14話「聖龍」
「まぁだ寝とるんか…?はよう起きいや」
ん…ローズ…?
寝ぼけ眼で起き上がる
「早よ起きてや、外に龍がいるんやって!」
大きく揺さぶられる身体、ピノは窓の外を指差して俺に何かを訴えかけていた
龍がいる?リドラじゃなくて?
起きて外を見ると、確かに巨大な龍が街の近くを飛んでいた
美しい銀色の翼と大きな二本の角が見える
水龍や暗黒龍ではない、見惚れてしまうような綺麗な姿をした龍
すぐさま俺は宿を後にし、リドラに乗って近付こうとする
すると、こちらに気付いたようで向こうの方から寄ってくるのだった
「そなたがシュウか、少し話をしたくて会いに来たのだが…」
気配を感じたのか、それとも剣の力が消えた事と関係があるのか
ともかく龍は俺に会いにわざわざ出向いてきてくれたようだった
「我は九龍の長、聖龍と呼ばれている
なんでも時渡りを行い、世界を書き換えていると聞いてな…」
俺は悪いことをしているつもりは無い、しかし聖龍にとってはどうなのかは分からない
「もしかしてダメだったのですか?」
もう書き換えたものは戻らない、きっとドルヴィンやローズ達ももう戻らないのだろう
しかし、世界を滅亡させたくないが故の行動だったのだ
「いや、せっかくの助言を無駄にしてしまったと謝りたくてな」
聖龍は昔の話をし始める
ある龍から聖龍に話が入ってきた
人族に不穏な動きがあるから精霊王や水龍、そして多くの者達にそれを止めてもらえるよう働きかけ
剰え、強力な武具や多くの食料なども惜しみなく提供する者がいる
そんな話を聞いても、本当の事とは思えない
それに聖龍や精霊王であれば、何かあってからでも十分に対処できてしまう
それほどに強大な力を持っているために素直に聞き入れられなかったのだと
結局西の国王による行動を止めることは出来ず
魔素が枯渇寸前までになってから精霊も龍も初めて動いたのだそうだ
西の王都にいた冒険者からも2人の英雄が王に立ち向かい殺された事を聞き、精霊王はエルフの王と共に冒険者の強力な剣に秘術を使った
聖龍は破壊活動を行う西の王を東の帝都で打ち滅ばす、それでひとまず騒ぎは落ち着いたのだが
秘術を使い弱った精霊王とエルフ王
西の大陸に刺した剣はその二人をも巻き込むほどの強い力で西の大陸を飲み込んでしまった
それでもすぐに剣を破壊するわけにはいかなかった
その時精霊王は死んでしまった
今では精霊王も復活しているが、完全に死を迎えた大地を蘇らせるには途方も無い年月が必要になってしまうからだ
精霊王が復活した時には、もうすでに西の大陸は魔物の大地となってしまった
これでは時渡りをした青年にどう謝罪をすれば良いのだろうか、と
そんな事を考えながら何十年も生きていたと言うのだ
「聖龍さん…気持ちは有難いんだけど」
俺は思った事を言う
「なんか考えが龍っぽくない!」
そうか、とにかく被害は大きかったが世界の滅亡と全ての種族は生き残ったのか…
しかし国王はなにを企んでいたのだろうな…
聖龍は償いをしなければ気が収まらないそうで、力をくれると言うのだけれど
それでも過去に戻るような力は無いという
特殊な力を持った者が、己の命を投げ出すほどの魔力を注がなくては成し得ない事らしいのだ
そしてリドラに聖龍の力が入っていく
世界を良くしたいと願い、時渡りまでする者ならば
その力は良き方向にしか使われないだろうと聖龍は言っていた
正直、悪い方向に使うなら今までのリドラでも十分凶悪なんだがな
なんて思うのだった…