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「すっごい・・・人、人、人ー!!」
「うっさい!」
ゴッとすさまじい音を立てて、こころの頭に激痛が走った。那月の鉄拳が飛んできたのだ。
「いったぁ・・・グーはないよぉ・・・」
涙目で訴えるこころを横目に、グーの拳から腕を組みなおし、フンと鼻を鳴らす那月。
「ここ駅前なんだし、待ち合わせる人が多いから人がたくさんいるのよ」
「あ、じゃあココが名犬ハチ公のいる・・・!」
こころはそう言うやいなや、あたりをキョロキョロと見渡す。那月は「はぁ」とため息を漏らしながらも、指でハチ公の銅像を指し示した。絶賛感激中のこころが、原型を辛じて留めているガラケーでハチ公銅像を写真に収めている間に、那月はスマホを取り出し目的であるアイスクリーム屋の情報をネットで確認する。
「・・・あったわ、今回はここね。こころー、場所わかったから行くわよー」
「はーい」
後ろから那月に呼ばれ撮影をやめ、声のする方へ走ろうとしたその時―――
ドンッ
人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
その相手は運悪く、腰の曲がったご老人だった。打ち所が悪かったら大変なことになる。そう思い一瞬冷や汗が出たが・・・
「ほっほ・・・大丈夫ですよ。お嬢さんこそお怪我はありませんかな」
帽子を被っており表情は読めないが、幸いにも老人は体勢が崩れた様子もなく、むしろこちらの心配をしてくれた。
「あ、いえ、私は全然!」
「都会は色々な人がいますからね、気をつけてくださいね。ほっほっほ」
「は、はい・・・」
そう言って老人は人混みの中に消えていった。突然の他人とのトラブルにあっけに取られていたが、那月の声で我に返る。
「ちょっと何やってんのよ、行くわよ!」
「あ、いや今おじいさんにぶつかっちゃって・・・悪いことしたなぁって。ていうか若者の街にもご年配の方いるんだね」
「はぁ?何言ってんの。そりゃあいるに決まってるでしょ。てかそこらへんのホームレスじゃないの?」
そうかなぁ、と思い返すと、とっさのことであまり服装などは気にしなかったが、紳士服と帽子で小綺麗な印象を受けたのだった。そして口調は優しく荒れた人では無いことは分かった。だがたくさんの人で賑わうこの都会で、もう二度と会うことはないのだろう。こころは考えるのをやめた。
「さ、アイス食べに行くわよ」
「うい」
那月に促され、こころの思考は目的のアイスクリームへとシフトチェンジした。