#30 治療
僕は目を覚ますと、
「しらっ、っ・・・」
お約束の一言をつぶやこうとすると、顔面に激痛が走る。
体も動かない。
「おや。目が覚めたかい。」
痛みに悶えていると聞き慣れた声がする。
「随分派手にやられたじゃないか。」
振りむくと、そこには幼女がたっていた。
「ミ・・スト・・・」
「ひっひっひ。痛そうだね。」
「な、ぜっ・・・」
なぜ、ここにいるのか。と聞こうと思ったが、
やはり痛みでうまくしゃべれない。
それでも、ミストレスは察したのか。
「あんたは、治癒魔法もポーションも効かないからね。
あんたのために呼ばれたんだよ。
ほれ、これをお飲み。」
ミストレスは、発泡している紫の液体のなかに光る緑の粉が舞っている怪しげな薬を僕に近づける。
僕は、何とか上体を起こすとミストレスに怪しげな液体を飲ませてもらう。
「ぐっ。」
苦い。
めちゃくちゃ苦い。
液体の正体を知ってなきゃ毒だと確信するほど苦い。
そして、体中の傷が熱くなる。
その苦みと痛みに転げまわっていると、
「さて、この液体の成分は何だい。」
ミストレスが問いかける。
「鎮痛作用のあるロキ草と抗炎症効果のあるカールの根を混ぜて煎じた汁で、自然治癒力を高める上薬草を刻んで煮詰めています。出来れば、甘露根や陳皮で香りや甘みを足していただけると飲みやすかったのですが・・・」
先ほどまでの痛みが嘘のように引いていき、すらすらと話せた。
「さすがは、あたしの薬。そんなに喋れるなんて効果てきめんじゃないか。こんだけ高価な薬使わせといて、文句言うんじゃないよ。バカ弟子が!」
そうなのだ。
ロキ草やカールの根は、野生にほとんどなく、この辺りにはミストレスの植物園でしか見かけない。
ポーションのように瞬時に完治しないが、解熱鎮痛効果などから病気のときに重宝されており、末端では1回分で銀貨1枚(1万円)ほどで取引されている。
それより高価なのが、上薬草だ。普通の薬草であれば、そこら辺でも取れる。しかし、上薬草ともなれば、魔素の濃い場所でしか取れない。
魔素の濃い場所は自然と魔物が強くなるため、採取難易度が薬草とはけた違いだ。
また、薬草と異なり上薬草は劇薬だ。
煎じ方を間違えれば、治すどころか悪化させてしまう。
そんな劇薬を正しく薬として調製できたものは、銀貨5枚はくだらない。
そんな高価な薬をミストレスは用意してくれたのだ。
「すみません。ありがとうございます。痛みはすっかり良くなりました。体も動かせそうです。」
「ひっひっひ。そうだろうね。寝る前にもう一度この薬を飲めば、明日の朝には元通りさ。」
ミストレスは、どこか嬉しそうだ。
「でも・・・」
笑っていたミストレスは、真顔になる。
「薬草類とポーションの違い、およびその注意事項は何だい。」
「ポーションは回復魔法が含まれる魔法薬のため使用者の代償はありませんが、
薬草類は使用者の霊力を消費して、使用者の体内において回復魔法を構築するといわれています。薬草程度であれば、消費される霊力はわずかですが、上薬草以上が過量投与された場合、霊力を過度に消費して命に危険が及ぶ場合があります。」
僕は、暗記していたことを答える。
「まったく、記憶力だけは一人前だね。そういうことだから、気を付けるんだよ。まあ、あんたの霊力ならまず大丈夫だとは思うが、霊力を消費しなれてないだろうからね。」
ミストレスは、そういうと薬の入った瓶を僕に渡す。
「ありがとうございます。ミストレス。」
僕は薬を受け取ると、頭を下げる。
「ふん。代金は国から出るからね。あたしは、稼がせてもらっただけだよ。」
そんなはずはない。ミストレスの薬は、予約で半年待ちだ。
ミストレスと会話を続けていると
コンコン
ドアがノックされた。
「ああ、何度もお前を心配してのぞきに来ている子がいたね。」
ミストレスは、思い出したようにつぶやくと、ドアへ向かう。
誰だろ。姫様かな。
いや、この際違う女の子でもいい。
何度も来るとは、相当惚れられてるな。
これは、モテキの到来かもしれん。
イケメンに殴られてイケメンの仲間入りってか。




