#19 座学(社会)
黒野君の一件が落着した。
「お前たちは、部屋に戻りなさい。今夜のことは他言無用じゃよ。」
ジイさんは、僕らに帰室を促す。
「帰る前にシャワーを浴びてもいいかな。」
僕は、汗でべとべとだった。
「まあ、いいじゃろ。誰か個室シャワー室へ案内してやれ。ついでに着替えも用意しとけ。」
ジイさんは、めんどくさそうに答えた。
めんどくさそうだけど、やっぱり爺さんはいい人っぽいな。
「個室シャワー、やった。」
キスケもうれしそうだ。
「ジイさん、サンキュー。」
そういって、僕とキスケは地下牢を後にする。
その時、後ろから声がかかった。
「お前たちよくやったな。礼を言う。」
ジイさん、ツンデレなのか。
その枠は、需要ないと思うけど。
「おい。聞こえておるぞ。」
ジイさんは、こちらを睨む。
あれ、声に出ていたか。
1人の時間が長かったせいか、考えたことが口から出てしまうな。
1人の時間?
漂流前の転生後は、ボッチだったのだろうか?
その後、僕とキスケは個室シャワーへ向かった。
途中で、勇者(笑)に絡まれた。
勇者(笑)は、演習場でイチャイチャしていた巨乳魔導士と女騎士を引き連れていた。
魔導士が勇者(笑)に何かを耳打ちすると、なんで、勝手に部屋を抜け出しただとか、お前たちを探す羽目になっただとか、闇騎士の黒野君に加担してこの世界を壊すつもりかだとか、罵倒し始めた。
そして、ひとしきり騒いだ後、女騎士に促されて帰っていった。
勇者(笑)め、部屋を抜け出してるお前はどうなんだよ。
というか、なぜ黒野君の一件を知っている?
疑問が頭をもたげたが、あまりの疲労にシャワーを浴びた後は、部屋について寝てしまった。
次の日の朝食後に首輪を外してもらい、僕たち漂流者は講義室のような部屋に集められた。
朝食は、サンドイッチでした。パンに挟まれた塩っ気のきいた卵焼きがうまかった。
勇者(笑)は、まだこちらを睨んでいる。しつこい。
講義室には、ジイさんと初めて見る40代くらいのおっさんがいた。
姫様成分が不足している。
漂流者が、それぞれ席に着くと、ジイさんが話し始める。
「諸君には、これからこの世界のことやスキル、漂流者としての進路について学んでもらう。講師は、歴代の漂流者じゃ。今日の午前は、この世界について講義する。イド頼む。」
おっさんが前に出る。
「私がイドだ。6代前の漂流者になる。では、この世界の成り立ちを説明する。」
こうして、座学が始まり、僕は寝た。
座学が始まると同時に夢の世界へ旅立った僕だが、記憶スキルの睡眠学習により講義内容はしっかり把握できた。
この世界は、5つの大国で成り立っている。
五大国には今いる東の東神教国のほかに、南の南龍王国、西の西霊連邦、北の北魔帝国、中央の中央皇国がある。それぞれ教国、王国、連邦、帝国、皇国と呼ばれている。
教国と皇国には、おもに人族がくらし、王国には獣人族や龍人族が、連邦には精霊族や獣人族が、帝国には魔族や精霊族がくらす。
精霊族には、エルフやドワーフがいるようだ。
また、王国が神の加護を受けているように、王国は龍をはじめとする自然界に、帝国は魔界に加護を受けているようだ。教国と皇国は、自立しているらしい。ここら辺は、よくわからなかった。
あとは、貨幣価値がどうとか、それぞれの経済状況がどうとか、戦争の歴史がどうとか、ここ100年は戦争が起きていないとかそんな話だった。
他の漂流者は、よく真面目に聞けたな。
夢の中で、さらに寝るかと思った。
座学のあと簡単なテストがあった。
まあ、スキルのおかげで簡単だったんだけど。
そこで満点なんかとったものだから、勇者(笑)が怖い(笑)。
あいつ、なんであんなに真剣に聞いているのにテストがボロボロなんだよ。
目を開けたまま、寝てたのか。
まあ、僕が目立てるのもここまでだな。午後から、武器を使った実技って言ってたし。




