに戻っていった。
「ふむ。多少は立ち直ったかな。続投のようだし」
「まだ1回だしなぁ。復調すればエースはエースだから」
決勝戦だし、ダメなようなら1回交代もありうる。しかし状況はともかく木村投手はエースピッチャー。できるだけ長く投げさせて、ウチの打線を抑え込みたいはずだ。あと、関係あるかどうかは分からないけど、対外的には5回を投げさせて勝って、勝利投手にしておきたいのかも知れない。今期の明星高校野球部の顔みたいなもんだしな。投球数ならまだ2イニング程度。まだまだ体力には余裕があるはずだ。
その後、パイルドライバー2号はファールで粘るも、最終的には三振に取られた。
木村投手としては、ここからが本番かな。2回以降、どうなることやら。
守備の準備を進めながら、監督を中心として円陣を組む明星ナインを見る。ともかく打たれまくったら打点も意味がない。守備をがんばらないとな。
誤字報告機能の活用、本当にありがとうございます。だいぶ減ってきたんですが、まだ時々出ますね…感謝感謝。
あいかわらず、書きたいところを無計画に書く芸風でやってます。温かい目で見守っていただけるとありがたいです。文字数制御とかできませんので。多かったり少なかったり。
お気に召しましたら、ブックマークなり、評価入力などをポチポチと。評価入力は最新話の下のところで。
優しい評価入力者の方々のおかげで、まだ広告機能がONですよ!手にとってもらえる機会が多くなるのって、ほんとうれしいですね。まぁ明日にも消えておかしくないラッキーなので、ラッキーそのものを期間限定的に楽しんでいます。




