第6章完結26話「魔王と勇者」
急に空は暗くなり稲光があちこちで発生している
なるほど、もうすぐ雪でも降るのだろうな
「もう嫌や!ウチ…はよぅ帰りたい!」
ローズは雷を怖がっている
魔物が放つものなら大丈夫だというのに何が違うと言うのだろうか
もちろん天変地異の前触れなどではなく、毎年この時期にはよく見られる光景なのだとミドは言う
そのはずだったのだけれど
「ほら!もう嫌や、変な魔物まで飛んで来たやん!」
そりゃあビックリもするさ、この世界には魔物はいないはずなのに
いや正確には『双子島には』なのだけど
「魔物って言うより翼の生えた人に見えますし、精霊さんじゃないでしょうか?」
「あれが精霊なら負の精霊か悪の精霊か…」
徐々に近づくそれをピノが精霊と言うのだけど、どう見ても悪魔に近い
ちなみに闇の精霊は会ったことがあるが、もっと可愛らしい
念のため武器を取り出して様子を見る
ほんの少し離れたところに、それは降り立ち口を開いたのだった
「あー…まずは謝ろう、勝手に勇族領へ侵入したことを」
「幽族領?」
「やっぱ魔物ちゃうのぉ?」
双子島の事だろうか?
「我は魔族の王、魔王と呼ばれておる
以前に我領地に人族と獣人族の者が侵入したと言うのでな、調べを寄越したのだがそれまた人族の訓練中に連絡が途絶えてしまったのだ」
そんなものだから、魔族領でもこちら側に攻め入るような話も出てしまって収集がつかないのだと言う
魔王自身はそれをやめるよう働きかけているのだが、魔神四皇と呼ばれる強者達がどうも勝手しそうで怖いのだそうだ
「魔王が怖いって、むしろ人間なんか皆殺しにしそうな気がするんだけど?」
「え?だってお主勇者であろう?
我らとて、無下に命を落としたくは無いからな」
「いやいや、リキングバウトでも勇者って呼ばれたけどそんな大それた存在なんかじゃ無いですよ?」
「やっぱり勇者と呼ばれておるのではないか」
うん、だけど違うんだってば
「まぁよく分からんが、実は少々お願いがあってな」
魔王は話を続け、その後ろでは稲光
こうやって見ると魔王なのだが…まさかのお願いをしてくる魔王かぁ…
「キャァァ!!」
ローズも叫ぶし、その横で肩を寄せているミド
レギはポカーンとしているし
「…なんだこれ?」
「ん?勇者よ、どうかしたのか?」
『あ、いやなんでもない』と首を横に降る
「実はな、お主らの実力をノーブルの阿呆どもに見せつけてこちらへ侵攻しようとするのをやめさせようと思うのだ」
何をさせられるのかと思ったら、取り出した木偶人形に技を使って欲しいのだと言う
これには受けた技を記憶したり数値化や分析を行なったりできる機能が備わっているのだそうだ
「それって俺たちの手の内を見せろってことになると思うんだが」
「そ、そう言われればそうであったな…」
残念そうにする魔王
「別に良いんじゃない?私達そもそも勇者じゃないし」
ピノがそう言うので、とりあえず承諾したのだけれど
「技って言ってもなぁ…」
魔法も微妙だろうし剣なら攻撃力だけはあるけれど…
とりあえず思い切り斬りつけて見たのだけど、魔王も難しい顔をしている
「なぁ、ピノがこの剣使って連撃与えてくれない?」
「え?良いけど…それ魔力吸われちゃうんでしょ?」
単純にダメージ量ならピノの方が良さそうだしお願いすることにしたのだ
「私の剣よりちょっと重いな、でも双剣って面白いかも」
ブンブンと素振りをするピノ
なかなか様になっている
「じゃあ行くよ?」
「いつでも頼むぞ勇者たち」
《双炎乱舞》
まんまなネーミングだけど、そんなこと別にどうでも良かった
放たれた剣技は次々と木偶人形に吸い込まれてゆき、わずか1秒にも満たない時間の間に48回のダメージが蓄積されていた
「10万超え…だと?!」
魔王は木偶人形のデータを見て驚いていた
どういう数字なのかは知らないが、俺の1万未満の数字からその脅威は伺える
データとしては99999までしか表示されない様で、勇者ならば3万から5万といったところなのだそうだ
ちなみに10万の攻撃をくらったら、魔王ですら命が危ういのだという
しかも属性や毒の効果無しの数字なのだから実際はどの程度なのだろうな…
「これならばあの魔神四皇どもの目を覚まさせてやれそうだ!協力感謝する!」
まぁ平和になるなら協力くらいするよってことで、なぜか魔王と仲良くなってしまったのだが
龍や精霊王、人族の王に言わずにいても良いものなのだろうか…?
『また今度は遊びに来るぞ』と言って、稲光と共に魔王は去っていったのだった
そしてこの世界に雪が降り始めたのだが…
「ねぇシュウ、魔力スッカラカン…」
たった一回の、いや48回で魔力が全て無くなってしまったピノは少し怠そうにしているのだった




