#15 地下牢
僕は、黒野君がとらわれていると思しき地下牢を探して、キスケと夜の城を探索していた。
そして、地図を見る限り地下牢へと続くと思われる階段へとたどり着いた。
「暗いな。」
階段の先は、上昇した眼力でも見ることはできなかった。
一段一段ゆっくり降りていく。
大きな足音を立てないように気を付ける。
狩猟本能は、止まっているときにしか効果が無いようだった。
キスケをみると、無音で階段を下りている。
完全の僕の上位版だ。
まあ、忍者だしな。
そんなことを考えていると、下の方に明かりが見えてきた。
そろそろ地下牢に着くといいのだけれど。
ちょうど階段を降り切ったとき
「ウワァー!!!」
「ぎゃー!」
獣のような叫び声と悲鳴が聞こえた。
急いで声の方に向かう。
「ウォー!!!」
また、叫び声が聞こえる。
よく聞くと黒野君のこえのような気もする。
声がした方向に向かっていると兵士と思しき男たちの声が聞こえた。
「なぜ魔剣が黒野の手に渡っているのだ。」
「分かりません。それにしても、魔剣は手にしたら命を落とすのではないのですか?」
「奴は、魔剣の才能を持っているから、死にはしない。
だが、レベルが低く制御しきれず暴走してやがる。
いや?狂化の呪いの魔剣か?」
そんな会話を聞きながら、ようやく、地下牢にたどり着く。
そこには、壊れた鉄格子の牢屋と3人の兵士、
そして、禍々しいオーラを纏い暴れる黒野君の姿があった。
兵士の一人は切られたのか、左腕から血を流している。
兵士たちは、槍で距離を取りながら攻撃をさばいていた。
黒野君にケガはなく、兵士たちには黒野君を殺す気が無い様だった。
そこに、キスケが飛び出す。
「黒野君、どうしたっすか。」
キスケの声に兵士の一人の注意がこちらに逸れてしまう。
その隙に、黒野君は兵士の右足を切り飛ばした。
飛んでいく足を見たキスケは、自分が招いた状況にうろたえている。
1人の兵士が残って、二人を逃がすようだ。
だが、二人で抑えていた黒野君を一人で抑えているため、
先ほどの余裕はなくなっている。
「黒野君、聞こえるか。聞こえたら返事をしてくれ。」
僕は、黒野君に叫んだ。
黒野君は、一瞬こちらを見たが、
「グウォー!」
と叫んで、また暴れだした。
しかし、その隙に負傷した二人の兵士はなんとかこちらまで下がってきた。
傷口には黒い靄がまとわりついている。
「傷は、大丈夫なんですか?」
思わず聞いてしまう。
「魔剣に切られれば、わずかな傷でも、徐々に命をむしばむ呪いを受けてしまう。
黒い靄はその呪いだ。解呪士がいれば。」
二人ともかなり苦しそうだ。
魔無しの力で破壊できないだろうか。
恐る恐る傷に触れてみる。
パリン。
靄は霧散してしまった。
「あ、ありがとう。助かった。」
腕をけがした兵士は、僕に礼を言うと、
気を失っている足を失った兵士と切り飛ばされた足を担ぎ、
退却していった。
残った兵士は一人になっても善戦しているが、苦しそうだ。
その時、後ろから声がする。
「殺してはいけません!」
振り返ると姫様がいた。
走ってきたのか、額に汗を滴らせている。
僕らに追いついた姫様は、キスケの肩に手を置いて
「まさか、こんなに早く・・・。あっちの対応もギリギリだったのに。今回は厳しいかしら。」
とつぶやいた後に、ハッとした顔でこちらの様子を伺いいながら
「お二人は無事ですか?」
と聞いてくれた。
「僕たちも今来たところで何ともありません。」
僕は、姫様との会話に少し浮かれながら答えた。
上気した顔も一段とかわいらしい。
そんな僕には興味をなくしたようで「そう。」とだけこぼし、今度は兵士に向かって
「いいですか。殺さずに対応してください。」
と叫んだ。
しかし、兵士も決め手に欠けており、返事をする余裕もない様子だ。
このままでは、黒野君が殺されてしまうかもしれない。
殺されるのはだめだ。
姫様は、だれも死なせないようにと望んでいる。
どんな事情があって、見ず知らずの僕らを死なせたくないかは知らない。
でも、何もわからない土地で死なせたくないという言葉はうれしかった。
なにより、あの姫様の言葉だ。
僕は、覚悟を決めた。




