#40 奴隷商
バザーで教授との出会いを得て集合場所に戻ると
予想通り桃髪のマル子が激怒していた。
ユウたちは、焼きそばのようなものを買っていた。
なかなかに美味しかったが、
串焼きはそれをわずかに上回る旨さだった。
グルメ対決に勝ったことで飲み物をおごってもらい、
その後は、装備など見て回った。
僕は、所持金がほとんどなかったので
買い物中に常に聞き耳と山歩きを使い続けて
狩人スキルを鍛えることにした。
バザーの中を進むと、裏路地の奥にある店の方から声が聞こえた。
「さー、いらっしゃい。今日はいい奴隷が入ったよ。
戦闘奴隷から性奴隷まで何でもそろってるよ。
お、兄さんたち漂流者だろ。見ていかないか。」
店の中を見ると首輪をつけられた奴隷が入った狭い檻が並んでいた。
みな痩せこけて、うつろな目をしている。
中には絶えず咳をしているものまでいた。
「なんて非人道的な!」
ユウが怒りをあらわにする。
「おれは勇者だ。すぐに全員解放・・・」
僕は、慌ててユウの口をふさぐ。
「すみませんね。僕らは漂流者なもので。
あまり奴隷になれてなくて。」
何とかユウを引きづって店から遠ざかると
ユウは僕の手を振り切って怒鳴る。
「アッシュ。何をする。」
「何をするってこっちのセリフだよ。
この国で、奴隷が合法か違法かなんてわからないだろ。
それに、違法でもやくざに喧嘩を売りに行くようなもんだ。」
「合法がなんだ。やくざがなんだ。
ヒトをあんな風に扱っていいはずがない!」
「それは同感だけどね。
もし合法なら、肉屋に動物がかわいそうだから
動物を殺して肉を売るなとは言えないでしょ。
やくざだったら、僕らなんか瞬殺だぞ。世界観を考えろ。」
「むう。だが・・・」
僕とユウが言い争っていると、
後ろから聞きなれない声がする。
「奴隷は合法だよ。
だけど、彼らは奴隷であって動物や肉じゃない。
この国には、ちゃんと奴隷法がある。
そして、それを犯すものは取り締まらんといかん。」
僕らは、驚いて声の方を振り返る。
金持ちそうな格好をしたおじさんがあごひげを撫でつけていた。
おじさんの後ろには屈強そうな男たちが正装を身にまとって立っている。
「この奥で奴隷を売っている噂を聞いたが、本当だったかい?」
おじさんは猫なで声で聞いてきた。
「ああ、売ってたぞ。まさか買うつもりか。
人をものみたいに売り買いしていいと思ってるのか!」
ユウがまた吠える。
圧力もすごい。
威圧みたいなスキルが発動しているのか。
それにしても、なんでこいつはこんなに短気なんだ。
普段は優しそうなオーラを出しているのに。
「いやいや、まさか。ちょっと見学に来ただけだよ。
ちょっとね。」
あごひげのおじさんは、そういってユウの肩をポンと叩くと店の中に入っていった。
「くそ!奴隷なんて俺は認めないぞ。」
ユウの怒りは治まらないようで、店に向かって抜刀する。
剣に風が集まる。
「ウインドウ・・・」
こいつ、まじだな。
しょうがない。
ズビシ!
僕は、ユウの後頭部に手刀を叩き込む。
「痛!アッシュ、何をする。」
「おい。落ち着け。マル子がドン引きしてる。」
ユウが顔をあげると、ユウの様子におびえているマル子の姿があった。
「あ・・・」
ユウは、我に返ったのかうろたえ始めた。
イケメンが台無しだな。
しっかりしろよ、勇者様。
そんな性格だから洗脳されちゃうんだよ。
こんなことで勇者が務まるのか不安だね。
そんなことを考えていると、
マル子が鬼の形相でこちらに向かってくる。
「アッシュ、声に出てたっス。」
キスケの声と同時に
バシッ
マル子のビンタが僕の頬に飛んできた。
「ユウ様は、勇者様です。
確かに少し気性が不安定になってしまうところもあるかもしれません。
ですが、それは正義をなさろうとしているからです。
その正義が間違えてしまうこともあるでしょう。
でも、なにもなさらないあなたに攻める資格はありません。
たとえ、そのほうが正しくても!です!」
「「「・・・・・」」」
おう、この子。
僕を責めているようで完全にユウを責めている。
ユウは、涙目だ。
無理もない。あんなに完全否定されれば泣きたくもなる。
キスケは、笑いをこらえてやがる。
そういうシノも我慢の限界の様子だ。
この空気、どうすれば・・・!
マル子の顔をみると、真っ赤にしている。
「アッシュ、声に出てるっす・・・、ぷっ」
キスケがとうとう噴出した。
「「わはははは」」「「う~」」
シノとキスケは爆笑し、ユウとマル子は泣き出したのだった。




