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08 グリーンラクーンズ戦、開始

次回から少し間があくとおもいます

【木津川グリーンラクーンズ 松川(監督)の視点にて】


 待ちに待ってたこの日が来たぜ!

 今日こそあの【赤い悪魔:山崎 桜】に一泡吹かせて…いや、勝利する!!


 はやる気持ちで県営球場(小さいが観客席とバックスクリーンもある)へと乗り込み、赤い悪魔率いる、弘前高校野球部を待つ。天気は快晴。風はホームから見て左に微風。上々のコンディションだ。前日に雨もなく、地面の状態も良好。試合は午前10時の開始だから、気温上昇もそんなに気にしなくていい。


「絶好の試合…いや、討伐日和というべきか。ふはは」


 まぁ、相手チームも弱小高校だというし。悪魔の事だから手下の教育中という事なのだろう。おそらく来年か再来年を見越して、甲子園出場を目指していると思われる。

 そのための教材として『あえて強いチームと戦わせる』ことによる教訓やら経験やらを積ませ、学習させるのが目的なのだろうが…


「あの悪魔の球を打ち砕き、打者としての奴を打ち取る。我らがチームのピッチャー陣と、打線の成長ぶりを見せつけてくれるわ。高校生をキャン言わすのはついでに過ぎん。」

「ちょっと恨みつらみ持ちすぎですよ監督ぅ」

「JCあらためJKに恨みの念とかぶつけんでくださいよー」

 俺の言葉に、我が精鋭たちからのクレームらしき声がかかる。なんでだ。


「お前ら!あの小娘に受けた仕打ちを忘れたか?!去年のリーグで全勝できなかったのは、あの悪魔のせいだぞ!!ホームランを打ちゃあ打ったで『かんたーん』とか『ごっつぁんです』とか言ってヘラヘラ笑って塁を回りやがるし、投げたら投げたでストライクや凡打で切って落とすと『ふへへ』『ほひひ』とか言ってニヤニヤ笑いやがるしよ!!しまいにゃ主審に『挑発行為は慎むように』とか注意されてただろが!!塁に出たら走る必要もないのにウロチョロするし、一度なんか1塁2塁間で牽制球で挟まれたのに、足だけでひっかき回して3塁まで走られたじゃねぇか!馬鹿にしやがって!!」

「…あー、気持ちはわかりますけど、少し落ち着いて」

「これが落ち着けるか!しかもあの小娘、試合が終わって礼が終わった後、『サービスありがとうございましたー♪』とか余計な一言を付け加えるもんだから、俺を含めて八百長疑惑のヒアリングまで受けただろうがよ!!どちくしょうが!!!」

「…確かにアレはきつかったですね」

「何がきついって、『ぜんぶ実力で負けました』と証言するのが何とも…」

 そうだろうそうだろう。

 実力のある者は礼儀正しく謙虚であるべきだ。少なくとも表面上は。

 レッドフォックスの気風に染まったのかも知れないが、そんな事は我々には関係ない。被害者として、我々には報復の意志を持つ権利がある!もちろん正々堂々、実力でな!!


 そんなチームトークをしていたら、敵チームである弘前高校野球部が到着した。荷物を軽く片付けると、監督と思わしき男と、問題の山崎 桜が連れ立ってやって来た。


「はじめまして。監督の平塚と申します。この度は、練習試合の申し込みを受けていただき、ありがとうございます」

「山崎です。ご迷惑おかけします。よろしくお願いします」

 折り目正しい礼。…おやっ。なんだこの謙虚な態度の少女は。ホントにあの悪魔か?

 高校の学校教育の賜物か?


「いやいや、こちらこそ。今日はよろしくお願いしますよ。」

 大人らしくにこやかに笑って対応する。

「ところでひとつ、提案があるのですが。」

 悪魔め。やはりさっきのは擬態か。何を言い出すつもりだ?

「グリーンラクーンズと私は知らない仲でもありませんし、草野球的に、アットホームな雰囲気でプレイしたいと思うのです。…というのも、当方の野球部は人数不足という事もありますが、入学して間もない1年生も含まれていますので…礼儀の面がどうにも」

 その口で何をぬかすか。…まぁ、それは問題ない。こっちも興奮して暴言(に近い)言葉が口をついて出るかも知れないからな。


「ええ、こちらは問題ありませんよ。」

 ちらり、と相手監督を見る。相手の監督は、ただコクリとうなずいた。やはり山崎が敵チームの支配者…最も発言力の大きい奴だな。上下関係が年齢と逆順だぞ。


「では、プレイ前の選手整列の際には、監督も含めて整列という事で。審判員にはこちらから話をしておきます。よろしいですか?」

「問題ない。よろしくお願いします」

 そこで小首をかしげるポーズを取るな。見た目だけは可愛いんだが、騙されんぞ!

