22話「美味しい料理」
「アイオーンが負けず嫌いなのはよくわかった」
「シュウもですけどね」
やられてしまった
たとえ魔物のレベルが非常に高いとしても、王に取り憑いた悪魔すら倒した俺が負けたのだ
「このままやられっぱなしじゃいられないよなぁ…」
どこかレベル上げに適した場所はないか、俺の魔剣はどこにあるのか
仲間でも探すことにするか…
「そうだな…ピノ、他の街も見に行こうか?」
せっかく新しく生まれ変わった世界だというのに、いつまでも王都にいては勿体ない
俺たちはリドラに乗って東の方へ向かっていた
周りには一回り小さな竜に乗った冒険者の姿も見える、きっと高レベルの召喚士かなにかだろう
「気持ちいいですねー」
ピノは俺にしがみつきリドラから落ちないようにしている
獣人特有の獣耳をピンと立て、風を受け気持ちよさそうにしていた
「う、うんそうだな」
ピノの胸が俺の背中にしっかり押し付けられる
ドキドキしながら、俺はリドラにもう少しゆっくり飛ぶよう命じるのだった
途中にいくつか小さな集落も出来ており、いくつかのダンジョンも存在している
そして大陸の東の果てに近付いた頃にその街は見えてきた
「あれは…リキングバウト?!」
随分と大きくはなっているが、場所も建物の配置も似たような作りだ
門の前では人々が顔パスで通り過ぎていく
中には大きな荷車でやってきた商人や、全身鎧に身を包んで全く姿のわからない者もいたが門番は気にも止めない
「よう初めて見る顔だな、冒険者か?
ここはリキングバウト、この街の肉料理は絶品だぜ」
なんと街の名前も一緒ではないか
ならばもしかしたら、と門番に尋ねてみる
「すまないが、ピルスルという名前に聞き覚えはないか?」
門番の男は首を傾げて答える
「あん?ピルスル様っつったらこの街の英雄よ
美しきアイリス様と共に世界を導き、生涯を世界の発展に捧げた慈しみ深いお方よ」
墓もこの街にあるというので、ピノと共に向かったのだが
墓と言うよりも…
「すっごい大きな像ですね…」
「あぁ…俺だったら恥ずかしくて無理だわ」
街の中心に佇む大きな像、アイリスも成長した姿なのだろう非常に大人びた感じだ
そしてピルスルは…髭面のおっさんだった
二人とも幸せに生きれたようでともかく嬉しかった
キルディアやアレクはどうなったんだろうな?王都に戻ったら調べてみようか
次にギルドへ向かう
開けると獣人のモルツやヴァイツが笑顔で迎えてくれていた場所
今は美しいエルフの女性が受付を行なっていた
「ご用件がございましたらこちらへどうぞー」
入って立ち惚けていた俺たちに声をかけてくれる
冒険者も非常に多く、掲示板には多くの依頼が貼り出されている
《強い剣を安く売ってください》
《火属性のアクセサリー求む》
《ダンジョン攻略にヒーラーいかがですか》
あれ?魔物退治とか作業依頼じゃない
あぁ、魔物はほとんどダンジョン内にしか出ないんだったな
ギルドはダンジョン攻略の集会所みたいなもんなのか
ちなみに素材も落とさないので買取もしていない
お金は武具などを売ったり取引で得ているらしく
ギャンブルみたいな職業だと言われており、実際に冒険者をやっている者は全体の1割にも満たないのだそうだ
ビックリしたのはそれだけではない
なんとギルドで『スキルの書』を売っているのだ
マジか?!と思って見ていたのだが
実は精霊から力を借りて作られた物だそうで、戦闘にはあまり関係ないものが多いのだった
[料理上達の書:スキルに頼りきりでなく自身の腕も磨きましょう]
[断捨離の書:どうしても捨てられない方オススメ]
[富くじの書:1000人に1人大当たり]
他にも安眠の書やら趣味作成の書やらが結構な額で売られていた
「ピノは何かいる?」
「私、美味しい料理をシュウに食べてもらいたい」
少し暗い表情で答えるピノ
前に何度か食べたけどピノの料理は美味い
もしかしたら素直に美味いと言わなかった俺が悪いのだろう、俺は何も買わずに外に出て雑貨屋に向かう
キッチンセットや食器を多めに買い揃えてインベントリにしまう
俺はピノに伝えた
「いつも美味しい料理をありがとう、これからもお願いしていいかな?」
「ばーか、そんなのは食べた時に言わないと意味が無いんだよっ!覚えておいてね!」
悲しませていたんだなぁと改めて思う
しかし、その日の晩飯はいつも以上に気合の入った料理が並んでいるのだ
俺は美味すぎる飯に、ただただ無言で喰らいつくのだった
「…ばーか♡」