#18 主人公旅立つ。
ふと、姫様の声がしないことに気が付く。
あたりを見回すと、黒野君の様子を見ているようだった。
「よかった。とりあえずは無事みたいね。」
安心したのか、肩の力が抜けていくのが分かった。
「姫様~、無事ですか~。」
一息ついていると、ジイさんが何人かの兵士を連れてきた。
退却した兵士もいた。
手当てをしてもらったようだ。
切られた足がくっついている。
さすが、ファンタジー。
キスケが安堵の表情を浮かべた。
おっちゃんが、状況を説明する。
「困ったことになりましたな。なぜ、黒野さんの手に魔剣が渡ってしまったのか。」
ジイさんがつぶやくと、姫様が答える。
「おそらく父上か姉上の手のものでしょう。
先ほど、父上から漂流者について連絡が来ましたし。」
「どういうことですか。」
僕は思わず口をはさむ。
「暴れさせて私たちに殺させるつもりだったのではないでしょうか。
問題は、漂流者のことが父上と姉さまたちに知られていることです。
このままでは、早くて2週間でこの城に来てしまいます。」
「予想以上に素早い対応でしたな。」
「はい・・・」
姫様は、考えに耽っている。
かわいい。
というか、魔剣士は殺されるほど嫌われているのか。
闇属性のことは隠し通すぞ。
「ジイペール。漂流者たちの教育を明日より急いで行いなさい。
父上はもちろん、姉さまたちに利用されないように。」
「は。かしこまりました。もう夜も遅い。おまえたちは、やすみなさい。
こんな夜中に抜け出して、まったく。」
ジイさんはぶつぶつ説教を始めた。
でも、そんなことより確認しなきゃいけないことがある。
「あの。黒野君はこれからどうなるのですか。」
姫様は険しい表情で答えてくれた。
「それも問題です。こうならないように、ここで保護していたのです。
しかし、魔剣で暴れたという情報が広まってしまうと、
この城にいる限り処刑を求める声を無視できないかもしれません。」
「そんな!せっかく助かったのに。暴れたのは魔剣のせいなのに。」
キスケの泣きそうな声に姫様が答える。
「そうです。黒野様を処刑させるわけにはいきません。
そこで、黒野様が回復次第、追放という形で城から逃します。」
「しかし、城から出ても危険なことには変わりないのではないですか。」
僕は、姫さんと会話できる喜びをひたすら隠しながら冷静に会話する。
「アッシュ、なにニヤけてんすか。」
隠しきれてなかったみたいだ。
キスケが冷たい視線を向けている。
姫様はそんなやり取りに気を留めず、それこそ冷静に会話を続けられた。
「そこは、漂流者ギルドの力を借ります。
漂流者ギルドは、城から出ることを選択した漂流者の団体です。
城にいるよりは安全でしょう。」
姫様と話していると黒野君が目を覚ましたようだった。
「うっ・・・」
「大丈夫かい。」
僕は、黒野君に声をかける。
「おまえは・・・?」
よく考えたら初対面だった。
よく知っているつもりで声をかけてしまった。
恥ずかしい。
「僕は、同じ漂流者のハイバラだ。」
「そうか。ハイバラ、お前が助けてくれたんだろ?ありがとな。
変な女にこのままじゃ殺されるとか言われてな。
逃げ出す力をやろうって、剣を渡されたんだ。
そのあとは、ほとんど記憶がない。
だが、おぼろげにお前が助けてくれたような気がしたよ。」
姫様が黒野君の前に出る。
「逃げ出そうとするのも無理はありません。
理不尽な目に合わせてしまい申し訳ございません。
城にも魔剣士や闇への嫌悪感が強い者が多く、
周りから守るにはああするしかございませんでした。」
姫様が謝る。
「ふん。どうだか。とりあえず、俺は城をでるぜ。
こんな目に合うのはもうごめんだ。」
黒野君は、姫様をにらみながら吐き捨てるように言う。
「はい。城をでたあとは、漂流者ギルドを訪ねてください。
話を通しておきます。ジイペール。」
「は。こちらが支度金となります。
そして、最低限の装備と荷物を用意させていただきました。」
「黒野様。どうかご無事で。」
「しらじらしい。あんたらも厄介払いができて清々しているんだろ。
まあ、もらえるものはもらってやる。じゃあな。」
黒野君は、荷物を乱暴に奪うと立ち去ろうとする。
おっちゃんが黒野君に声をかける。
「よう。よかったら、漂流者ギルドまで案内するぜ。」
「あんたは・・・。ハイバラと一緒に止めてくれた人か。」
「おう。気にするな。おれも漂流者だ。先輩だぜ。」
「じゃあ、先輩。頼むよ。」
僕は、黒野君に手を差し出す。
「クロノ。気を付けて。」
ここは格好つけて、呼び捨てにしてみる。
姫様の前だしな。
「アッシュ、声に出てるっす。」
クロノは、そのやり取りに少しとまっどた様だが、
「ああ、ハイバラ。またな。」
漂流して初めての笑顔で握手してくれた。
そうして、クロノはおっちゃんと城を出ていった。




