13話「少年と少女」
早朝ギルドが開いている時間に訪れると水晶が目に飛び込んでくる
どうやら新しい冒険者の登録を行なっているようだ
こんなにも小さなギルドでまた珍しい光景を目にしたものだ
少女はギルドカードを受け取ると、足早に去っていった
「まだ小さいのに凄いもんだな」
俺は素直な感想を述べていたのだが
「え?ウチもあれくらいの時に登録したで?」
「私は気付いたことには既に登録してありましたよ、多分生まれてすぐにお父様が…」
「14、5になっても登録してねぇ奴なんかシュウくらいなもんだろ」
ギルドカードは身分証みたいなもんで、別に冒険者だけが持つのではない
掃除などの依頼を受けるにも必要になるので小さい頃から持っている者がほとんどなのだそうだ
「ウチあんまよう知らんと街の外出てたもんなぁ、下手したら死んどったらしいで」
ローズは自分の過去を笑い話にしていた
「あの冒険者様…ちょっとよろしいでしょうか」
受付の女性が話しかけてくる
何かやったわけでは無いとおもうのだが
「先ほどの女の子…お母さんと一緒に時々来ていたんですが
急に一人で来られてギルドカードが欲しいと言ってきたのです…」
薬草を採ってお金を稼ぐって言うだけで、何があったのかは教えてくれなくて
スキルの恩恵も無しに外に出られては危険だったから今は登録手続きを行ったのだけれど
やはり心配なのだと
面倒見の良いドルヴィンがいるのだから断るはずもない
俺たちはすぐに街の入り口に向かい少女が通ったかを確認するのだが既に出ていった後であった
防具などを持っている様子では無かったし、揃えているような時間も無かったはずだ
もし外で魔物に出くわせば無事ではいられまい
俺たちは手分けして近場の薬草がありそうなところへ向かうのだった
「おーい…」
ライムという少女を探し俺は街の南へ向かっている
山の麓を歩いているといくつか洞窟も見えるのだが、薬草探しならば日向でなければならない
今回はスルーしてしばらく走っていた
15分ほど走っただろうか、さすがにここまで遠くに来るとも思えない
俺は見落としが無いかを確認しながら来た道を戻っていた
「やぁ初めまして」
突如いたずらっぽく笑う少年に出くわす
違和感しかない
人間のようでどこか違う少年、気軽に話しかけてきて笑っていて
しかも一人きり…
どうしてだろう、すぐに身構えてしまうのだけれど
それで正解だったようだ
少年は突如魔法を放ち、俺はすんでのところで避ける
まるで居合斬りが飛んできたかのような風の魔法を
よく知っているあれだ…カマイタチ
「へぇ…すごいね、完全に躱されたのは君が初めてかもしれないよ」
「リドラ!」
俺は少し間合いをとり、少年に質問を投げかける
「目的はなんだ?お前もソフィアとかいう精霊の仲間なのか?」
ふふっと笑うだけの少年
突如突風が襲い、目を塞いでしまう
「しまっ…!」
目を開けた時には少年は消えていた
「くそっ、他の皆は無事なのか?」
もしかしたら罠なのか、皆は無事か…少女はどうなった
俺は急いで街まで戻る
「ローズ、ミド!無事だったか」
「なんやいきなり、女の子ならおらんかったで」
ちょうどレギも戻ってくる
「こっちにはいませんでしたー」
するとドルヴィンの向かった東の方向か
皆で東へ向かう
そろそろ引き返しても良い頃だろうにドルヴィンは一体どこまで行ったのか
もうしばらく歩いていると、巨大な影が何かと戦っているようだ
「まさかドルヴィンか?」
オークに擬態しているならあのくらいの大きさはあるだろう
近づくとその正体はやはりドルヴィンであった
「大丈夫か?!」
声をかけ近付くと、ドルヴィンは相手と距離を取りこちらに向かって叫ぶ
「女の子はこいつらの仕業だ!俺たちをバラバラにするつもりだったんだ気をつけろ!」
戦いの相手は先ほどとよく似た少年だった
「なーんだ、もう仲間が来ちゃったのか
じゃあ僕達はさっさと逃げることにするよ」
先ほどの少年と同じように突風を巻き起こし姿を眩ませるのだった
街に戻り少女の家を訪ねると、母親らしき人物が扉をあける
少女は昨日から具合が良くなく寝込んでいるのだそうだ
ただ、その枕元には今朝いつのまにかギルドカードが置いてあったものだから
その母親もわけがわからず、どうしようかと悩んでいたらしい
「風の精霊によるイタズラでした、おそらくもう大丈夫かと思いますので安心してください」
そう言うと母親はホッとした様子で礼を言っていた
まぁおそらくあれは精霊なのだろう
双子の風の精霊が様子を見に来たってところだろうか…
人など殺そうと思えばいくらでも殺せるだろうに
きっと俺たちを始末したくて策を練ったのだろうな…
その後、この街に留まることはやめて
俺たちは霊峰の向こう、ジークフリートの死んだとされる地『聖地グレイブ』へ向かうのだった