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109 意地を貫いただけ

試合終了。

【 F県TV専用 実況席 】


「――大歓声の中、いよいよ迎えた最終イニング、9回表が始まります!!雲雀ケ丘高校の1点リードの状況で、弘前高校の攻撃は7番ファーストの竹中選手から!!もしも三者凡退となってしまえば、その時点で雲雀ケ丘の勝利です。弘前高校の応援団の、全力での応援がグラウンドの空気を震わせています!!さあ、出塁して次につなげる事ができるか? 目が離せません!!」

「弘前高校は下位打線といえど、侮れませんが……さすがに9番の前田選手は、ほぼ投手専任ですから、長打は期待できないでしょう。弘前高校としては、7番の竹中選手、8番の清水選手のうちにランナーを出したいところですね」

「マウンドの白露選手は、前日の最終イニングを務めた投手ですね」

「ナックルボールの完成度は高いと思います。それに、重圧を受けるような場面で落ち着いて投げられる、精神力の強さを信頼されているのかも知れません。ですが……」

「何か問題点でも?」

「……今日は決勝戦。特別な試合です。どんなベテラン選手でも、普段よりも一層の重圧を覚える試合のはずです。雲雀ケ丘は公式戦での決勝戦進出が初めて。経験で言えば1年も3年も無いでしょうが、最後まで体をうまくコントロールできるか……それは投手だけではなく、選手のすべてにおいて重要な事です。正念場です」

「攻撃側の弘前高校選手だけでなく、守備側の雲雀ケ丘高校の選手にとっても、厳しい場面という事ですね。さあ、第一投を投げた――!!」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 うわぁぁぁぁぁぁぁ――――

 ぎゃあぁぁぁ――――


 応援団の悲鳴が響く中、竹中がベンチへ素早く戻って来る。アウトひとつ。


「キツい……!!ゆっくり戻って来られない」


 竹中は戻って来ると、安心した!!という顔でヘルメットを取る。うなだれていたような姿勢で戻ってきたのは、どうも応援団からの視線を遮るためだったらしい。気持ちは分かる。今の応援団はちょっと怖いからな。


「「清水――!!がんばってくれ――!!」」

「「清水さぁ――――ん!!」」


 応援団の声援の中、清水はバッターボックスの前に。深呼吸をしてから、軽く礼をして、打席に入る。我が部でも貴重な左打者。セーフティバントで出塁した事もある俊足だ。しかし雲雀ケ丘の内野は優秀だ。一打を期待する他は無いだろう。

 清水が右足を体に引き付ける、一本足打法の構えを取る。応援団のブラスバンドは清水の専用曲を吹き鳴らしている。


「ウチで左打者は1年の清水と宮本だけだから、この楽曲ってほぼ、清水の専用曲と化してるよな」

「清水は女子だし、一本足打法だしリリーフだし、目立つからなあ」

「宮本もがんばれよ」「ドンマイだ」「はあ。頑張ります」


 ベンチの仲間達は、頭上の応援団よりも冷静というか平常心を保っているな。というか、応援団がここまで熱狂していると、応援に関しては俺達いらなくない?という気分になって来ているのかも知れない。少なくとも俺達の声は届かないんじゃないかなー、と思うレベルの凄まじい音量なのだ。ヤバいな今日の応援。去年の甲子園の決勝並みじゃないの?


 ――カキィン!!

 うぉわぁあああああああああああ


 良い金属音と、それをかき消すような大歓声!!打球はショートの頭上を越えてレフト前へ。清水は一塁でストップ。やった――!!と、一塁の上に立って右手を上げている。


 どわぁあああああああああああ

 ずどどどどどどどど


 頭上の応援席から大歓声と。俺達のベンチの天井を踏み抜かんばかりの足踏みの音が聞こえる。コンクリートだから大丈夫だろうけど、足踏みの音が怖い。まだテンション上がるのか?今日の応援団。何かに憑りつかれてるように感じるぞ。

 ネクストサークルの前田が、俺達と山崎の方を振り返って、とても晴れやかな表情を見せた。さっきまでの必死な表情がウソのようだ。


「前田のやつ……なんて安らかな表情なんだ」

「三振しても、山崎に回るしな」

「むしろ三振でもいいかもな。ゲッツー取られるよりはいい」


 冷静というか、いつも通りというか。ベンチの上とベンチの中、テンションの差が相当あるように感じた。ともかく順当に行けば山崎に回る。ひとまず危機は回避できたのだ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【 F県TV専用 実況席 】


