#13 キスケ
同室のイツキと黒野君を探しがてら、城を探索しようということになった。
部屋から出て3歩ほど歩いて、ふと思い立つ。
「ねえ、イツキ。」
「なんすか?」
僕は、振りむいたイツキの喉に手刀を叩き込む。
「ていっ」
バリン!
おなじみの音が聞こえて、イツキの首輪の光が消えた。
イツキの首輪に刺さっている手を抜き取ると、
「ごほっ。何するんすか。」
イツキは、なぜか苦しそうに首をさする。
病気だろうか。心配だ。
首をさすったイツキが、気づいた。
「これが、最初の部屋で言っていた首輪っすか。ハイバラさんの魔無しの力で破壊したんすね。さては、何人かの首輪を壊したのもハイバラさんっすね。」
「しっ!声が大きい。犯人が僕だとばれてみろ。
どんな賠償請求が来るか分からないぞ。これは、口外無用だからな。」
これから起こるかもしれない賠償問題に恐怖していると、
イツキが感心した顔をしている。
「そうか。首輪にどんな機能がついていたか分からないからっすね。
発信機とか盗聴器みたいな機能がついていても不思議じゃないっす。
ハイバラさんは、意外と賢いっすね。」
こいつ、僕を完全に馬鹿だと思っているな。
「あとは、お互いの能力について少しは情報共有しないっすか。
自分のメイン職業は忍者です。スキルは隠密行動や忍術があります。」
「忍者か、いいなぁ。忍者といえば、サスケだよね。黄色いサスケでキスケって呼ぼう。」
こちらの世界では、ニックネームを名乗るのが良いのだとか。
演習場で偉そうな騎士のおっさんが言っていた。
いい機会なのでイツキに提案してみる。
「キスケっすか。忍者っぽくていいですね。自分は、ハイバラさんをアッシュって呼ぶっス。」
キスケは喜んでいる。
僕は、某子供向けアニメのヒヨコみたいな小鬼を思い浮かべていた。
それにしてもアッシュか。ちょっとかっこいい。
城を出た暁には、アッシュって名乗ろう。
「うむ、気に入った。褒美として、いずれはアオベエとアカネを見つけよう。」
「・・・まあ、いいっす。」
キスケは、何故かジト目でにらむ。
僕は、そんなキスケを無視して改めて自己紹介する。
「僕のメイン職業は、狩人と薬師だよ。動植物の知識なら負けない。あと、狩りもLv.1だけど持っている。」
「アッシュ、まったく戦闘に向かないっすね。」
うん、知っている。
「では、キスケ。今回のミッションを確認する。」
「らじゃ。第一ミッションは、黒野君を見つけることっす。現状を確認して、ひどければ抗議するっす。」
「うむ。よろしい。では、途中で食堂に行って、なにか差し入れるものを物色しよう。」
「アッシュ隊長。食べ物は、自分が持っているっす。
実は、清掃っていう才能に収納のスキルがあったので、余っていた夕食をしまってみたっす。
まだLv.1なのでそんなに量は入らないけど、一人が食べるには十分っす。」
「すげーな。アイテムボックスじゃん。
この差はへこむな。
ねえ、健康ってどう思う?」
「素に戻らないでほしいっす。あと、このスキルは秘密っす。
他に知られると面倒になるっす。」
キスケが真剣な目で訴える。
「わかったよ。じゃあ、探索にしゅっぱーつ。」
「ラジャー。」
キスケの持っていた食料をつまみながら、僕らはようやく出発した。
黒野君は、生きているだろうか。




