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09 ラクーンの実力を感じる

本日の連投 その1 です。適量か不明ですが、小分けにして投稿しています。

 新生・弘前高校野球部、練習試合の第2戦が始まった。

 相手は県下の社会人野球の雄、木津川グリーンラクーンズ。

 弘前高校の新1年の野球部員にして、練習コーチ兼、影のフィクサー的な何かであるところの山崎 桜が、個人のコネで取り付けた練習試合の相手だ。


「…で、実際のところ、どんな知り合いだったんだ?仲が良さそうには…」

 ヘルメットをかぶり直している山崎に、山田キャプテンが聞いた。山崎は『知り合いだ』くらいにしか説明していないため、細かい事情は知らされていない。


「中学の3年間、社会人野球リーグで傭兵みたいな事やってましてね?」

「…あぁ…うん。それで?」

 聞こえた不穏な単語はスルーしたようだ。もう慣れた、という感じ。

「リーグ全勝を阻止してやったり、試合中のプレーで挑発しまくってやったり、まぁ普通ですよ普通。仲のいい喧嘩友達ってとこですか。お互いに切磋琢磨というか。」

「…あぁ…山崎の通常営業ってとこだな…」

 そうですキャプテン。『普通』って、地域や人によって異なるんですよね。

「でもまぁ、私の所属してたレッドフォックスっていうチームが、わりと不真面目なところでねー。おかげで私のイメージもなんか悪くなっちゃったみたいで」


「「「いやそれは違うと思う」」」


 周りで聞いていたチームメイトが瞬間的に振り向いて異口同音に言った。俺もだ。

 そう言っている間に、山崎は1番バッターとしての準備を終えた。相手チームのピッチャーが投球練習をしている間に、素振りをして調子を確かめている。


「今日は高校生同士の対戦でもないし、お気楽に、楽しくやりましょう。もちろん、試合形式の練習ですからね。相手のプレーもよく見て、自分のプレーも考えながら。あとで反省会する時のために、自分が何やったか、周りがどう動いてたか、よく覚えておいてね!」

 コーチらしく真面目な事も言いつつ、素振りをしながらの下半身の柔軟を終える山崎。


「さぁーて。ちょっくら害獣をぶんなぐってくるかぁー」

 相手ベンチから『なんだとコラァ!』とか聞こえた気がした。

 山崎はバッターボックスへとゆっくり歩いて行く。


「なぁ北島。害獣って?」

「あー。そのまんまっスよ。某信用金庫のイメージキャラクター知ってますか?黄色いアライグマなんですけど」

 聞いてきた岡田先輩に振り向きながら答える。

「ええと…確か『あらいぐまラスコル』だっけ。昔のアニメのキャラ?だよな。」

「それです。『ラクーン』って、『アライグマ』の事なんですよ。」

「ほぉー。そうなのか」

「ちなみにアライグマって野生ではかなり強暴で。雑食で木の実も果物も小動物も何でも食べます。基本的に農家の害獣っスね」

「すでに可愛くないな。イメージキャラクター」

 確かになぁ。アニメのキャラは可愛いんだけど。


「なお、イヌ科の野生動物なんで、寄生虫やら狂犬病やらを媒介するので、本場では危険な生物として認識されています」

「イメージが…」

「あと、『あらいぐまラスコル』の名前は、英単語の『rascal』から来ているようです」

「その『rascal』の意味は?」

「可愛いところでは『いたずら小僧』『わんぱく小僧』でなきゃ『ごろつき』『ならず者』」

「信金のキャラとしては微妙な気がする」

「つまり日本語的に例えて、農家の人がアライグマの被害を受けると【クソガキがまた出やがった!】【あんのゴロツキどもが!!】みたいな感じだと」


 直後に相手チームのベンチから

『んだとコラァ――――!!!』


「………って、あいつが言ってました」

 俺は山崎を指さして言う。

『ウソはついてないもーん。アライグマって害獣じゃん!』

 ですよね。山崎から聞いたところによれば、人間様のラズベリーパイを横取りして食いまくったエピソードもあったそうだし。現に日本でも、ペットが野生化して日本の自然の生態系を荒らしてるとか、スイカや野菜の農作物被害がひどいとか。信用金庫のキャラでいいのかなぁ。


『おねがいしまーす♪』

 無駄話をしている間に、山崎がバッターボックスに入った。ここからは真面目にいかないとな。社会人実力チームのピッチング、それを打つ山崎。どちらも勉強になるはず。


 スパァ―――ン!!