「――大歓声!!求めてやまないランナーが出ました!!これで1番打者の山崎選手まで回ります!!」

「いや、油断は禁物ですよ。打球が変な所へ飛べばダブルプレーもあり得ますからね」

「それは確かに……おっと、軽く牽制です」

「リードを取らせたくない、という感じですね。清水選手は俊足です。二塁まで進む事ができれば、山崎選手の打席で同点になるかも知れません。ランナーを一塁までで留める事ができれば、山崎選手まで回っても無得点に抑える事も可能でしょう」


「今この場面で前田選手に求められているのは、ランナーを進塁させる打撃ですか?」

「バントをする場面だと思いますが……練習してますかね。弘前高校の2年3年は、あまりバントができないイメージがあるんですが」

「――打ちました!!おっと、打球は――ライト前!!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 あわやゲッツー、という場面。

 だが、ライトの捕球がわずかに乱れ、一塁で前田をアウトにするに留まった。前田が息を整えながらベンチに戻って来る。


「仕事はしたぜ……」

「何言ってんだお前」「どこ打ってんだ」「お前、死ぬとこだったぞ」


 結果オーライと言えなくもないが、危うく前田が戦犯になるところだった。失点した時の投手が最終イニングで同点のチャンスを潰すとか、もう目も当てられない。今後は打撃練習とかバントの練習とか、そういうのに少しだけ励んで欲しいと思う。


 まあ、ともかくだ。

 ランナー二塁、得点圏の位置で。

 真打ち登場。見せ場だぞ、山崎。


「ミュージック、ゴー!!」


 ぱーぱらっぱぱー。

 わぁ――――っ!!!!


 山崎の合図に合わせてか、ブラスバンドの曲がスタートし、歓声が上がった。山崎がバットを頭上に掲げながら、バッターボックスへと歩いてゆく。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


( ――山崎さんが、歩いてくる )


 キャッチャーマスクの隙間から、そんな光景が見える。うだる熱気の中、野崎 美琴は考える。状況は2アウト。あとアウトひとつ。ランナー二塁。

 打球の方向次第では、ランナーをアウトにできる。三振の可能性だってある。山崎さんを最終打者にできれば――この試合、勝てる、と。


( ――いや、違う。この【 場面 】は、そんな事を考えるところじゃ、ない )


「ツーアウト!!打者と打球に集中して!!守備位置確認!!外野は少しだけ下がって!!」

「「おお――っ!!」」「「オーライ!!」」


 野崎の言葉に、返事を返す雲雀ケ丘ナイン。そう、ここは勝利を意識したりする場面じゃない。それで動きが悪くなってプレーミスが発生したら、きっと一生の悔いを残す。

 互いに勝利を賭けた、最高の瞬間。味方の力は充分。武器もある。そして相手は最強のライバル。こんな【 最高の場面 】で、悔いなど残せない。あとは、持てる武器をぶつけ、駆使して。雌雄を決するのみだ。


( ――まあ、どっちも女だけどね )


 ふふっ。と、少しだけ笑いつつ、定位置に座る野崎。奇しくも、味方は全員女子、相手チームのランナーも女子。そして打者は最強の女子。今この視界に収まっている選手は女子ばかり。まるで女子野球の試合のようだと、そう思う野崎だったが。気を引き締めて、意識を打者である山崎へと向ける。


( 山崎さんに通用するのはナックルだけ。これまでずっと、山崎さんにだけはナックルボールしか投げていない。……けれど、コース制御や投球速度にも駆け引きはある。山崎さんの読みを外す。まぐれ当たりで長打には、させない )


 ナックルボールは最終的な変化の制御ができない。そのため野崎が出せる指示では、投球速度を強め、弱めの二種類。投球コースも四分割くらいにしか指定できない。だが、それで充分な武器になる。特に白露のナックルはキレがいい。減速率が高く、変化開始からの変化率が高い。サインを出す。


( 高速始動からの高め!!さあ来い!! )


 右サイドいっぱいからのサイドスロー。強打するつもりで体をいっぱいにねじって待ち構える山崎の、背後から迫るような投球が、高めの位置から急激に変化する。落ちながら内側へ――いや、内側に曲がったと思ったら、外へと大きく滑り落ちていく!!