 相手チームの提案(というか赤い悪魔の提案だ…)に了承する。


「…何が目的なんでしょうかね?」

 後ろから我がチームの選手(今年準レギュラーに入った若手)が聞いてくる。

「奴のやりたい事など一つだ。すぐに分かる」


――――そして、軽い練習を終えて、試合開始前の選手整列。

 普通なら選手だけが整列するところに、監督も立ち会うようにして、審判員の脇に立つ。

 相手チームの山崎選手が(1年のくせにキャプテンの隣に立っていやがる)審判員に対し、先ほどと同じ説明を始める。


「…という訳で、簡単に言いますと、プレイ中に相手チームの選手等と会話をする事を、大目に見て欲しいのです。相手チームからの抗議が無い限り、遅延行為と取らないようにしていただきたい、と。警告対象にもしないで欲しいのです。」

『ふむ。ランナーが出塁ずみの場合は、どうするつもりかな?』

 山崎の提案に、主審から質問が出る。事前に両チームが了承しているという事で、あとは判定上の問題の確認のようだ。…本日はほぼ草野球扱いだからな。おそらくは地方ルール扱いのようなものだろう。


「ランナーがいる場合も、会話中に盗塁なども問題ないという事で。逆に会話をフェイクとして牽制球を投げた場合も、アウト判定は普通にお願いします。」

『了解した。両者とも、問題ありませんね?』

 両監督がうなずく。そこへ山崎が追加の発言を続けた。


「あと、これが一番重要なのですが…」

『何かな?』

「審判以外への、セクハラ発言を含む暴言の一切を不問としていただきたい。」

 しん、と、時が止まったかのような瞬間が訪れた。


『…あー、それは、つまり』

「お姉ちゃん、でかいおっぱいつけてて、まともに投げれんのかよー、みたいな発言もオッケーという事かな?」

 俺はすかさずフォローする。こいつのやりたい事は分かっている。


「その通りです。もちろん、男性に向けてのセクハラ発言も許可で。直接揉む、舐めるなどの痴漢行為以外ならば、あらゆるセクハラ発言を許可という事で。」

「暴言の一切を不問とする、という事は昭和末期までまかり通ったという、相手チームへのヤジの飛ばしまくりも一切問題ないって事だな?」

「もちろん問題ありません。」

「脅しにも聞こえるような怒鳴り声とかも?」

「青臭い小僧どもに、やりたきゃどうぞぉ?恥ずかしくなけりゃね?」

 山崎がニヤニヤ笑いで俺を見る。その目。その笑い顔。久し振りだな。


「それはたった今、からかな?」

「そりゃあもちろん?」

 ほほう。


「そりゃあ願ったり叶ったりだぜ性悪狐の悪魔め。いつまでも好き勝手できると思うなよ。今日という今日は叩きのめして泣きながら帰らせてやる。」

「今日も小娘にやられて、泣きながら晩酌する事になるんじゃないの?」

 このやろう。


「少し見ないうちに随分と胸が育ったようだが、そんなんでリリーフピッチャーできんのか?サブマリンのフォームでバランス崩して倒れなきゃいいがな?」

「そっちの選手はだいぶ腹が突き出てきたようね。練習不足?ビールの飲みすぎ?空振りで腹に当たってホームラン!でもストライクでした!みたいなギャグはやめてよ?」

 ふははははは。言ってくれるじゃねぇかこの小娘が。


「ははははは。ボコボコに打ってやる。コールドの覚悟しておけよ!」

「ぷー。くすくすくす。それって自分のチームの事じゃないのぉ?」


『…これは昭和の町内会対抗野球か、何かかね?』

『昔はこんなのありましたね』『懐かしいですなぁ』



 かくして。

 お互いの選手と、呆れ顔の審判員に礼をして、俺たちの試合は始まったのだった。





プレイ中にベラベラしゃべると意図的な遅延行為として警告対象になり場合によっては退場の可能性があるので、公式戦でないのをいいことに追加条項を入れたのです。


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