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アンファンタジーな少年の異世界冒険譚  作者: ほまれ
成り上がりの主人公編
20/47

#18 主人公旅立つ。

ふと、姫様の声がしないことに気が付く。

あたりを見回すと、黒野君の様子を見ているようだった。

「よかった。とりあえずは無事みたいね。」

安心したのか、肩の力が抜けていくのが分かった。

「姫様~、無事ですか~。」

一息ついていると、ジイさんが何人かの兵士を連れてきた。

退却した兵士もいた。

手当てをしてもらったようだ。

切られた足がくっついている。

さすが、ファンタジー。

キスケが安堵の表情を浮かべた。

おっちゃんが、状況を説明する。

「困ったことになりましたな。なぜ、黒野さんの手に魔剣が渡ってしまったのか。」

ジイさんがつぶやくと、姫様が答える。

「おそらく父上か姉上の手のものでしょう。

先ほど、父上から漂流者について連絡が来ましたし。」

「どういうことですか。」

僕は思わず口をはさむ。

「暴れさせて私たちに殺させるつもりだったのではないでしょうか。

問題は、漂流者のことが父上と姉さまたちに知られていることです。

このままでは、早くて2週間でこの城に来てしまいます。」

「予想以上に素早い対応でしたな。」

「はい・・・」

姫様は、考えに耽っている。

かわいい。

というか、魔剣士は殺されるほど嫌われているのか。

闇属性のことは隠し通すぞ。

「ジイペール。漂流者たちの教育を明日より急いで行いなさい。

父上はもちろん、姉さまたちに利用されないように。」

「は。かしこまりました。もう夜も遅い。おまえたちは、やすみなさい。

こんな夜中に抜け出して、まったく。」

ジイさんはぶつぶつ説教を始めた。

でも、そんなことより確認しなきゃいけないことがある。

「あの。黒野君はこれからどうなるのですか。」

姫様は険しい表情で答えてくれた。

「それも問題です。こうならないように、ここで保護していたのです。

しかし、魔剣で暴れたという情報が広まってしまうと、

この城にいる限り処刑を求める声を無視できないかもしれません。」

「そんな!せっかく助かったのに。暴れたのは魔剣のせいなのに。」

キスケの泣きそうな声に姫様が答える。

「そうです。黒野様を処刑させるわけにはいきません。

そこで、黒野様が回復次第、追放という形で城から逃します。」

「しかし、城から出ても危険なことには変わりないのではないですか。」

僕は、姫さんと会話できる喜びをひたすら隠しながら冷静に会話する。

「アッシュ、なにニヤけてんすか。」

隠しきれてなかったみたいだ。

キスケが冷たい視線を向けている。

姫様はそんなやり取りに気を留めず、それこそ冷静に会話を続けられた。

「そこは、漂流者ギルドの力を借ります。

漂流者ギルドは、城から出ることを選択した漂流者の団体です。

城にいるよりは安全でしょう。」

姫様と話していると黒野君が目を覚ましたようだった。

「うっ・・・」

「大丈夫かい。」

僕は、黒野君に声をかける。

「おまえは・・・?」

よく考えたら初対面だった。

よく知っているつもりで声をかけてしまった。

恥ずかしい。

「僕は、同じ漂流者のハイバラだ。」

「そうか。ハイバラ、お前が助けてくれたんだろ?ありがとな。

変な女にこのままじゃ殺されるとか言われてな。

逃げ出す力をやろうって、剣を渡されたんだ。

そのあとは、ほとんど記憶がない。

だが、おぼろげにお前が助けてくれたような気がしたよ。」

姫様が黒野君の前に出る。

「逃げ出そうとするのも無理はありません。

理不尽な目に合わせてしまい申し訳ございません。

城にも魔剣士や闇への嫌悪感が強い者が多く、

周りから守るにはああするしかございませんでした。」

姫様が謝る。

「ふん。どうだか。とりあえず、俺は城をでるぜ。

こんな目に合うのはもうごめんだ。」

黒野君は、姫様をにらみながら吐き捨てるように言う。

「はい。城をでたあとは、漂流者ギルドを訪ねてください。

話を通しておきます。ジイペール。」

「は。こちらが支度金となります。

そして、最低限の装備と荷物を用意させていただきました。」

「黒野様。どうかご無事で。」

「しらじらしい。あんたらも厄介払いができて清々しているんだろ。

まあ、もらえるものはもらってやる。じゃあな。」

黒野君は、荷物を乱暴に奪うと立ち去ろうとする。

おっちゃんが黒野君に声をかける。

「よう。よかったら、漂流者ギルドまで案内するぜ。」

「あんたは・・・。ハイバラと一緒に止めてくれた人か。」

「おう。気にするな。おれも漂流者だ。先輩だぜ。」

「じゃあ、先輩。頼むよ。」

僕は、黒野君に手を差し出す。

「クロノ。気を付けて。」

ここは格好つけて、呼び捨てにしてみる。

姫様の前だしな。

「アッシュ、声に出てるっす。」

クロノは、そのやり取りに少しとまっどた様だが、

「ああ、ハイバラ。またな。」

漂流して初めての笑顔で握手してくれた。

そうして、クロノはおっちゃんと城を出ていった。

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