「速い!!」

「150近く出てるぞ!未完の最終兵器並だ!」

「いや、それよりもノビがある球だ。ちょっと打ちづらいぜ…」

 急にざわめく弘前ベンチ。

 前回の大沢木高校のピッチとは雲泥の差だ。比較しては失礼なレベルだ!!


『見たか小娘ぇ!これがウチの新人の速球だ!おどろいたか!!』

 わはははは。と笑っているのは相手チームの監督。ノリノリだな。山崎と気が合うタイプなのかもしれん。案外、喧嘩友達というのは本当なのかも。

 そしてノリのいいのは我が部の暴れん坊も同様である。


 左手で人を指さす形を作り、三遊間の方向を指さす。

 なんか聞いたことあるな。伝説のメジャーリーガーのやつ。『そっちに打つぞ』という予告打撃のポーズだ。

 ―――次は打つぞ。そっちだ。


『全力でいけー!!!』

 相手チーム監督が吠えた。まぁ怒るよね。ぜったい。

 相手ピッチャーの顔つきも変わる。さきほどよりも、気持ちゆっくりと腕を振りかぶり、渾身の振り抜きで球を放つ!!!


カキ―――ン!


 もちろん打たれた。あと予告通りに三遊間の頭上を、かなりの速度で抜けてレフト脇まで飛んだ。あいつの走力ならば2塁が余裕。山崎は2塁で止まる。そして。


『いやぁ、お兄さん、なかなかやるねぇ。わりと球も重かったし、期待の新人だね!次はもっとがんばってね!!』

 唖然として打球の行方を追っていたピッチャーに、そんな声とともにウインク。

 あんまし煽ってやんなよ。新人さん可哀そうじゃんか。

『森崎てめぇ何やってんだー!女と思って侮ってんじゃねーよ!!』

 ほら監督さんも怒ってるしさぁ。

『そいつは小娘の皮をかぶったバケモンなんだぞ!!』

 いやそれはちょっと言いすぎじゃないかなぁ。ちゃんとおっぱいもあるし。まぁ喧嘩すればチンピラの5人は完封するし容赦しないし、見た目は可愛いけど女子力が微妙だし。掃除と裁縫は苦手だし、作る料理は切って焼くか煮るかの男料理だし。見た目以外は気安い男友達な感じだけど、せめてバーバリアンとかアマゾネスとか。


『ほらー!あと続きなさいよ!それから悟!打てなかったら折檻だから!!』

 俺だけ扱いがヒドイ。鬼女とかでいいかな。

「えっ折檻」「それなんてプレイ」「あとで詳しく聞かせろ北島」

 風評被害もヒドイなぁ。これだから男子高生ってば。ほら次のバッター、早く準備して。もう俺まで回るのはほぼ確定なんだから。

 なお、今回の弘前高校のオーダーは以下の通り。


1番打者 山崎 桜 [ピッチャー]1年

2番打者 竹中 真 [ファースト]1年

3番打者 小竹 正史[センター]3年

4番打者 北島 悟 [セカンド]1年

5番打者 山田 次郎[キャッチャー]3年

6番打者 松野 康介[サード]2年

7番打者 西神 誠 [ライト]2年

8番打者 古市 博昭[レフト]2年

9番打者 岡田 健史[ショート]3年


控えピッチャー 川上 進二 2年

控えピッチャー 前田 耕治 1年


 正直なところ、野手としても打者としても、抜きんでているのは山崎 桜と、その子分枠である俺、北島 悟のみ。かろうじて山田キャプテンがスイング速度と選球眼で頭ひとつ抜けている(キャッチャー業務の賜物かもしれない)。そのため、現状では守備と打順は、超!適当である。

