#24 魔無しの魔女
憂鬱な午前中のあと、昼飯を食べて師匠の待つグラウンドに向かう。
「ハイバラ、なんか元気がないな。」
師匠が声をかけてくれたので、午前中の魔法の訓練で何もできなかったことを話す。
「おまえは、レアな才能を持ちすぎているからな。
一般的なカリキュラムじゃ合わんのかもな。」
「レアな才能ですか?」
「そうだ。魔無しは、漂流者でも30年に一人くらい出るからいいとして。
素手や健康、学習は、前代未聞のスキルみたいだぞ。」
僕は驚く。
「今なんて言いました?」
「ん、素手や健康、学習はお前しか持ってないって言ったんだ。」
「そこも驚きましたけど。僕のほかに魔無しの漂流者っているんですか?」
師匠は、僕の剣幕に驚いたようで
「あ、ああ。いるぞ。
近くだと30年前の漂流者が、薬草店を開いているはずだ。
気になるなら、明日の午前中に行ってきたらどうだ。」
「でも、魔法の訓練があります。」
「行きたくないんだろ。魔法や武器の訓練は必須ではないんだ。
やりたくなければやらなくていい。
まあ、おれとの訓練はできるだけ受けてほしいけどな。」
そうなのか。希望が湧いてきた。
その後は、いつも通りボロボロにされた。
でも、心なしか足が動くようになっている気がする。
あと、5日。それまでにあの槍を1回くらい掴んで見せる。
夕食後、城をぶらぶらしているとジイさんに会ったので、明日の午前中は魔法の訓練を欠席する旨を伝える。
「ふむ。たしかに、おぬしが魔法の訓練を受けてもできることはないな。
気が付かなくてすまぬ。
明日までに一筆したためるので、
それをもって魔無しの魔女ケイのもとを訪れるがいい。」
二つ名はあるんだな。やっぱり。
それにしても、魔無しのなのに魔女なのか。気になる。
あと、このジイさん、偉そうな雰囲気のわりに人がいいんだよな。
なんか漂流者の気持ちに理解がある。
「ジイさんも、漂流者だったのか?」
「ふん。そうじゃ。50年位前にな。本名は、陣内という。明日に説明するつもりだったが、こちらで使う名前を考えた方がよいぞ。漂流者の名前は、目立ちすぎるからな。いい意味でも悪い意味でも。」
「わかった。じゃあ、明日は魔無しの魔女のところへ行ってくるよ。」
翌日、ジイさんに用意してもらった手紙と地図、
ジイさんからもらったお小遣いの銀貨1枚をもって城を出た。
何気に初外出だ。
初めてのお使いのようでドキドキするね。
城を出る際、また勇者(笑)に絡まれた。
講義をサボるなとか一人だけ違う行動するなとか。
なんでアイツは、僕に絡むのか。
友達がいないのか。いなさそうだけどな。
カワイソウ
・・・
魔無しの魔女の店は、町はずれにあった。
その店は古く、不気味な雰囲気だ。
絵本とかに出てくる魔女の家、そのままだった。
勇気を出して、戸を叩く。
「すみませーん。」
すると、音もなく扉が開く。
薄暗い家の中から漂ってきた薬独特のにおいも手伝って
より不気味さを増していく。
まるで入ったら呪われてしまうかのようにさえ感じられた。
恐怖に震える脚に活を入れて、店に一歩踏み入れる。
その瞬間、戸は再び音もなくしまった。
まさか、もう出られないのだろうか。
そういった考えが頭をよぎりパニックになりかける。
足を踏み入れたことを後悔していると
「なにか、用かい。」
突然声が響く。
あたりを見回すが、誰もいない。
冷や汗が背中を伝う。
「こっちだよ。」
いよいよ黄泉の国へ誘われ始めたのだろうか。
「こっちだ。こっち。」
嫌だ。死にたくない。
「下だよ!」
その声につられて下を見てしまった。
そこにいたのは・・・
130センチくらいの幼女がいた。
「どいつもこいつもおんなじことしかしないが、
お前は特にひどい。
黄泉の国だの、死にたくないだの。
失礼にもほどがあるね。」
幼女は、おばさん臭くぼやいていた。
というか、心の声が聞こえるとはやはり幽霊か。
「だれが幽霊だい。心の声というか、全部声に出しているからね。」
どうやら幽霊ではないようだ。
安心したところで、改めて尋ねる。
「すみません。ケイさんを訪ねてきたのですが、ご在宅ですか?」
あえて丁寧に話しかける。
こういうおしゃまな女の子には、こういう話し方がうけるものだ。
「ほう、あたしを子ども扱いしない点は合格だね。
あたしが、魔無しの魔女ケイだよ。」
ちょっと何を言っているか分からない。
「ケイさんは、40歳くらいと伺っております。お若く見えるのですが。」
「ふん。幼女とかいう訳の分からん才能のせいさ。
まったくこの才能のせいで商売あがったりだよ。」
まさかロリババアがいるとは。
異世界に来たことをまた認識させられたのだった。
ちなみに、扉はただの自動ドアだった。




