僕ではない、君のために。
彼女は生まれつき体が弱かった。
いつも代わり映えのない自分の部屋で一枚の布団にくるまって、寝ているしかなかった。
僕はそれが、悲しかった。
愛らしくも儚げな彼女の表情が、悲しさに邪魔されて見えたから。
見えてしまったから、ほっておくことは出来なかった。
美しくも可憐な黒髪が窓の隙間を通り抜けた風がそっと揺らして。
雪月のような真っ白な肌を、 皓月の光が更に彼女を輝かせ。
僕を見つめ、にっこりと笑う顔だけはこの世界のなにより、負けることのない強さだった。
彼女の代わりに、外へ出掛けよう。
彼女の代わりに、景色を眺めよう。
彼女の代わりに、食べ物を買ってこよう。
彼女の代わりに、料理を作ってあげよう。
彼女が幸せそうな様子を見れるだけで、僕は幸せになれた。
必死に頑張ってきた彼女のために、僕は彼女がゆっくり腰を休ませる木になろう。
また、ゆっくりと歩き出すために。
そして彼女と共に、明日を見据えよう。
だから僕は彼女の元に、彼女が眠る家に足先を向ける。