表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

#33 マジョーナ

マジョーナと女騎士のコロークは、しばらくおだて続ける。

お世辞だとわかっていても悪い気はしない。

褒められすぎて頭がぼーっとしてくる。

しばらくおだてられていると、王女様が慌てた様子で近寄ってくる。

「よろしくお願いいたしますね。勇者“殿”。」

「はい、宜しくお願いいたします。王女様。」

俺は、深々と礼をして答える。

王女様が、マジョーナとコロークを睨み付けると、二人は自然と距離とって行った。

王女様がなぜ二人をけん制しているのかはわからなかったが、

頭にかかった靄が晴れていくような気がした。

そうこうしていると鑑定士が王女のもとに駆け寄ってきた。

どうやら、もう一人魔無しが現れたらしい。

王女様が離れるとまた二人が近寄ってくる。

「勇者様に対して、勇者殿とはなんと失礼な。」

コロークが怒っている。

「でも、相手は王女様だし、勇者殿でもいいのでは?」

疑問を投げかけると、マジョーナが答えた。

「いいえ、勇者様はこの国を救うのです。王女であってもしかるべき敬意を示すべきなのです。」

マジョーナの目を見ると、また頭がぼーっとしてくる。

このふわふわした気持ちは、恋なのだろうか。

マジョーナにいわれると、王女が間違っている気がしてムカムカしてきた。

王女の方をにらむと、王女は黒髪に対して鑑定用紙を押し付けていた。

黒髪は、痛みに悶えている。

その時、王女の方から声が上がる。

「魔剣士だ。」

その一言をきっかけに黒髪は兵士に押さえつけられてしまった。

俺は驚いて、隣にいたコロークに尋ねる。

「魔剣士とは、それほど危険なのか?」

コロークはすごい剣幕で

「20年まえ、私の父はこの場所で漂流したばかりの魔剣士に殺されました。」

といった。

俺と同じ漂流者がこの場所で殺人を犯していることに、俺はショックを受ける。

「ですが、漂流してきたばかりなら力の使い方もわからないし大したことできないのではないのか。」

すがるような俺の疑問に、マジョーナが答えてくれる。

「いいえ。魔剣士は、魔無しとは違い魔法を受け付けないだけでなく、自身は魔法を使うことができます。また、その力に関係なく命を刈り取るような技や魔法を持ち、刈り取った命の分だけ自身を強化することができます。その力を使ってまだか弱い漂流者たちの命を奪い強化された魔剣士は、城の兵士でも歯が立たず、軍部が到着するまで殺戮の限りを尽くしたそうです。」

うろたえる俺をしり目にマジョーナは続ける。

「ですから、魔剣士は危険なのです。魔剣士を打ち破ることができるのは、聖剣士だけだと言われています。事実、20年前も軍部が取り押さえた魔剣士を当時の聖剣士が打ち取ったようです。勇者様、お願いです。どうかわれらをお救いください。」

マジョーナの声がやけに頭に響く。

人を殺すことはだめだという倫理観と

勇者として魔剣士を討たねばならないという正義感が

頭の中でせめぎあう。

いや、倫理観ではない。

単純に人を殺すどころか傷つけることさえもできないという考えが

浮かぶたびにマジョーナの正義という言葉が打ち消してくる。

混乱している中でさらにマジョーナが語り掛ける。

「勇者様は、常に正義を体現しておらねばならないのです。

もし、正義を裏切ることがあれば、民衆の怒りにより処刑されてしまうでしょう。

いいえ、勇者様だけではありません。漂流者の皆様も同じです。

漂流者様の中に魔剣士がいるとわかれば、皆様処刑されてしまうかもしれません。

漂流者の皆様をお守りできるのは、リーダーとなる勇者様しかいないのです。」

「俺がリーダー。俺が守らないといけない。」

続けて、マジョーナが追い打ちをかける。

「大丈夫です、勇者様。この世界では、魔剣士はヒトではなくモンスターとして扱われています。ああ、王女が自らを犠牲にしようとされています!助けるには、勇者様があの忌まわしき魔剣士を討つほかありません。」

「俺が・・・討つしかない。」

気が付くと俺は、魔剣士の前でいつの間にか手にした剣を抜いていた。

人を殺す恐怖を殺さねばならないという使命感、いや強迫観念が塗りつぶす。

そんな葛藤を抱えている俺のまえに能天気そうな男がしゃしゃり出てきた。

また、灰色のやつだ。

俺が、お前らのリーダーとして行動しているときに訳の分からないことを言いやがって。

人を殺すプレッシャーと横やりを入れられたことからイライラが募り

「魔無しのくせに・・・」

と言ってしまう。

漂流者は対等だと思う一方で勇者は特別だというマジョーナの声が頭に響く。

魔無しのせいで魔剣士を殺しかねていると

魔無しは、王女に話を振った。

「勇者様。勇者様のお手を煩わせることではありません。

この件はこちらでしっかりと対処させていただきます。」

パニックに陥りそうになっていると王女の声が頭に響き、

殺さねばならないという強迫観念が和らいだ。

これで人を殺さなくていいという安心感が俺を包んだが、

みんなのリーダーである俺の行動を邪魔した魔無しは許せなかった。

「その後は、アッシュも知っている通りさ。マジョーナに言われるがままに、

才能もないのに剣を握り、鍛錬せずにレベルを上げ、このざまさ。

レベルが上がってスキルPが入っても、長剣の才能がなくてね。

よく悩んだものだよ。・・・」

ユウの話を聞いて僕は、おもわず、

「・・・アッシュ?聞いているのか?」

スキルも使わずに爆睡していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