#21 実技訓練
おっちゃんこと師匠による実技訓練が始まった。
「まあ、座れ」
師匠は、そういうと地面に座った。
僕も座る。
「ハイバラ、昨日はどうしてクロノに勝てたと思う?」
「うーん、師匠とキスケ・・・じゃなかった、キムラがいたし、魔剣が破壊できたから。」
キスケの本名が危うく出てこないところだった。
記憶スキルが仕事してない。
「そうだな。魔剣が破壊できたのはお前のスキルだ。そこは良い。しかし、俺がいなければ、クロノの攻撃はさばけなかったし、キムラが動きを止めなければ魔剣をつかめなかったな。」
「はい。」
「仲間を頼ることは悪くない。
でも、今後一人でどうにかしなければいけない場面も出てくるだろう。
そのための力を身に着けることを初めの目標としよう。」
僕がうなずくと、師匠は立ち上がって、模擬槍の先をこちらに向ける。
「とりあえず、俺の攻撃をよけてみろ。」
師匠は、まだ座っている僕に攻撃を仕掛ける。
僕は、慌てて立ち上がり、昨日と同じようにステップを使って何とかよける。
「槍を破壊してもいいぞ。できるならな。」
師匠は、スピードを上げて連続でついてくる。
僕は、必死でステップを踏み続ける。
眼力上昇のおかげで、軌道は何とか見える。
しかし、掴めない。
パターンを記憶しようとしても、単純なようで複雑な突きのバリエーションに翻弄されて把握しきれないし、何より手のスピードが足りず触れる気がしない。
「ほう、これもよけるか。なら、スピードアップだ。」
さらに、突きのスピードが上がる。
「あ」
ステップを踏む足がもつれた。
その瞬間、師匠の突きが腹に吸い込まれていく。
・・・
気が付くと、師匠から3メートルほど離れた場所であおむけになっていた。
「ゴホッゴホッ」
胸の尋常じゃない痛みのせいでうまく息ができない。
「わりー。あたる瞬間に突きのスピードを緩めたんだけど、止められなかったわ。
大丈夫か?」
痛みのあまり声が出ない。
何とか息をしようとした瞬間、盛大にパスタをぶちまけてしまった。
その後、何とか落ち着く。
「大丈夫なわけあるか―!初心者になんちゅう突きを放っとるんだ。
死んだかと思ったわ!」
師匠にマジ切れした。
「わりーな。思ったより避けるもんで、つい。」
「ついで、済むかー!この馬鹿師匠が!」
僕が怒っていると、師匠が悪びれもせずに言う。
「でも、お前に足りないものは分かっただろ?」
「攻撃をつかむ腕のスピード、よけ続ける体力、よける技術。何もかも足りませんでした。見えるだけじゃダメですね。」
僕がそういうと、師匠はにやりと笑った。
「やっぱり見えてやがったか。どんな眼してるんだ。まあ、でも概ねその通りだな。
お前って、意外と頭いいのか?それとも、学習の才能ってそんなにすごいのか?」
キスケといい師匠といい、なんで僕をあほの子みたいに扱うのか。
学習の才能がすごいんだよ。言わないけどな。
「今日は、ここまでだな。
明日からは、ランニングをはじめとしたトレーニングをした後、
俺の攻撃をよけ続けてもらうぞ。」
そうして、初めての実技訓練は終わった。