 夏大会予選のオーダーが決まるのは、今日の試合の内容次第かもな。

 なお、育成途中で素人同然の前田を含め、ピッチャーも最終回までには全員出す予定。


 まぁ若干おかしなところもある。

 山崎が先発ピッチャーになっているところだ。

 あとで岡田先輩とポジションチェンジする予定なのだが、その理由というのが


『練習試合の成立報酬として、全力の私を見せてやる事にする』


 という、山崎の言によるもの。山田キャプテン(正捕手である)が、小さく『ヒィっ』と言っていたような気もするが、キャッチャーの防具はしっかりしているから大丈夫。

 捕球失敗しても、イレギュラー処理の練習だと思えばいいんスよ。

 まぁ山崎の事だから、それだけでは済まないと思うけど。


 そして2番打者、竹中。1球目を見てから、2球目――落ちるカーブに引っかけてショートゴロ。余裕で1塁送球でアウト。2塁の山崎は微動だにせず。

 3番打者の小竹先輩。初球打ち。レフト方向に打ち上げ――飛びすぎかつ遅い。レフトの前ダッシュが余裕で間に合い、フライでアウト。

「くっそ、当たるんだがな…思ったとこに飛ばせねぇ…」「意外に重い。回転数かな?」

 ベンチに帰ってきた小竹先輩と守備の準備をする竹中とが感想を言い合っている。


 そこそこの速さで重い、か。わざと回転数を抑えているってんなら、MAXスピードはもっとあるな。現状はまだ見せ球か…


『悟ー!!だいたい分かったわね!全力でいけ!!!』


 オーケー、ボス。

 などと昔の漫画の外人選手(この漫画は山崎にWeb版を読まされたのだ)ばりに返事を返しそうになったが、これは俺と山崎にだけ通じる一種のサインだ。といっても作戦などではない。

 【本気でいけ】ではなく、【全力でいけ】という事。

 奥の手を出さずに普通にやって修行しろ、って事ですね。わかります。

 でもこの人、間違いなく大学野球あたりの経験者でしょー。ちょっと厳しくない?


「ま、なんとかしましょうか、ねっと。」

 まだ1回。いくら4番バッターといえど、初球から決め球は出すまいて…たぶん。

 バッターボックスに入る。

 ピッチャー、ベース上から微動だにしない山崎を軽く見てから、投げる!!


カキ――――ン!!


 ライト線フェア。打球の速度もそこそこで余裕の2塁!その間に、山崎が帰塁し1点。どうすかボス!ちゃんと仕事しましたよ!…と山崎を見ると、ベンチの皆とハイタッチ中だった。こっちを見ようともしねぇ。こん畜生。

 そして『どっこいしょ』とか言ってベンチに座る。ちょっとは北島よくやった!とか言ってくれないかな?ねぇ!!


『山田センパイがんばってー』『北島よく打った!ナイスバッチ!』

 山崎の声援はネクストバッターの山田先輩に。俺にはチームメンバーの声援。

 うん普通の野球部。普通普通。うちのボスは厳しいしな!


 そして相手ピッチャーも優しくはなかった。完全に本気の速球とスライダー。速球はおそらく150キロ手前。山田先輩はファウルを含めた三振に終わり、1回の攻撃は5人、得点1で終わった。

 まぁ分かってはいたつもりだけど。

 普通にピッチャー上手い。速いし曲がるし適度に落ちる。キャッチャーのリードも良い。緩急もつければ、コースの揺さぶりもかけてくる。打球の処理も無駄がなく速い。内野手の打球への反応も速いし、フライの処理も正確だった。目もいいし守備の練度も高い。


 普通に強いな!!1回の攻撃で8点入れちゃった大沢木高校とは段違いだ!いやこっちが当たり前っていうか、チーム能力が単に高いんだけどさ!!

 ともかく先取点は入れた。つぎは守備だな。…荒れなきゃいいけど。



本日の連投 その1 でした。誤字などが後日発見された場合は改稿します。

※致命的な間違い(部員の人数!未定だったキャラの名前を登録していた時にミス!!)を発見してしまったので急きょ改稿しております。誤字発見と重複するかもしれません。ご迷惑をおかけします。

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