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一つの魂二つの命 ~とある少女のドタバタ現代ラブコメディ~  作者: 越賀イタイ
1話 出会い ~渋谷事件~
5/15

1-5

 

 人混みをかきわけて足を進めるこころだが、頭はあの男に対する悪態でいっぱいだった。


「なーにが「惚れちゃった?」だ!イケメンならなんでも許されると思ってんのかねぇ!?相手が悪人ならもう弁償とか無しだから!チャラだから!だいたい意味わかんない。何「最近よく写る」って!?写真にたまたま写ったとかなら、そんなんウチのせいじゃないし!」


 プンプンしながらしばらく歩いていると、男への悪態も尽きかけてきて少し落ち着いてきた。

 そうしてハッと我に返ると、やっと五感に意識が向き、周りの景色が目に入ってくる。縦横無尽に行き交うたくさんの人々、遠くが見えないほど多く立ち並ぶ建物と看板、雑音となっている人々の会話、どこから流れているのかわからない音楽。そうだ自分は今渋谷にいるのだった。


「あ、那月・・・」


「ここに居てね」と言った那月の姿を思い出す。そして那月とはぐれていることに気づいた。

 マズイと思ってすぐに携帯で連絡を取ろうとする。が・・・


「あ、あれ・・・?え?ウソちょっと待って・・・」


 自身が身軽なのに気がついた。無意識に持っていたはずのサブバックがない。ということは、サブバックのポケットに仕舞っていた壊れかけの相棒も、三千円ほど入っている財布もここには無いということ。最後の望みをかけてポケットに手を入れるも、何も入っていない。連絡を取る手段を失っていることと、帰る手段を失っていることに気づいた途端、顔から血の気が引いていくのがわかった。

 どこからサブバックを持っていなかったのか・・・まずはそこから思い出してみる。那月と分かれた時は携帯で写真を撮っていたので、この時はあった。となればやはりあの車の中だろう。一番避けたい場所である。しかしそうも言ってられず、とにかく何が何でも取り返さなければならない。帰れないことが一番怖い。

 そう思って先ほど車を降りたところに向かうことにするが・・・


「・・・どっちだ」


 周りをよく見ずに歩いていた結果、自分がどこから来て、今どこにるのかさっぱりわからない。完全に迷子になってしまっていた。


「おおお落ち着け!まだ手はある!そうだ、一旦いちまるきゅうに行こう。那月がまだいるかも!」


 とりあえず案が浮かんだことに安心するが、肝心の109をまずは探さなければいけない。だがネットが使えない今、手元に地図がない。あたりを見回すと、幸いなことに公共用に立っている地図看板を発見した。

 これでとりあえずの方向はわかった。那月がまだそこに居てくれることを願うしかない。足早に移動を開始する。


 その後も、道行く渋谷人ぽいお姉さんやお店の人に何度か道を尋ねながら、なんとか109に辿り着いた。だが時はすでに17時を過ぎていた。辺りも暗くなってきており、不安と心細さが一段と増す。このまま那月に会えなかったらと思うと泣きそうになる。

 そんな気分の浮かない自分をよそに、周りの人間は楽しそうであった。本当は自分もこの人たちのように今日一日楽しむはずだったのに、なぜこんな想いをしなければいけないのか。それもこれも元凶はあの男であると、さらに強く恨めしく思った。

 かれこれ30分ほどはこの場所に留まっていた。だが一向に那月の姿は見えないし、空はどんどん暗くなってくる。もしかしたらここで待っていてもダメなのかもしれない。ならば警察に行って保護してもらえばいい、と名案が浮かんだ。今度は交番を探さなければ。そう決心して移動しようとしたその時、肩を叩かれた。


「那月!?」


 期待を胸に振り向いたが・・・


「あ?誰、待ち合わせ中?」


 知らない若い男の集団だった。なんだかチャラチャラした服装で、これが渋谷系というやつなのだろうか。


「あ・・・いえ、友達を探してて・・・」


 こころは肩を落とした。そして期待値が急降下した衝撃で、もう泣きそうだった。やはり警察に行かねばならない。


「え、大丈夫?なんかあったの?泣きそうじゃね?」


 そう声をかけられて、抑えようとしていた感情が一気に溢れてしまい、泣き出してしまった。


「え、え、え!?どうするよ・・・」

「俺に聞くなよ!」

「あ、じゃあお兄さんが胸貸してあげるから、ね?」


 ナンパ目的の軽い気持ちで声をかけた女子高生が目の前でいきなり泣き出してしまい、その予想外の出来事に困惑する渋谷系お兄さんたち。


「なっ那月・・・友達とっ・・・はぐれて・・・ひっく」

「あ、うんうん迷子かな?」

「鞄、も失くしちゃって・・・携帯も、財布もっ・・・無くて・・・」

「そりゃヤバイ・・・」


 そこまで聞いて大体の状況が飲み込めた彼らは顔を見合わせる。


「じゃ、じゃあお兄さんたちもその友達探してあげるから、一緒に行こう?」

「そうそう、一人で探すより大勢の方がいいよな」

「友達はナツキちゃんって言うんだね?」


 その中の一人が提案し、それに他の二人も賛同する。だがこころは首を横に振った。


「ひっく・・・警察・・・行く」


 その言葉で三人の表情が固まった。


「ちょっと待って待って!警察はまだ早いんじゃね?ほら、まだ近くにナツキちゃんいるかもしれないし」

「そうそう、それに警察って面倒なことなーんもやってくれない無能だし!」


 まるで警察に行くことを拒むような態度をとる三人。だが取り乱している今のこころは、その様子が怪しいということに一ミリも気づいていない。


「ほら、とりあえず歩こ!歩きながら探そう」


 そう言って男の一人がこころの手を取るが、


「ヤダ」


 拒絶された。どうするか、とまた顔を見合わせた三人の内、また別の男が提案する。


「わかったわかった。じゃあ交番まで案内するから。それでいいよね?」

「・・・うん」

「え、おい!?」


 先ほどの男が声を荒げるが、提案した男は目で何かを訴えると、他の二人は納得した顔をしてその場は収まった。そうしてこころは交番に向かうという彼らに付いて行くことになった。



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