18話「まるで姉妹」
トラベルの魔法はなかなかうまくいかなかった
行き先は目に見えていればそれが情報となりイメージも容易い
しかし街の門や港のイメージでは大雑把にしかイメージできないのだ
その中の一箇所、どこどこの門の前のココ!といった明確なイメージを掴むのに
俺たちはしばらく王都の前で腕を組んで仁王立ちしているのであった
「あ…あんたら、中に入らんのか?」
兵士が声をかけてくる
「あ、すまない気にしないでくれ」
「そや、集中してるんやで!」
ピノの喋り方もちょっと誰かに近づいていく
「何しとんやあんさんら、めっちゃ不審やで」
そうそう、こんな喋り方をするあの女の子だ
「…っわぁ?!なんだローズいたのか…」
「ほんまウチの名前知っとるってあんた誰やの一体…」
説明のしようもない、ローズにとっては俺は知らないおっさん
「まぁ噂とかでな」
「なんやのそれ、変な噂はやめてや」
ぜひまた一緒に旅をしてみたいものだが、顔を見ているとどうしても殺されるシーンが思い浮かんでしまう
「あぁ、ちょっと空間移動の練習中なんだよ」
そう言ったら馬鹿にされた
『そんな魔法使える奴おらんわ』て
ケラケラ笑われたもんだから、横にいたピノがカチンときて
「シュウ、やってみるから見てて!」
「あ、うん…」
目を閉じ、じっとイメージを膨らませるピノ
見たままでは意味が無いからこうやって目を閉じイメージだけで魔法を行使するのだ
「トラベル!」
パッと消えたピノは兵士の立つ門のすぐ近くに出てくる
だが、少しイメージが甘かったようで
50cmほどの高さから落下してしまったピノは転んで顔を地面に打ってしまったのだった
「いたたた…」
ピノは泥だらけの顔を持ち上げ服の汚れを叩いている
それを見ていたローズは驚いていて持っていた麻袋を落としてしまうのだった
「な…なんやのあれ?」
瞬間移動にしか見えなかったと思うが、まさに瞬間移動なのだ
さすがに大勢の前でそんな魔法を使うのはやりすぎだったのだが、馬鹿にされてピノも黙っていられなかったのだそうだ
そして何故か俺たちはミドの屋敷にいる
俺は拘束された状態で、なのだが
「どうだった?私たちの空間移動」
誇らしげにピノが喋る
「どうだったじゃありませんわ、女の子がこんなに泥だらけにしてしまって
姉様も見ていらしたなら止めてくだされば良かったですのに」
すぐ後にやってきたミドが、ピノを見るなり泥だらけの姿にびっくりして
身体を綺麗にするため屋敷まで連れてきたのだった
「で、おじ様は何故か私のこともよくご存知でおいでですのよね…」
ミドから冷たい視線が飛んでくる
別にやましい事をしたこともないのだが
駆け寄った際につい前のミドのつもりで声をかけてしまったものだから
ストーカーかなにかと思われてしまったようなのだ
「つまり過去に行って未来を書き換える前は私たちと共に旅をしていらっしゃったと…」
信じるわけもないと思ったのだが、旅の途中の出来事などを喋っていると
だんだんと二人の様子が変わっていく
「なんで誰にも話したことのない夢の事まで…」
ローズが俺とゴブリン退治に行った後に突然顔を近づけてきた時のことだった
ミドもまた弓矢の大爆発で驚いていた事を夢で見ていたのだという
もしかしたら二人だけでなく、皆が以前の世界で起きた事を夢で見ているのかもしれない
どんな細かい事も喋っていた
レギやピルスルと共に歩いて門番が日々色んな事を話しかけてくる
水龍と出会った時もリドラが仲間になって騒いだりもしていた
久しぶりに見せたリドラは毛玉のようで前とは違っているのだけど
リドラも二人を覚えていてすぐに飛びついて懐いていた
「双子の精霊が急に襲って…」
突然二人の様子が変わる
まさか、やはり殺された時の記憶もあるというのか
「嫌っ!姉様っ!」
耳を塞いでしまうミド
ローズがミドの肩を抱き寄せ落ち着かせていた
ローズもまた目の前でミドの身体が二つに分かれるのを見ていた
その後すぐに自身も殺されてしまったというのに
そんな光景が…二人とも殺されたのがつい最近かの様に鮮明に頭に浮かぶのだった