外伝「ローズ」
「お姉様!今日はご一緒にワーム退治に行きませんか?」
「んん…ミドちゃん、まだ朝やよ…」
リキングバウトには元気な二人の少女たちがいる
まだ若いっていうのに立派に冒険者やってんだよ全く…
「おや、嬢ちゃんたち今日はどうしたぃ?」
「おっちゃん!ワームの群れがダンジョンから溢れてんだろ?ちゃちゃっとやっつけてくるよ!」
ミドの威勢のいい声に周りの冒険者もついついやる気になってしまう
「ふわぁ〜あ…ミドちゃん、ちゃんと準備してかな危険やで?シュウらも呼ぼや?」
「ええやん姉様、私らだけでも十分やって」
世界から何故かスキルが消えたのだけど、わたし達は身体がしっかりとそれを覚えているようだって
とは言っても以前より力は出ないし、相変わらずダンジョンに魔物はいる
精霊王様や聖龍様も時折この辺りを飛んでまわって楽しげにしているのだからきっと世界は平和なんだと思う
だということは、もしかしたら魔物が溢れているのも誰かのお遊びなのかもしれないな
例えばダンジョンマスターみたいな人の…
「ほら姉様アレ」
「わかったよミドちゃん、ちょっと待っててや」
世界は何かを忘れたように自然で平和だ
きっと何か大事なことがあったはずなのだけど、思い出せないと言うことはほんの些細な出来事だったのかもしれない
エンチャントした矢にはワームの嫌いな火属性をつけてやったさ
広範囲に広がるタイプのね
ミドちゃんが射ってる間にもう一本用意してさ
後でワームから取り出した牙を集めて素材屋に持っていけばいいお金になるんだよね
まぁ元々王族のミドちゃんにはあまり必要のないものなんだけど
わたしは今でもお金って大事だと思う
教会に来る子供達にはしっかり勉強してもらいたいし
またみんなで美味しいご飯も食べたいな
「姉様、次!」
「はい、どうぞ」
ミドちゃんが矢を番えたんだけど、色が違ったんだよね
先から尾まで真っ赤に染まった矢で
あぁ、昔こんなのを射ってる人がいたなぁ…なんてぼんやりしてた
『ドカーン』って爆発がしたのは直後のことだった
二人して飛び散ったワームの粘液まみれになっちゃってさ
「姉様のイジワル!」
そんなつもりじゃなかったんだけど、ミドちゃん少し拗ねてて
仲直りにスパイスの効かせたお肉を晩御飯に用意したっけ…
なんか懐かしい味がしたなぁ
私達、きっとこうやって平和に暮らしていけるんだと思う
どちらかが良い旦那さんでも見つけない限りは、だけどね