112 弘前商工会の新商品
色々と言っておきたい小ネタとかを。
「新作で――す!!」
「「「おお――」」」
野球部の部室で、皆の前にプリントTシャツを高く掲げる山崎。例の『 野球ユニフォームを着た女の子のアニメキャラ(5頭身) 』が描かれた、弘前高校応援Tシャツだ。目の前にあるのが、今年の夏モデルらしい。
少し安っぽい感じの白いTシャツに描かれた、メリハリのあるボディラインの野球女子のアニメキャラ。地元のイメージキャラクターのようなモノになりつつある感があるキャラクターだが、まだ名前は無いはずだ。いずれは名前を募集されたりするのだろうか? それとも山崎が卒業するとともに、正式名称が『 桜ちゃん 』とかに決まったりするのだろうか。今のところ『 弘前の野球少女 』という、ふわっとした扱いになっているが、もしかしたら地元の知名度向上のため、名前はこのままかも知れない。
「弘高を応援してくださる商工会の皆様の御厚意により、人数分はタダでもらえました!!ちなみにデザインは3種類あるので、残り2種類が気になる人は自分で買ってね!!お近くの商店街だけでなく、通販サイトでも取り扱っています!!」
「オマエ本当に、商売に関わってないんだよな?」
今年の『弘高応援グッズ』をプッシュしてくる山崎に、少しだけ心配を覚える。いちおう高校球児が商売に直接関わったりすると大問題になってしまう事は分かっているはずだから、心配ないはず、なのだが。ときどき注意しておいた方がいい気がする。
「もちろん例年通り、同キャラクターのポスターも今年モデルが発売されてるわよー。ちなみに去年のモデルは在庫わずか。再販要望次第では、限定再生産もあり得る、という話だけどね。再販の要望については、弘前商工会のホームページを参照してね!!」
「本当に大丈夫かなコイツ」「中間手数料とか取ってないよね?」
「新作グッズは他に何がありますかー?」「買う気満々のヤツがここに」
山崎ファンの清水は新作を買う気満々のようだ。去年のグッズはすでにフルコンプしているのかも知れない。
「『 選手カードっぽいもの 』が発売されるわよ。パッケージ販売で、封入カードはランダムね。地元商工会の一部の商品を購入しても、オマケで1枚ついてきます。通販もアリよ。現在の仮称は『 弘前商店街・野球カード 』です」
「トレカを発売すんの?!」
普通に驚く。本格的に、ゆるキャラ的なキャラとして売り出すつもりか。
「なんと、カードゲーム機能つき!!デッキを構築できるほど枚数を集めれば、カードバトルゲームとして遊べます!!もっとも、バトルシステムは相手のライフを削り合う、よくあるバトルゲームのヤツだけど。なお、カードに関しては『 その他の選手っぽいキャラ 』のデザインも多数でっち上げられたので、バリエーション豊かになりました!!」
「売れるのか、それ…………」「一般選手?あれ?俺らのもあるの?」
「ハズレのカードが捨てられたり……」「ありそう……」
ハズレカードがどう判定されるかはともかくとして、普通のトレーディングカードゲームと同様のデッキが組めるほどにカードを集める人間が、はたしてどれだけ存在するのだろうか。むしろ販促アイテムとするなら、役立たずのモブキャラカードの方がレアリティ高いとか、変な事にもなるのでは。
「注文が来なかったら、初期生産分で終了ね。その時は地元商店のオマケでバラまいて終了。いちおう全カードの縮小画像はホームページで公開する予定だし、あくまでコレクター向けのオマケ的なアイテムよ」
「何かの間違いでバカ売れしたら、逆にどうするんだ」
地元の商工会だか商店街だか知らないけど、商品的には県内だったら横展開できる品物も扱ってるみたいだし、今年も弘前高校が夏の大会の代表に決まった以上、売れるうちに何でも売っておけ、という空気になっているのかも知れない。くれぐれも高野連に睨まれない程度に、うまくやって欲しいと思う。
弘高野球部としては寄付金のアテの一部になっている以上、継続的に売れてくれればいいなー、とか思ってしまうのは野球部員的には仕方ない。対象商品の代金の何パーセントが寄付金になるのかは知らないが、今年の弘高野球部の応援寄付金も、また少し集まりそうだ。普通の寄付金も含めて、今年の遠征費用も何とかなればいいな、と思う。
「売れるなら売れるだけ売る!! 野球部の運営費用には手をつけたくないからね。直接は関与しない程度に、それとなく雰囲気を盛り上げていきましょう!! 『 僕も買ってます 』ぐらいなら問題ないんじゃないかなー?? 今年も遠征費用が集まるといいわよねー。……はい皆さん、合言葉は?! 」
「「「 ご協力、ありがとうございます!! 」」」
本当の事とはいえ、コイツはこういう話になると、二言目には『 お金 』だからなぁ。こういう話になると監督や主将を完全に脇に追いやって、自分から積極的に主導していく雰囲気がある。コイツ、高校を卒業したら、いったいどうなってしまうんだか。若いうちに稼ぐぞー!! とか言って、水着写真集とか売り出したりするのかな、コイツの場合。
「高野連とかの監視が厳しくなけりゃ、マネージャーの水着写真カレンダーとか発売したいんだけど。惜しいなぁ」
「「「そんな事考えてたの?!」」」
当たらずとも遠からず、みたいな事は考えていたらしい。世間様の監視があって良かったと思う。素人学生の水着姿を商品化とか、完全にアウトだろ!!