( ――キレが良すぎる!! )


 この試合でも一番の変化率。そしてまだ見た事の無い変化。総勢6名のナックルボーラーの球を受けて来た野崎でも捕球を焦るような球が来る。バットは動かない。見送りだ――。ミットではじきそうになりながらも、どうにか捕球する。だが、体勢が乱れた。片手をつくほどに体勢が崩れる。ストライク、とのコールを聞く。


『 走った!! 』


 ショートの松原の叫び声が聞こえ、野崎は素早く三塁を見る。タイミング的には間に合わない。リードも広めに取っていたのだろうが、今の捕球ミスの隙をつかれた形だ。


「バッター集中!!ツーアウト!!」

「「オーライ!!」」「「ツーアウト!!」」


 状況としては、さっきまでと大差ないはずだ。三振の可能性もある。打球の位置次第では、ホームで三塁走者をアウトにもできるだろう。ツーアウトの状況だから、一塁でフォースアウトにできれば打点も入らない。落ち着いてプレーすればいい。


( ――よし、今度は高速始動の外側低め。ワンバウンドしても捕る。さあ来い!! )


 野崎は集中していた。自分の体を完璧に制御する事に。

 だからこそ、見落としていたのかも知れない。

 投手である白露の、わずかな表情の変化に。

 今までに無い大舞台の最終局面で、ツーアウトの状況で。

 三塁走者を背負った、その重圧による、集中力の乱れを。


 そして、ボールが投げられる。

 冷静沈着が服を着ている、とまで言われた白露の。

 はじめての、大失投だった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【 F県TV専用 実況席 】


「――おおっとぉ!!暴投だ!!キャッチャー捕れない!!ボールは我々の目の前、フェンス際まで転がって来たぁ!!急いで捕りに来ます!!ピッチャーのカバーも遅れています!!」

「ああ……こういう事があるから……おやっ??」

「ランナー …………おやっ??これは……」

「山崎……選手。なぜ」

「どういう、事なんでしょうか」

「うーん………………」



※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 外角低めを大きく外れた、何の変化もないくせに速度だけはそこそこの、この状況では大暴投と言ってもいいボールは、野崎の予想を悪い意味で上回ってミットをかすめ、わずかにはじかれた事によってボールはフェンス際まで転がった。慌ててボールを追う野崎。ボールを捕球して急いで振り返った、野崎の目に映ったものは。


 バッターボックスから動かず。

 三塁走者を手で制している、山崎の姿だった。


「「……………………」」

「「「ぉぉ……………………」」」


 急いで三塁に戻る走者の姿を、声も無く見守る、選手達と、観客達。

 暴投直後には大騒ぎだった三塁スタンドの弘前応援団も、今では静かになっている。

 お互いに、頭に浮かんだ疑問を口にする事もできたはずだが。

 誰もが口を閉ざし、この場の行方を見守っていた。


 誰かが、うまく説明してくれるのではないか。そんな期待を抱いていたのかも知れない。自分達から見れば、どう見ても三塁ランナーの清水が余裕でホームを踏めるように見えた。しかしバッターボックスの山崎から見れば、ギリギリ間に合わないように見えたのだろうか。だからランナーを戻したのだろうか?いや、ピッチャーのカバーは随分と遅れていたし、ランナーはすでに塁間の半分を走っていたように見えた。どういう事なのか?


「――さて」


 そんな中、山崎 桜が口を開いた。

 湿度の高い空気のせいか、やけに声がよく聞こえる。近くにいる選手、実況席だけでなく、ベンチから身を乗り出している選手や、それぞれの応援席の前列にいる人間までにも、その声は聞こえた。


「プレーを再開しましょうか」


 笑顔を浮かべつつ、山崎 桜はそう言った。

 その笑顔が、その言葉が。今のプレイの理由を物語っている。

 球場の観客、関係者達にも、今の一連の行動の意味を悟らせる程には。


 まだ得点で負けているというのに、同点のチャンスを自ら放棄した。おそらくは、ただ単に、相手のミスで得点するという状況に『 なんとなく自分が納得しないから 』というだけの理由で。それはチームプレイの観点からしても、いち選手の権限からしても、逸脱した判断のはず。

 山崎 桜という人間の性格を少しでも知る高校野球関係者なら、どう考えるだろう。最近の高校野球スポーツニュースから、山崎と雲雀ケ丘高校野球部との関係を知る人間だったら、どう考えるだろうか。


