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120 ゆっくり過ごす野球部員たち

やだー!! 2カ月更新されてませんとか表示されてるッ!! 消さなきゃ!! 消さなきゃ!!

 弘前高校野球部、なんだかんだと1回戦突破。

 それも大会スケジュール的に、初日に設定されたスケジュールの試合である。


 夏の全国高校野球選手権大会の試合は当たり前の事だが全日程を甲子園球場で行う。1日あたり3試合から4試合の試合ペースでスケジュールを消化していくため、参加チームの数の都合上、大会初日に試合を行ったチームは次の試合が発生するのが、ほぼ1週間後となる。

 その間、地味な筋トレと1日あたり2時間程度に割り当てられたグラウンド練習をこなしつつ、次の試合日を待つわけだ。余裕があるとも言えるし、身体の調子を保つのに苦労する期間とも言える。ベストの緊張感と体力を維持し続けるためには、程よく試合間隔が短い方が良い、と言う人もいる。それに練習時間が準備を含めて2時間ぐらいと、非常に短い状況では、身体が鈍らないように気を遣わねばならないのだ。


 休養日というのが設定されているのも、試合が連日となると疲労が抜ける時間が無い、というだけの話である。野球部員に限らず、アスリートは適度に運動を続けねばならない。鍛えられた身体を維持するためには、それはどうしても必要な事なのだ。まあ、ずーっと寝て過ごしたりしない限り、筋肉がめちゃくちゃ細くなったりもしないのだが……


 高校球児に限った事ではないが、ガチ運動部員の高校生が1日に消費するカロリー総量は半端ではない。そのため運動量に応じた食事を摂る必要があり、食事を効率よく消化吸収できるように身体が調整されている。逆に言えば常にエネルギーを吸収・消費する事で身体のバランスを機能を保てるように仕上げているのだ。運動量が一時的に減れば身体の方はこれ幸いと、この隙にエネルギーを有事のために蓄積しようとするわけだから。

 この2回戦までの、ゆるーい期間は。食べ放題の食事を摂りすぎて太ってしまわないよう、各選手が自己管理を工夫するところだ。1回戦でレギュラーメンバーがケガしてしまった場合は都合がいい期間だが、負傷選手が一人も居ない元気いっぱいの弘前高校としては、時間を上手に使うスケジュール管理能力が問われる。


「正月休みでもないのに太りそうになるのを気にするとか、変な期間よねー」

「減った練習時間をどうするか、っていう課題が生まれるんだよな」


 試合の翌日、そんな事を口にする山崎と俺。

 それでも俺達は比較的、恵まれた環境にあると思う。

 宿泊する温泉旅館『不朽苑』には、館内施設にプールがあるからだ。

 40メートルくらいのレーンも3本あるし、利用客が少なければ全力で泳ぐ事もできる。利用客が多くても水遊びくらいはできる。水中運動は全身運動だ。意識的に身体を動かせば、アスリート的な意味での運動不足を解消する事に、とても役立つ。

 甲子園の参加校はブッキングしない限り、以前に使用した宿泊所が割り当てられる事になっている。去年この宿泊所を割り当てられたのは幸運な事だった。おかげで今年もプールで運動不足を解消できるのだから。あとついでに、甲子園だとかインターハイだとか、夏の全国大会に出場できた運動部員や、来年に全国を目指そうとしている運動部員にとって夏というのは身体を鍛える季節、部活動のための季節だ。水泳部員以外、プールや海で泳いで遊ぶ余裕など無いだろう。もちろん水泳部員にとってのプールとは、遊び場ではないだろうが…… ともかく、ちょっぴりリゾート気分が味わえる気がするこの環境。不朽苑に感謝である。


 そんなわけで、朝から雨が降ったり止んだりする不順な天候の中、昼前に割り当てられたグラウンド練習を終えて宿泊所に戻ってきた俺達は、昼食と食休みを終えた後、今日もプールにやって来ていた。グラウンド練習、プール、筋トレ、温泉、そして夕食への流れ。実にムダがなく充実した日程と言えよう。

 プールでの水遊び…… 目の保養もしつつ運動もできる。むしろ普段の練習よりも最高じゃないですかね。美味しい料理にプールに野球。甲子園出場って最高だよな!!