「プロだったらなぁ……海外じゃ、そういうのもアリ、っていう話だし。野球選手だと、やっぱりユニフォーム姿みたいだけど、ショータイムに踊るチアの子の水着カレンダーなら普通に売られてるみたいよ。あと、スポーツ選手以外なら男のセミヌード写真のカレンダーとか普通に売ってるしね。いつだったか、イケメンのお医者さんの筋肉カレンダーだか写真集だかが話題だってニュース、流れてなかったっけ? 」
マジで? もしかして売れてる選手なら、男でもセミヌード写真集とか売れちゃったりするのかな?
「海外ってそうなの?」
山崎の近くに立っていた今井マネが、山崎に聞いている。
「欧米なんて、男女問わずに性的なネタのビジネスに関しては、ある意味でドライな感覚なんですよ。要は需要があれば提供する、お金になれば性的なショービジネスは成立させる価値がある、みたいな。未成年のヌードとか喫煙には厳しいのに、成人に関しては緩い感じというか。日本人としては不思議な感じもするんですけどね」
「そうなんだ……」
「そういう背景を考えると、MLB……大リーグへの女性進出は、難しいかなーって思いますね。男女の棲み分けがハッキリしてる感じで」
「そうなるの?」
「戦時中に男性野球選手が兵役でいなくなっちゃった時に、女子のみのプロ野球リーグが発足した事もあったみたいなんですけど、戦争が終わって野球選手が戻って来るようになったら、お客がいなくなったり選手が集まらなくなったりして、リーグそのものが無くなったみたいです。そもそも、さっきも言いましたけど女性は『 女性の性的魅力を全面に押し出したビジネス 』が幅を利かせてますし、そのままだと厳しいんじゃないですかね? 」
「うーん、お国柄、っていう事なのかなぁ」
「あっちの方の女子プロレスとか、日本とだいぶ違うみたいですし」
「「 女子プロレス 」」
山崎と今井マネの会話に、男子が食い付いた。
「あっちの女子プロレスって、団体に入るのにビジュアル審査でもあるのか、っていうくらいに見た目のいい人が揃ってるし。スリムきょぬーの率も高いし。プロレスって『 ショーとしてのケンカ 』なんだけど、あっちの女子プロレスだと、日本だと滅多に見ない『 水着むしり取り 』なんか、普通にやるみたいだし、セクシー要素が重要なんですよ。というか、おっぱいポロリは女子プロレスのショーの一部らしい、という話を聞いた事が」
「「「 おおおおおおお 」」」
なにその動画どうやったら観られんの、という男子へ、ゲスな食い付き方してんじゃねえよ、という1年女子マネからの冷たい視線が飛ぶ。
「それにほら、あっちだと現在は『アメリカンフットボール』っていうのが、ベースボールと同等以上の人気だったりするでしょ?」
「そうね」
「で、女子プレイヤーだけの『 ランジェリーフットボール 』っていうショースポーツがあるんですけどね? ビキニの水着だか下着だかの上下に、アメフトのショルダーパッドとヘルメットとかを装着した水着筋肉美人がぶつかり合う、上下のポロリが炸裂する成人男性向けのショービジネスというか、有線放送か何かの成人向け番組コンテンツとかなんですけど」
「ええぇ――!!そんなのあるの?!」「「ええぇ――!!」」
「「「おおおおお――!!」」」
女子男子ともに叫び声を上げる部員達。
それ画像なら見た事あります。なんかタックルとかで下の水着を引きずり降ろしたりとか。何か色々あるみたいですね。あと隊列組んでるところを後ろから撮ると壮観というかスクラムで押し合うシーンは是非とも低いアングルから撮って欲しいというか。それとやっぱりビジュアル重視で選手が集められてるんじゃないかなー、とか思ったり。やっぱり海外だとショービジネスっていう事を重視するんだなぁ、と思った。あと、そういうちょっとアホなセクシー企画がまかり通ってしまうのが、アメリカっぽいとも思ったり。でもカナダとかオーストラリアにも飛び火してるんだっけか。日本はいつだ。