 情けか。

 傲慢か。


 いずれにしても、甲子園への出場権を喉から手が出る程に欲している球児たち、学校関係者から見れば、山崎の行動に対して憤りを感じる行為だったかも知れない。それは弘前高校野球部を支援する人々であっても、そう感じる行動だったかも知れない。状況からしてもリスクは低く、山崎のこの判断は、チームの勝利という目的からすれば愚かな行為であると。あるいは、『正しいチーム運営』を考える一部の人間からしてみれば、監督の権限に介入するような行為、越権行為として目に映っただろうか。そう感じた人間ならば、今の山崎が取った行動に対して、罵声の一つも飛ばしただろうか。


 だが、この場の観客は違った。

 雲雀ケ丘高校を、弘前高校を。打者の山崎を、捕手の野崎を。投手の白露を。今までのプレーを見て来た観客は、少しの間、沈黙を守った後。


 ――大歓声をもって応えた。

 口々に大声を上げ、攻撃側も守備側も無く、大きな大きな歓声を轟かせる。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【 F県専用TV 実況席 】


「――観客が大歓声を上げています!!実況席も揺れんばかり!!この試合いちばんの歓声と言っていいでしょう!!すごいですね、藤田さん!!」

「……やってくれますねぇ。まったくもって、山崎選手も、今日の雲雀ケ丘も。最近の女子はロマンを食って生きてるんですかね。昔は男の専売特許だった気がするんですが」

「ははぁ。確かに、昔は男よりも女の方が現実主義だ、とか言いましたが。……やはり藤井さんも、今のは『 わざと 』だと思いますか?」

「間違いなく。『 打席勝負 』の得点にこだわった、それだけの事でしょう。ランナーがホームインしても、まだ同点ですし、こだわる必要も無いと思えるんですが……これも弘前高校の芸風ですかね?平塚監督の選手教育はどうなってるんだか」

「――はい、タイムがかかりました。選手がマウンドに集まっていきます」

「いい判断ですね。勝負の行方を、よく見ておきましょう」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「……山崎さんも、相当だよねぇ」

「みこっちも相当イカれてるクチだと思ったけど、それ以上だよね」

「いや、アレは自信に裏付けられてるよ。傲慢だよ」

「何それ。どっかの魔王か何かか」

「言い得て妙すぎる」


 マウンドでは守備に出ている雲雀ケ丘ナインの全員が集合して、いつもの練習時間のような雑談じみた会話をしていた。いちおうは投手の白露をリラックスさせようとしているのだろうが、おそらくは今現在の率直な気持ちだろう。


「白露。落ち着いた?」

「はい。さすがにアレを見ては」


 だよねー。と、笑い声が上がる円陣。


「落ち着けよお前……って、言われちゃ、ねぇ?」

「言ってないけど。態度で言われてるよね」

「ありゃ打つ気だよ」「一番出来のいいヤツを投げろよ!!」

「相手は山崎さんだしね!!」「胸を借りる気でいこうか!!」

「一回でいいから、貸して欲しいよねー」「ほんとそれ」


 だはは、と笑いの上がる円陣。


「さて、どこへ打球が飛んでも全力で対応。バッター勝負。基本的にファーストへ送球。いい?」

「「「はいっ!!!!」」」


 マウンドから散り、守備位置へと戻る雲雀ケ丘ナイン。自分も定位置に座りつつ、相変わらずの存在感を放つ、最強の存在を見上げる野崎。


( 情けをかけたとか、そんな理由じゃないよね。最高のパフォーマンスを出している相手を、真っ向から打ち砕く事。それを望んでいるだけ。やっぱり、山崎さんも『 わかってる 』っていう事なんだ。やっぱり……最高の相手だ )


 野崎がサインを出す。高速始動からの内側高め。今の白露のナックルのキレからすれば、ベストのポイント。白露がうなずき、セットポジションから投球を開始する。

 今度は完璧な投球だった。速めの初速から急減速。揺れつつ滑り、また揺れて落ちる。その不規則に変化する軌道に合わせて、ミットを動かす。間違いなく、この試合でも最高の変化のナックルボール。


 軌道を変化させていく白球を、完璧にミットに収めるべく。野崎の集中力が最大限に高まる。いつもよりも少しだけ時間が遅くなるような感覚を覚えつつ、体の重心を移動させつつミットを動かしていく。そして。

