#39 教授
怪しげな店の店主が言うには、
武器の加護というものがあり、3つの効果を持つらしい。
一つ目は、武器の強度上昇であった。
鉄球5つを(銀貨4枚のところ)銀貨2枚で購入し、さらなる情報の収集を行う。
「それで二つ目と三つめは?」
店主は、泣きながら答える。
「ぐす。はい。
二つ目は、ダメージが通りやすくなります。
魔物を含む生物は、生命の加護により
さまざまな衝撃を軽減されております。
これは、魔無しと呼ばれる方も同様です。
しかし、加護を得た武器はこの生命の加護を通過して
ダメージを与えることが分かっています。
三つめは、武器スキルの効果です。
武器の加護といっても、種類は武器ごとに異なることが
最近の研究で明らかにされております。
剣は剣の、槍は槍の加護を持っているようです。
剣術スキルや剣適正スキル、剣技スキルの効果を最大限引き出すには、
剣の加護を持つ武器を装備していることが必要とのことです。はい。
剣の加護を持つ木刀と持たない鉄の包丁では、
木刀の方が、威力が大きかったという報告もあるです。はい。
それから・・・」
店主は、話すうちに楽しくなってきたのか
泣き顔から笑顔に変わっていった。
もう、鉄球を値切られたことなど忘れたのだろうか。
店主は、さらに話しを続けようとするが、
僕は思わず口をはさんだ。
「剣の加護がなくても、剣術スキルは使えるの?」
店主は、質問されたことが意外だったらしく
目を丸くしながら答える。
「はい。威力は1/2から1/3程度に半減してしまうらしいですけど。
おそらくスキルを使うことで、
生命の加護が武器の加護の代替作用をするのではないかという仮説が有力です。はい。
素手で扱うスキルなども、生命の加護によって
ダメージを増幅させていると考えられています。」
「なるほど。
魔力をこめた格闘スキルの威力も上昇するよね。
武器の加護と生命の加護、それに魔力は、
とても似たような性質と捉えていいのかな。」
僕は、思うままに質問すると、
店主は食いつくような勢いで返す。
「よくそこに気が付いたです!はい!
武器の加護も斬撃属性や打撃属性などの攻撃属性はもちろん、
火属性や水属性をもつことがあります。
魔法剣などがそれでございます。
このことからも武器の加護は、
魔力とも似た性質といえるです。はい。
お客さん、なかなかやりますね。」
そこで、串焼き屋のおやじが割って入る。
「いやいや、店主こそ何者だよ。
本業が鍛冶師の俺でさえ知らねえことをべらべらと。」
店主が申し訳なさそうな表情で答える。
「ああ、申し遅れました。
私、本業はセントレア大学で教授をしております
カイフロレンス・ベルテミドと申します。
専攻は、古代武器でございます。
研究内容に古代遺跡の発掘も含んでおりますので
探索者もしております。はい。」
串焼き屋のおやじが驚く。
「あんた中央大陸の教授先生か!
そんなお偉い先生が、バザーでなにしてるんだ?」
「研究には、お金がかかりましてね。
大学やスポンサーからも補助金は出ますが、
全然足りないです。はい。
なので、古代遺跡から研究ついでに発掘したものを
こうして売りさばいて研究費の足しにするのでございます。はい。」
そこまで黙って聞いていたキスケが口を開く。
「はー、怪しい店主と思ったけど、
偉い教授先生だったっすか。」
キスケも驚いている。
たしかに、びっくりだ。
「それにしても、お客さんは意外と賢くおられる。
講義をまともに聞いてくれて、質問までされたのは久しぶりです。はい。」
悪かったな。”意外”と賢くて。
そんなに見た目が阿保っぽいだろうか。
本気で落ち込みだしていると、店主は慌ててフォローしだす。
「講義への理解が大学の生徒を超えていましたので。はい。
それに、武器の加護と魔力の共通という着眼点も素晴らしゅうございます。
うちの生徒に欲しいほどです。はい。」
「そういうことにしておきます。
それにしても興味深い話をありがとうございます。
是非また聞かせてください。」
「もちろんです。お待ちしております。はい。
それに時々このバザーに出店しております。
見かけましたら、是非お立ち寄りくださいませ。はい。」
そんな話をしていると
「おい、兄ちゃん。焼けたぞ。
待たせたな。」
おやじが注文していた串焼き10本を渡してくる。
「銅貨3枚な。」
僕は、銀貨1枚を渡す。
「ほい。おつりだ。うちにもまた来いよ。」
銅貨7枚を受け取りながら答える。
「うん。この串焼きがうまかったらね。」
そういいながら、キスケに何本か持ってもらう。
すると、キスケが感心したように親父に話しかける。
「む、この鉄串。細いのに丈夫っすね。」
「お、分かるか。これも俺の作品よ。
って言っても、鍛冶で出た鉄屑を練習がてら再利用したものだがな。」
「本業の鍛冶屋はどこでやってるっすか?
ちょっと相談したい武器があるっす。」
キスケが尋ねる。
「すぐそこの下町だ。
シタラ鍛冶店って漂流者ギルドにでも聞けば教えてくれるだろ。」
「あれ?漂流者ってなんで分かったすか?」
「おめえらみたいなガキが大金持ってうろうろしてれば
漂流者か貴族のお忍びかだからな。
まあ、俺は一昨日の模擬戦も見たけどな。」
「なるほど。そういうことっすか。
鍛冶屋には今度行ってみるっす。」
キスケが鍛冶屋のおやじと談笑しているとき
僕は、教授に受け取ったばかりのおつりを差し出す。
「教授。これは授業代です。
少ないけど研究費の足しにしてください。」
「いいんですか。はい。」
教授は、驚いた顔をこちらに向けた。
「いや、これでも足りないくらい貴重な情報でした。
また、面白いものが入ったら教えてください。」
「では、また何か見つけたら連絡いたします。はい。
漂流者ギルドへ張り出してもらうので
それを見たらこの店にお越しください。」
「ありがとうございます。
その時は、またいろいろ教えてください。」
そういって、店を出て集合場所へと向かった。




