10話「叶わぬ願い」
「なんだあれは?!」「なに?魔物?」
会場がざわめいている
突如1匹の魔物が空に現れ、会場がどよめき出す
本戦を突破したピノとシード枠の選手による決勝が行われる、まさにその時であった
「貴様ら、剣の腕など磨きおって
やはり魔族領への侵攻を企んでおるのだな」
武闘場へと降り立つ魔物、その姿は人間の形をした悪魔と言うべきなのだろうか
全身は灰色の皮膚で覆われ、ところどころウロコのようなものが見える
ざわめく中、一人の勇敢な騎士が立ち向かう
決勝戦の相手である
「何者だ!神聖な祭典を汚しおって、許さんぞ!」
飛びかかる騎士、恐らく帝国でもかなり優秀な者なのだろう
剣も鎧もこの街の兵士が身につけている物より良いものである
「バカが…死ねっ!」
魔物は剣をかわし、がら空きの背中に三発の火の玉をぶつける
「ぐぁぁっ!」
騎士の鎧は黒く焦げ、その場に倒れた騎士には誰も近づこうとはしない
誰も死にたくはないのだ
すると、すぐに救急班が遠くから回復魔法を使う
淡い光は騎士を包み込み静かに消えていく
騎士は幸い生きてはいるようだが、うつ伏せのままピクリともしていないのだった
「ピノ、気をつけろ!」
俺もすぐさま武闘場の中に飛び降り、剣を抜いてはいたのだが
騎士にまで注意を払う余裕も無い
しかしまったく…喋れる魔物までいるのかこの世界は
「ふふふ、獣人と人族如きに我がやられるとでも思っているのか?
まぁ余興には十分だろう、かかってくるがいい
そしてその後はこの大陸ごと消し去ってくれよう」
俺は盾を取り出しピノの前で構える
体力のないピノが攻撃をもらってはどうなるか分かったものではない
俺は盾を構えたまま特攻し、魔物の視界を塞ぐ
火の玉の直撃を受けると、俺はそれ以上前に出はしない
さらに魔物の周りには複数の火の玉を作り出しているのだが、その動作に全く油断がないので
このまま突っ込んでも返り討ちにあうと思われるためだ
「リドラ!」
「キュィィ!!」
大きく羽を広げさらに俺の前で構えるリドラ
急に目の前に巨大な龍が出現したものだから魔物も一瞬躊躇し、後ろへ飛び退いた
実はここまでは超感覚さんの指示である
俺たちでは決め手になる攻撃は無いと判断した故に盾となることにしていたのだ
ピノは魔物の怯んだその一瞬の隙を突く
全速力で魔物の背後まで駆け寄り、風属性を持たせた剣で六連撃を与える
もちろん毒もしっかりのせてである
すぐにリドラが魔物を尾で弾き飛ばし会場の端に吹き飛ばす
風の力は魔物の全身に細かな切り傷を与えていく、そこからも毒が侵入し瞬時に全身に回るのだ
小さな毒の鎌鼬が無数に出現したような感じだろうか
毒に侵され、魔物は動きを止める
こうなっては力の差など関係ないに等しい
「魔王様に仇なす者共よ…その身をもって行いを悔いるがいい…」
そして魔物は力尽き、光となって消えていったのであった
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拾った物もまた謎めいているのだし
一体なにが起きたのかさっぱりわからない
結局決勝戦まで中止になってしまい
俺たちは、なぜか取り調べられその後数時間拘束されてしまう
まぁ目撃者もかなり多いので、あらぬ疑いがかけられることはなかったのだけれど
それでも捕まって取り調べられるなんて良い気は絶対にしない
ピノも優勝できたはずなのにと、落ち込んでいたのだ
「何をお願いしようと思ってたんだ?」
「言わない…」
叶わなかった願いなど言う価値も無いのだと
一体何を願っていたのだろうな…