 野崎のキャッチャー人生で初めて見る、異様な速度で振り出されるバットが。ボールのシルエットを捉える瞬間を、野崎はハッキリと見た。視界に突然出現したバットが白球を叩き潰す勢いで捉えた、その瞬間を。

 山崎 桜の、この試合最高のスイングを。雲雀ケ丘の、この夏最高の一球を――最高のスイングが打ち返す、その瞬間を。


 ――カッ

 木製バットの真芯へと硬球が当たる音が響き、白球は飛ぶ。


 鋭く一直線に飛ぶ白球の軌道に向けて、懸命に走るセンター。しかし白球は選手を追い越し、さらに遠くへと飛んでいく。やがてボールはフェンスの向こうへと消え、選手の足は止まった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【 F県TV専用 実況席 】


「入りました!!ホームラン!!ついに山崎選手のバットが、雲雀ケ丘ナックル姫軍団の魔球を打ち込んだ!!弘前高校、これで逆転です!!試合が引っくり返った――!!」

「……ううむ……やるつもり、だったんでしょうが……もしかして、さっきのは回りくどい本塁打予告だったのか……?いや、まさか」

「これで今度は、雲雀ケ丘が追う立場になりましたね」

「厳しいですね。全力で投げ込んで来ますよ」

「ああ……山崎選手がマウンドに立ってから、まだ一球も前に飛んでませんね」

「はい。ですが、今日の雲雀ケ丘が試合を投げ出すような事は無いでしょう。それこそが、今日の雲雀ケ丘の姿勢ですから」

「次は山崎選手の【 剛速球 】という魔球との対決、という事ですね。試合はまだ続きます!!引き続き試合の行方に注目しましょう!!」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 その後。弘前高校の攻撃は、第2打者の安藤が打ち取られて終了。俺の出番は無かった。


 9回裏の雲雀ケ丘の攻撃は、山崎の全力投球によって完全に封じられた。全球が全力の高速ジャイロ。県営球場のスピードガンによれば、球速は全球が160キロオーバーの、文句のつけようのない剛速球だった。


 県下高校野球史に残る、伝説的な『 意地のぶつけ合い 』とも呼ばれる試合は、こうして終わった。【 試合のやり方と勝ち方は、自分で決めさせてもらう 】そんな、高校球児の意地と意地の張り合いのような試合だと。そう評価されているようだった。

 なお、この試合が後にごく一部で【 漢女おとめの戦場 】などと呼ばれるようになったと聞くが、それについては異議を申し立てたいと思う。男子もほぼ半分いたし。目立つ働きをしていなくとも、男子だって頑張っていたのだ。たとえ直接の得点に関わっていなくとも、弘前高校の男子部員の事を隅っこに置かないで欲しい。


 現代は男女同権である。男子に気配りを。そう思った俺だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【 試合結果 】弘前 2 ― 1 雲雀ケ丘

弘前 0 0 0 0 0 0 0 0 2 |2

雲雀 0 0 0 0 0 1 0 0 0 |1

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【 2対1で弘前高校の勝利。県予選に優勝 】

【 弘前高校、全国高校野球選手権大会への出場権を獲得 】


やりたい事をやっただけだ。

……筆者が。外野が文句言いそうな事を、当事者が大真面目にやって「放っておいてもらおうか」みたいな感じのシチュエーションが好きなだけでして。合理的に非ず、というのも時と場合によってはアリかなと。もちろん相手に寄りけり、みたいな。今回の試合は(というか前回からの雲雀ケ丘は)そんな感じでした。


毎度の誤字報告機能の活用、まことにありがとうございます。新しく間違いを発見されましたら、ご指摘いただけると助かります。ギャグとして故意に間違ってる部分以外は即座に修正しております。本当に助かってます。今後とも、寛容な気持ちでお付き合いいただければ、と思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] なろう野球小説の光ですね
[良い点] 更新お疲れ様でございます。 今回の一番は解説の藤井さんが放った一言! 最近のの女子はロマンを食って生きている!で決まりですね。カッコいい!(小学生男子風に やっぱりこう言う熱い展開は美味し…
[一言] 弘前高校もそろそろ山崎式走塁術を覚えていいころかな 正直今回はナックルだったこともあって、なんでランナーが積極的に走らないんだ感がけっこうありました あまりにもナックルが強く描かれすぎて、ち…
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