 しかし。少々不満があるとすれば。


「いやー、不朽苑さまさまですなぁー」

「プールがあって良かったわぁー」

「ホンマ、地元に戻ってもこっちへ足向けて寝られんで」


 などという、ちょっと余計な会話が聞こえてくるところだ。

 今現在、プールの利用客のほとんどは学生である。

 それも学生利用客のうち、男子学生が9割の比率を占めている。

 正確に言うと、我らが弘前高校の野球部員と、同じく夏の甲子園大会に参加していて同じ宿に宿泊している、余慶学院の野球部員がすべて。そして男子野球部員がほとんど。


 女子野球部員は山崎と、山崎と同室の清水だけ。清水は圧倒的な男子率のプールの環境を見て、心なしか冷めた目をしている。なお、マネージャー達は平塚先生と一緒に買い出しに出掛けているため、今回は居ない。


「ちょっと余慶学院さん、プールに集まりすぎじゃないですかね? 」

 と、ついつい文句のような一言を言ってみれば。


「いやー、こう暑くっちゃプールに入りたくなるのが当然やろ」

「そうそう。ガーデンプールなんぞ見るのも初めてやし。来たくなるわぁ」

「グラウンド練習時間も短いからなぁ。全身運動の水泳は最高やで」

「弘前高校さんも集まってるやんか。お友達、お友達」


 にゃっひゃっひゃっひゃっ。

 みたいな笑い声を上げている、高校球児的な意味合いでの仲間達だった。なお館内はエアコンも効いているし、温泉でサウナと水風呂とか露天風呂でゆったり、みたいな選択肢もある。適当な事を言いやがって。


「余慶学院さん達、さすがに余裕あるわねぇ」

「試合日は週末やしな!! 」「まだ延びるかも分からんし!! 」


 山崎の呆れたような声にも、陽気に返事する連中だった。試合まではリゾート気分という事なんだろうか。余慶学院の監督はこの連中を、どう監督しているのか。

 弘前高校の野球部員は何名かが温泉に行ったり、買い出しに付き合ったりしているが。余慶学院の野球部員はどういうわけか選手18名と記録員までもが全員がプールに集まっている。チームワーク抜群すぎるだろ、この連中。


「なーなー、ビーチボール持ってきたんやけど、これで遊ばへん? 」

「それ持ち込んでいいんですかね? 」


 不特定多数の宿泊客が利用する館内施設だから、ボール遊びとかは迷惑になるんじゃないですかね。監視員の人に速攻で怒られる案件じゃないかと思うんだけど。


「他の客は子供用プールの家族連ればっかりやし。迷惑にならへんて」

「他の利用客が来るまでならいい、って言ってたで」

「ボールあと2個あるしな!! 遊ぼうや!! 」

「笛が鳴るまでは俺達の時間やで!! 」


 無駄に段取りがいいな。まあ、プールの中でボール遊びとか水球みたいな感じだし、運動量も大きくなりそうだ。筋トレ的な意味合いでも良い提案かもしれない。


※※※※※※※※※※※※


 数分後。

 山崎・清水を中心とした弘前野球部員の円陣を余慶学院の円陣が取り囲み、複数のビーチボールを互いが高速で打ち返すといった、特殊な競技のような何かが生まれていた。

 もちろん「プールの中でのビーチボール遊び」という、ふわっとした遊びだったはずなので、特にルール的なモノも無く。ただ水面に落ちるボールを追い、誰かに打ち込み、打ち返すといった遊びだったハズなのだが―― ボールが山崎の頭上へと、タイミングよく浮き上がった後から風向きが変わった。


『よしいただき!! 』


 まるで水球選手のように、勢いよく上半身を水上に踊りあがらせた山崎が、水しぶきを上げつつ状態を反らせ腕を振り上げ、ビーチボールを叩いた。


 ぱーん。

 と、ちょっとだけイイ音を出してビーチボールが飛んで、余慶学院の誰かの顔面にヒットした。そして数秒の無音の時の後に――


『『『『 おおおおおおおおおおお―――― !!!! 』』』』


 どよめきのような歓声が、俺達の空間を満たしていた。


「跳んだ」「躍った」「躍動した」

「跳ねた」「揺れたぞ」「まさに肉体美」

「すげえ」「スゲェスゲェすげえ」「語彙力が破壊される」


 ざわり。ざわざわ。と。ボールを追うのも忘れ、山崎の躍動感あふれる一撃に、口々に感想を漏らす俺達だった。当の山崎は褒められたのを喜んだのか『いやー照れるなぁー』とか言っていたが。


 ―― それぞれの頭脳に思考能力が回復し、欲望と打算が思考回路を駆け巡り。それぞれの思惑が交錯し、情動が身体を動かし、水場を戦場へと変えた。

 ある者はボールを追わせるべく力の限り腕を振るい。ある者は、さっきの光景をもう一度とボールを打ち上げるべくボールを奪おうと両手を伸ばし。またある者はボールの争奪戦による接触を画策せんとする。

