10話「24時間⑤」
王国の方は、あとはこの4人や工房長に任せておくことにしよう
早朝夜も明けたばかりだというのに、街の門には多くの人の姿も見える
「じゃあ俺は帝国に向かう、みんな…元気でな」
おそらくそのまま未来に行ってしまうだろう
最後に俺は4人に、先日未来で手に入れた武器を手渡していた
もしかしたら戦争は回避できないかもしれない、そうなった時に
この武器で俺の帰る未来のために
皆が幸せに暮らす世のために、戦いに赴くかもしれないからだ
今度こそピルスルはアイリスと共に暮らしてほしい、そう考えると武器など無い方が良いのかもしれない
何が正解なのかはわからないが、今は信じて行動するのみであった
「リドラ頼んだぞ!」
「キューーィィ!!」
リドラもまた別れを惜しむかのように声高く鳴く
今日はリドラもゆっくり飛んでいる、徐々に王都が遠ざかって行き
その影も見えなくなった頃、リドラは『キュッ』と一鳴きし突如スピードを上げた
「気を使ってくれたのか、ありがとうな」
もうこのスピードならば数分で到着するだろう
正直遠くに降りて徒歩で近付く時間も惜しい
門の前に降り立って、門番に話しかける
もちろん向こうも龍が来たのだから身構えるのだが、捕まえに来る様子はない
リドラを戻し、俺は何もなかったかのように列に並ぶ
別に襲いに来たわけでもないし、正式に手続きを取らねば余計に不審に思われる
「貴様、先ほどの龍はどうした!」
「あれは私の召喚獣です、心優しい龍ですのでご心配なく」
もしかしたら急に捕らえられるかもしれない
門番も何が何だかわからない内に俺の番が回って来て、他に不審な点も見当たらず通してくれるのであった
「いや、龍に乗ってきただけで十分に不審だと思うんだがな…」
俺は通り過ぎてから一人呟くのだった
【後ろから一名近付いています】
おぉ、超感覚さんから話しかけてくるの久しぶりだな
で、あれば路地を曲がって待ち伏せか
【前回と同じ獣人だと推察します】
あぁ、あの剣を突きつけてやったやつか
縄で捕らえてみると、確かに見覚えのある顔
一度ならず二度までも捕まるなんて密偵失格だな全く
「ジーク様にどのような要件だ!」
捕まってもなお勇ましい
しかし、俺も帝王には会えないつもりで来たから何を言おうかなんて考えていなかったんだよなぁ
「まぁ平和を目指しましょうってことかな」
「は?」獣人は顔を顰める
そりゃそうか、しかし何を言って良いものか
迂闊に変なことを言って未来が変な方向へ進むのもアレだし…
「素性がわからない以上、私は貴様の監視を続けさせてもらうからな!」
獣人はなおも勇ましい
うーん、捕まりながら言うセリフではないと思うのだが…
もう解いて解放してやるか、何もする気はないみたいだしな
【スキルがマスター対象に行使されます、気をつけてください】
一瞬考え事をして目を逸らした隙に、獣人はこちらに向かってスキルを使ったらしい
俺は避け方も分からなければ何をされたのかも分からなかった
「ふふっ、これで貴様がどこへ行っても監視できるぞ
観念して本当のことを喋るんだな」
何かされてしまったが、俺はすぐにこの時代からいなくなる
まぁ、困る事もなさそうなので縄を解いて帰ってもらうことにした
「大人しく逃すなんて、つくづく間抜けなやつよな!」
その間抜けに二度も捕まったお前はきっと大間抜けなのだろうな…
さぁて城に向かうか、と歩き出すと
不意に視界が遠のいていく
「しまったな…もう時間、か…」
思っていた時間よりも短かったが、過去に来て少しは何かを変えられただろう
次に目がさめる時は、望んだ通りの世界であってほしいものだ…
俺は静かに、その世界から消え去るのだった