11話「ひとときの幸せ」
水龍、暗黒龍と出会った俺たちは
所在のはっきりしている氷雪龍セイコウの元へ向かう
まずは近くの街ミクニという場所を目指す
東大陸、その最北端
俺たちは漁業の街ミクニへやってきていた
「黒龍さん、けっこう色々教えてくれましたね」ミドがワクワクしながら口を開く
黒龍?暗黒龍のことか、まぁ確かにこの街の事も結構知っていたみたいだし
ずっとあの洞窟にいたくせになんで知っているんだろうな…
「なぁ、美味しそうなウチコがいっぱいやで!」
「おぉ、ウチコ美味そうだな!」
ローズとドルヴィンが並んでいる食材を見て興奮している
こうなると今晩の飯はその『ウチコ』たる食材で決定だろうな
どれどれ、と見てみると
茹で上げられたその赤い身、8本の脚、ちょっぴり飛び出た目
「カニだな…」
たしかに美味そうだった
生前は滅多に食べれるものではなかったが、これほどの立派な蟹は見たことがない
「おんやぁ、ウチコは初めてかい?だったらこっちのメスも試してみるといいさ」
店主のおばちゃんは一回り小さいメスのウチコを見せる
こいつの持つ卵の美味さといったらもう…例えようがないのだと
レギやミドまでもおばちゃんの話術にハマっており、次の瞬間には合計15杯のウチコを購入していた
「美味いなぁ、幸せやわぁ…」
ついこないだの暗い話は何処へやら
ローズも幸せそうな表情でウチコを食べている
しかし、これを食べると大体人は無口になる
酒にもほとんど手を伸ばさずに、俺たちはウチコにむしゃぶりつくのだった
「おばちゃん、この殻にシュワっとしない方の酒入れて温めてくれる?」
おれはつい甲羅酒を呑みたくなってしまい頼んでみたのだが、おばちゃんは不思議そうな表情を浮かべていた
「っっかぁぁあ、美味い!!」
ウチコの甲羅に入った燗酒を呑むと、えも言われぬうまさに酔いしれる
近くで見ていた客が真似をしだして、数日後にはそれが店で話題になったりもしていたのだった
後になってから俺はその店に一人で出向き、『甲羅だけを炙ってから燗酒を入れた方が良い』ということを告げる
せっかく美味しいのだ、ちゃんと臭みも無い方が良いに決まっている
その甲羅酒がこの街の名物になるのもそう遠い話ではなかった
そんな事があったものだから、俺もしばらくの間難しい話からは逃れることができていたのかもしれないな…
あぁ、ちなみにドルヴィンはその後毎日のようにここで甲羅酒を頼んでいたらしいぞ