 混沌とした様相を見せる水場において、セクハラ案件に対する教育を繰り返し教育されている弘前高校軍団が余慶学院軍団に対する防御姿勢を取ったのは自然な事であっただろう。ついでに言えば本陣に居る姫だか女将軍だかに合法的な接近ができるという余禄もついてくるし、自分の彼女かどうかという話はさておき知り合いで見た目の良い女性を知らない男からガードしようとするのは、若い男なら取ってしかるべき当然の行動でもあった。

 結果、山崎とついでに清水にボールを打たせようと、あるいはぶつけようとする余慶学院男子生徒と、その目的を未然に防ごうとする弘前高校男子生徒、あまりやる気の無い清水、何も考えずに(あるいは気にせず)ピョンピョン飛び跳ねてボールに飛びつく山崎という構図が出来上がったのである。

 もっとも防御という共通意思を持っている防御側の円陣に比べ、攻撃側の外周円陣は本来は仲間と言える間柄でもボールの奪い合いをしていたので、外側の方がより混沌とした状況になっていたのであるが。


 この状況は、突如として降り出した豪雨と、直後に吹き鳴らされた監視員の笛の音によって停止するまで続いた。


※※※※※※※※※※※※


「クッッッソ疲れたわ…… 」「茶ぁ飲んで寝る」

「温泉いってから寝る」「メシまで寝るわ…… 」

「ええモンは見られたな」「いい夢見れそうや」


 慣れない水中での運動を全力で、それも無酸素運動に近い状態で続けた俺達男子生徒は、余慶学院の生徒も弘前高校の生徒も疲労困憊していた。結果として今日の運動不足は解消されたのだから、結果オーライというべきだろうか。色々な意味で楽しくもあったし。


「むちゃくちゃ降ってるわね…… 今日の試合、大丈夫かな」

「午前の試合も、1試合は遅れてましたもんね」


 山崎と清水は雨の様子を見ながら大会進行を心配していたので、男子に比べて女子はまだまだ体力的に余裕がありそうだった。適度な運動とはどちら側の事を言うのだろうか。それはそれとして、俺達のビーチボールバトルを中断させた豪雨は、今も降り続いていて雨足が弱くなる様子も無い。

 今年の大会は開会日というか開会式の天候からして不穏な様子というか、天候不順な様子が見受けられた。翌日の今日も朝から雨が降ったり止んだり。そしてついに土砂降りと言っていい豪雨だ。このまま雨が止まなければ現在の試合が中止、残りの試合も翌日へ順延となりかねない。大丈夫なんだろうか。


 なお、翌日からプールの入り口に貼られた『ビーチボール持ち込み禁止』の貼り紙を見て、何人もの男子高校生が『あぁ―― 』と、嘆きの声を上げる事になる。何事もほどほどにしなければいけない。そう思う俺達なのだった。


 雨は今も、景気よく降っている。

 だいぶ遅くなり、申し訳ございません。どうか見捨てずチェックしていってくださいませ。

まあ斬新かどうかは別として、試合進行のネタが無かったとかそういう事ではなく。閑話みたいなのどうしよっかなー、とか考えてたり後は精神状態が陽気に傾いてなかったりとか。そんな理由で遅れました。

 そもそも特に気負わずに始めた同人小説ですし、初心に戻って無責任に話を進めて行こうかと思っております(ぇぇー)。そのうち叩かれるような話も番外的に出てくるかもしれませんしね(ぇぇぇー)。

 そんなワケで。試合間隔が長いのが1回戦と2回戦の間。ゆるいお話の中でも特にゆるーい期間になるかと思います(冬休みは除く)。ゆっくり気楽に構えていただけると助かります。


 あと誤字脱字など発見されましたら、誤字報告機能などを活用したり指摘したりして下さいませ。ユーザーデバッガーは神様です。今後とも拙作をどうぞよろしくお願いいたします。


P.S 今回も9回のネット小説大賞登録では、二次まで残りましたが最終的に消えました(ファンタジー全盛な上にニッチなジャンルなので無理はある)。なんか10回がもう登録開始しているみたいなので、懲りずに登録してやろうと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 昔日間ランキングに乗っていた頃一気読みしていたのですがたまたまネット小説大賞十で検索していたら目に入ったので、再読しました。いや〜面白い。 なろうと野球がどっちも好きなのですっごく面白い…
[良い点] 偶然見つけて一気読みしました 面白かったです
[一言] 毎話めちゃくちゃ楽しみにしてます!! 投稿ありがとうございます!!
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