3話 「小石と石と岩と、木の棒」
体の痛みもだいぶ良くなったので、護身用に近くにあった太めの木の枝を手に取って俺は崖を登り始めた
「スライムばかりだし、いけなくもないか」
薬草が取れると分かったのだから、ちょっとの無茶はするべきかと考えていた。
今までスライムを避けていた道には青い光がなかったこともあり
少しの期待を抱き、元いた道へと戻った俺はスライムの見える方向へ歩き出した。
物音を立てないように、こっそりとスライムに近づく
1メートルといったところまで近づくと、右手を大きく振りかぶり渾身の一撃をスライムに与えた
「でぇぇぇいっ!」パチーン
水面を叩いたかのような音が響き渡る
続けて三発叩いたところで、ようやくスライムは消えていき青い光を残すのみとなった
「まさか体当たりの方が強いとか、俺って腕力弱い?どうするかなぁ…」
いくら硬そうな木とはいえ、太さ2cmほどの木の枝も折れずにいる
むしろ、こんなもので叩いて枝が折れてたらどうするつもりなのかと
『そんな時は体当たりだな…』などと自問自答していた
先程まで一撃で沈んでいたスライム相手に4発もの打撃が必要なのだから、ショックは大きい
しかし、どうにか倒せたのは事実だし気持ちを切り替えて
より効率よくダメージを与えられそうなものは無いかと周りを見回す
スライムは声を全く発さないので気付けなかったのだけれど
実は今の戦闘時に響く音で、周りの魔物を引き寄せていたのだった
「………」「………」
無音で迫り来る2匹のスライムが目に映り、俺は一歩後ずさる
およそ2mほどの位置まで接近していたスライム達は突如身体をプルプルと震わせ、次の瞬間には大きく飛びかかってきたのだ
「や、ば…」
身振り構わず逃げようとする俺の背後にスライムの強襲
強い衝撃を背中に受け、一目散に逃げようとした俺の身体はそのまま3、4m吹き飛ばされ薮の中に全身を突っ込んでいた
「いっつつ…」
すぐに身を低くしたまま離れ、HPに目をやると2割ほどのダメージを受けているのが確認できる
逃げるべきかとも思ったのだけれど、スライムを倒せないようでは森を抜けるのも難しい
突進を喰らって2割ならまだ耐えられるだろう、と息を整え振り返る
「ん?」
手に違和感があった
木の枝が無いのだ、ちょうど持ちやすく叩きやすく折れにくい
俺の愛用の木の枝がどこかにいってしまった
「ちょっ!なんかねぇのか、あぁぁもうっ!」
地面に落ちている石を手当たり次第投げつけていた
5m先の50cm程の的めがけて
焦った気持ちのせいでなかなか的には当たらず小石がどんどん無くなっていく、もう見える範囲にあるのは砂利のようなものと頭ほどある大きめの石が3つほど
もう仕方がない、と覚悟を決め大きめの石を持ち上げるが思った以上に重い
「んんんぇぇぇいっ!」ドンッ
15kgはあったかと思われる石を持ち全速力で突進し、そのまま押しつぶしてやった
「へへっ、やってやったぜ…」もう1匹の方へ視線を向ける
息を整えていると、またもスライムはプルプルと震え始めたので
跳び始めた瞬間に横に避けた、意外にも簡単に避けることができるものだからこれなら大丈夫そうだと思ってしまう
「はっはっは、俺の勝ちのようだな」と、どんどん独り言が増えていった
すぐさま石を持ち上げ、着地していたスライムめがけてタックルをかます
ファンタジーへの憧れはあったのだが、まさか当人たちはこんな苦労をしているものなのか…
と、思ってしまうのだった…