8話「24時間③」
一旦戻って説明すべきか…
いや、どのみち帰還の鈴は1人用である
どういった仕組みで鈴の効果が齎されるのかはよく知られていないのだが
ダンジョンに潜る冒険者にとっての必需品である
俺は妖精から貰った鈴を取り出し、それを鳴り響かせる
鈴が砕け散ると、周囲に光がキラキラと輝き舞っている
鈴を作るのは精霊術師らしい、もしかしたらこの光も精霊達なのかもしれない
キラキラ輝く光は俺を包み、瞬時にその姿を消し去る
次に俺が現れたのは森の中
多くの木々が生い茂っており、その中に不自然にツタが絡み合っている岩壁がある
「おそらくここだろうな…」
ツタに手を伸ばすと、不思議な力に手を弾かれる
まるで結界でも張っているかのような光の壁
「精霊王はいるだろうか?少々話を聞いていただきたくて参ったのだが」
聞こえているかどうかはわからないが、入れないのだから呼ぶしかない
すると、意外にもあっさり妖精が姿を現す
「ここになんの用?どうやって来たの?」
小さな妖精は、結界の内側から話しかけてくる
俺は、このままでは世界に危機が訪れる事を伝えたいと話す
そして妖精から帰還の鈴をもらったこと
もちろんすんなりと信じては貰えなかったのだが、俺にはもう一つとっておきがある
「これは妖精女王から頂いた指輪だが、信じてもらえないだろうか?」
俺は指にはまっている綺麗な羽の模様があしらわれた指輪を妖精に近づけて見せる
俺が直接妖精女王からもらった物なのだから信じてもらえるだろう
と言っても100年後の物なんだけれど
「これは…女王様の?!」
これまた信じてもらえたようで、一安心する
少しの間待たされ、出て来たのは確かにオークキングから助け出したあの妖精女王だった
「なぜ貴方のような方がその指輪を持っているのかは存じませんが…少なくとも邪なる者に身につけられるはずはありません
一人で精霊王様にお目見えになったようですが、他の者などはいらっしゃらないのでしょうか?」
一人で、と言いたかったが
大事な存在がいる、俺はリドラをその場に召喚してみせる
「水龍リヴァイアサンより力を分け与えて頂いた、名はリドラという」
もちろん子竜の姿で
まんまる毛玉の子竜は龍と精霊、そして兎とオークの力を持っているのだが
妖精達にとって龍は敬愛の対象だそうで、特に問題になることは無いようであった
「では、その指輪に魔力を込めながらこちらへ歩いて来てください」
どうやら妖精女王から頂いた指輪は、妖精の村への通行証にもなっているようで
恐る恐る指を突き出してみると、まるでそこに何も無いかのように右腕から順に身体全体が結界をすり抜けるのであった
「ところで、先ほど言ったことになってしまうのですが…
どなたから指輪をいただいたのでしょうか?」
俺はそこで初めて100年後の世界の話をする
その時代では結果的に妖精女王も精霊に狙われていた
理由はわからない、精霊王のいない世界ではそれが必要なことだと考えられたのだろう
「そうですか…とても信じられる話ではないですが、事実貴方に指輪があるのですから本当の事なのでしょうね」
中に入るとそこは外より一層に木々が生い茂る世界
精霊達もいると言うのだが、見えるのは小さな姿ばかりで妖精しかいないのかと思ってしまう
「精霊王アイオーンはどちらに?」
時間があまり無いせいか、つい俺も急いてしまうのだが
しばらく歩き、大きな木の枝をくぐり抜けた先に見えたのは
おそらくそうであろう精霊王の姿
いや、他に人ほどの大きさの者がいなかったからそう思っただけなのだが
俺の姿を見てもその者は気に留める様子もない
「君が精霊王アイオーンなのか?」
「人を訪ねる時は、まず自身のことを話すものだと聞いていたが…」
あ、いや悪かった
どうもタイムリミットがあると思うと急いてしまう
「大変申し訳ない、俺は今より100年先の世界からやってきた
王都がある大陸の遥か東の地で冒険者をやっていたシュウという」
そして共に冒険をしてきたリドラを紹介する
「いかにも、私が精霊王だ
先日ようやく2人の王から良い返事をいただけたばかりだと言うのに、まったく人族は慌ただしいものよ」
「その事と関係があると思うんだが…」
俺は未来の話をアイオーンに聞かせる
最初の世界での出来事、そこから俺が干渉し変化した先の世界
『結局人というのは自分たちの利益の事しか考えないのか』と怒ってもいたが
それでもアイオーンは皆にとって何が良いのかを考えてくれている様である
「アーティファクトが無くても人は生きていける、エルフはそれで収入を得ているとも聞いたが
そこを変えることはできそうにないだろうか」
エルフが別の収入源を得ればアーティファクトは作る理由が無くなる
アーティファクトは妖精や精霊にとっては害になるものでしかないのだから精霊王が勝手に規制でもすれば良い、少なくとも世界を滅ぼす力は持っているのだから簡単だろう
「人族の暮らしが不便になっても私は恨まれたりしないだろうか」
いや、貴女未来じゃ災厄の象徴ですから
こうやって話しているとイメージしていたアイオーンとはかけ離れている
「例えば、作られてしまったアーティファクトは壊すのではなく魔物の出るダンジョンを生み出すことに使えないか?その中に人族にとって有益なアイテムも生み出すようにする
その管理をエルフ達に一任する」
エルフは管理費として冒険者から収入を得る
その分、近くの平原などは魔素の濃度をギリギリにして強い魔物を出現させないように
俺は、未来で見たダンジョンの姿に理想を重ねて話をする
なるほど面白いな、とアイオーンは言い
一つの手段として考えてみると約束してくれたのだった
「時に、その子竜からは精霊の力も感じられるのだが」
アイオーンは毛玉竜を指差し、俺に尋ねる
ソフィア、イフリートそしてボルドーと戦っていたことを話す
倒してしまっても世界の終わりが近づくだけという不毛な戦い
双子の精霊シルフに仲間を殺されたことを思い出すと、自然と涙が流れていた
「そうか、すまなかったな…」
アイオーンは謝罪をする、その表情はどこか恐ろしく感じられるのだが
もしかしたら、意図せずそのような世界を作り上げてしまったアイオーン自身への怒りの言葉だったのかもしれない