「ま、ああいうのが『現代アメリカのショービジネス』を良く表してる、っていう気がしますね。現代で女子が人気の取れる、ショービジネスとしてのベースボール、というのをやろうとしたら……『 ランジェリーベースボール 』みたいなのをやらなきゃなー、みたいな感じがするっていうか。男子に混じって女子がプレーするなら、女子だけ特別なユニフォームを着てプレーしなきゃいけないのかなー、とか。胸元の開いた上着に、半袖でヘソ出しのパツパツ上着に、下は太ももがよく見える超ミニの短パンとか。そのくらいやらないと……あれ? そういうユニフォームの野球アニメとかゲーム、どこかで見たような……気のせいかな?」
たぶん気のせいだと思うぞ。ミニスカにスパッツ、みたいなユニフォームでの女子野球はどこかのソシャゲで見たような気もするけど。短パンはまだしもスパッツでスライディングとかしたら色々と危ないんじゃないかなー、とか思うのはリアル高校球児の感覚なのかしらん。まあゲームだったらリアルの問題点とか、気にしちゃいけないとも思うけど。むしろ水着野球とか本当に企画してしまえばいいんじゃないか、とも思う。一部の有識者から叩かれそうな気はするが。
「だから女子がプロ野球を普通にするなら、日本しか無いと思うんですよ」
「「 なるほど 」」
日本はそういう雰囲気に関しては逆の方向で緩いというか、普通のユニフォームで野球ができる環境っていう事だな。水着野球とか、深夜番組のセクシー系芸能人を集めたバカ企画くらいしか通りそうにない。たぶんイメージ的には、去年の山崎がミスコンでやらかしたビキニ野球プレイヤーみたいなヤツになるはず。我が校の文化祭実行委員会みたいなヤツらでプロ野球協会とかの上層部が組織されない限り、そういうのは実現しないだろう。
「まあ日本でもフィクションなら、そういうのはアリっていう事で。発売されるトレカにも水着カードはありますけどね。今のところ、例の野球女子の水着姿を拝めるのは新発売のトレカだけ!! バトルカードとしても特殊能力は折り紙付き!! あと期間限定の商品みたいなモノだから、今のうちに買ってね!! 」
こういう感じの商品戦略、なんか普通にそこら辺で見た事があるような気がする。購買者の射幸心を煽るタイプのキャンペーンだ。売れちゃうのかな、カード欲しさに。
世界で2枚だけのカードも存在するのよー、ポイント貯めてからの抽選だから、お高くなるけどね。みたいな事を、まだまだ語っている山崎だった。金に貪欲というか、一部の客への欲望に訴えかけた卑怯な戦略というか。寄付金が無いと困る我々としては、文句を言いづらいけれど。まあどうせ、売れるとしても大した量じゃないだろうし問題ないかな。変に売れすぎたりすると、逆にちょっと怖いかも知れない。
「はい皆さん、合言葉は?! 」
「「「 ご協力、ありがとうございます!! 」」」
「もう一度、もっと元気よく!! 」
「「「 ご協力、ありがとうございます!!!! 」」」
当分の間、練習の前後に挨拶の練習が追加されそうな感じだった。
※※※※※※※※※※※※
後日。山崎との帰り道がてら、例の野球トレカが意外にも売れ行き好調だと聞く事になる。なんでも通販での大量注文が発生しているらしく、ポイント目当てなのか地元商店街の通販品目も、県外への売れ行きが好調なのだとか。もしかしたら、どこかの転売ヤーが暗躍しているのかも知れないが。それともレアカードをフルコンプしたい大きなお友達の仕業だろうか。
「水着カードを、もっと刷るべきかしらね」
「ここぞとばかりに売る気か」
やはり商品開発にはコイツが一枚噛んでいるに違いない。
