#32 勇者
どうして、こうなってしまったのだろうか。
思えば初めからおかしかった。
目を覚ますと、そこは見たこともない石造りの部屋だった。
戸惑っていると、目の前にいた灰色の髪の男も起きた。
体をほぐすような動きをしたかと思うと、
急に動きを止めて慌てだした。
首をしきりに気にしている。
そういえば、そんな首輪をつけていただろうか。
そんなことを考えていると灰髪が後ろによろけてきた。
思わず避けそこなって、ぶつかってしまう。
何か壊れる音が聞こえた気がしたが、見渡す限りなにも壊れていなさそうだ。
「すみません。」
俺が謝ると、灰髪はこちらを睨んでその場を去った。
なんだよ。お前がぶつかってきたんだろ。
釈然としない気持ちを抱えながら、その場に立っていると
しばらくして首に違和感を覚える。
「あれ、こんな首輪していたかな。」
見渡すと全員が光る首輪をしていた。
その後、この国の王女様が現れて色々説明してくれて、最低限の保証は王国がしてくれることが分かると、とりあえずステータスの確認をしてみようという空気となった。
しかし、空気を読まずに発現する奴がいた。
あの灰髪だ
「この首輪は何?」
せっかく落ち着いてきた雰囲気がまた騒然となる。
みんな首輪に気づいていなかったのか。
あいつが何かしたのか。
首輪の騒ぎも銀髪の少女のおかげで落ち着いた。
ようやくステータスをみてもらえるらしい。
昔やったRPGを思い出す。
既にみてもらった人からは、いろいろな職業や才能についての言葉が飛び交っている。
俺の前は灰髪が並んでいた。彼とは、何かと縁があるな。
灰髪は魔無しと呼ばれる魔法を受け付けない体質らしい。
首輪を壊したのは、やっぱりこいつだったか。
スキルの鑑定が効かないため、鑑定用紙を使うらしい。
突然王女様が、灰髪の掌を切り付け鑑定用紙を押し付けた。
灰髪はものすごい痛みに悶えている。
そんな灰髪の様子を冷静に見つめている王女に恐怖を覚える。
鑑定を受けるのが怖くなってきた。
俺も魔無しだったら、鑑定は拒否しよう。
そう心に決めたのだが、そんな覚悟は無用だった。
「聖剣の使い手だ!勇者が現れたぞ!」
魔無しどころか、俺の職業はなんと聖剣士であり勇者だったのだ。
俺が勇者だとわかると急に周りがちやほやし始めた。
それは嬉しくもあったが、なんだか気持ちが悪かった。
困惑していると二人の女が近づいてきた。
「初めまして、今代の勇者様。私は、宮廷魔術師のマジョーナと申します。この国を救う勇者様にお目にかかれて幸せです。」
魔法使い風の恰好をした巨乳のマジョーナが上目遣いで話す。
巨乳は嫌いではない。
「勇者様は、この国を救ってくださるのです。我々があなた様を歓迎するのは当然です。」
マジョーナにそう言われると先ほど感じていた気持ち悪さが消えていった。