「ネットじゃあ、『 弘前商店街・野球カードゲーム 』の攻略サイトがマニアの手によって立ち上げられててね? 動画配信サイトでの対戦動画を上げる人まで出てきたみたいよ」
「ほどほどに売れるといいな」
「悟をモデルにした……かどうか良く分からない、よく打つ男子選手カードもあるんだけど、わりと人気があるみたいよ。現状ではカードにしか存在しないキャラなんだけど」
「もっと刷るべきじゃないかな。そのカード。グッズ化もいいと思うぞ」
「試験的にポスターを刷ってるわよ」
「おぉ!!」
「とりあえず、野球女子とのコラボから始めるみたい。全然売れないと困るから」
世の中、やはり世知辛いようだ。かといって、本人にそれほど似ていない野球男子のキャラクターが、まともに売れるかどうかは疑わしいと、俺自身も思うけれど。ちなみに、部活の時間に話題になった、ランジェリーフットボールについて、ちょっと聞いてみた。
「仮に、山崎が高額の年棒でスカウトされる事があったら? 」
「3年契約で3億ドルとか出してくれるなら」
100億円プレイヤーと申すか。あのコンテンツ、そこまで選手の給料高くないんじゃないかな。年間1億ドルとか、大リーグでもトッププレイヤークラスの契約金だろ。しかし日本のプロ野球ではそこまでの年棒は出ない。金の信徒である山崎であれば、なるほどの理由だ。でも無理だろうな。しかしもしも、もしもだ。山崎があのユニフォーム姿でプレーしていたら……あ。誰にも捕まらない、俊足のクォーターバックとかになりそう。けっこう視聴率取れるかも? 【 誰が最初に彼女のユニフォームを剥ぎ取るか?! 】みたいなネタで、あっちこちのブックメーカーが賭けを立ち上げそう。ううむ、しかしビキニ型ユニフォームである以上、多少のプロテクターを内蔵していても、走るたびに上に横にと激しく躍動するのでは。これはいっちょう、脳内シミュレーションをしなくてはいけない。
――などと考えるうちに帰宅してしまった俺が食卓の上で見たのは、例の『 弘前商店街・野球カード 』が3枚ほどパッケージに同梱された、地元商店街の和菓子セットの箱だった。販促アイテムとしては好評らしい事がうかがえる。
俺はカードのゲーム能力値を読みながら少し冷静になって。野球女子と野球男子のコラボポスターのデザインはどんな感じだろうか、などと考えるのだった。
ちなみに和菓子は普通の饅頭の詰め合わせで、普通に美味しい普通の饅頭だった。特にマズくはないけれど、特別感のある味という訳ではなし。オマケつき商品って、まあ、こんなもんだよなあ。
今回も『 書き直す前のテキストが残っていた事に気づかない 』とかの誤字に気づかせていただき、誠にありがとうございます。今後ともよろしく。ユーザーデバッガーは神様です。
そして今回も日常回。あとLFL【ランジェリーフットボールリーグ】について。もっとも現在はX-League【エクストリームフットボールリーグ】とか呼び名が変わってますが。この件に関してのくだりは、いつか言っておかねばならないと、前々から思っておりました(一昨年の夏ごろからかも)。あれがアメリカなんだよ!! みたいな。でもカナダやイギリスやオーストラリアでもリーグが立ち上がってるみたいですね。アジア圏とはノリが違うなぁ、こういうとこ。
試しに野球でランジェリーフットボールに近いのが無いかと思って検索してみたけど、何年か前にリリースされたAVベースボール(低クオリティのカードゲームです)とかPC-8801時代のゲームの美少女ベースボール学園(ただの野球拳です)とかヒットしました。あとはホームラン競争のバカゲーくらい。
今後も、ゆるーく更新していきます。更新速度は不安定ですが、よろしくお付き合いくださいませ。




