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「返してきなさい」
夕食の席でスマホを手に入れたことを告げたとき、父からは予想通りの返答をもらってしまう。
「っ……でも、くれるって!い、要らなかったら捨ててもいいとかなんとか……」
「返してきなさい」
2度も、ピシャリと断言する父を説得するのは難しいことを、娘であるこころは重々承知している。
「ですよねー……」
ことは、夕食時に「名義って何?」と気軽に話したことから始まるわけで。
「ママ、アンタがまたなんかネットで頼んだんだと思ったわ」
「あ、あはは(まぁ明日あたりにゲームが届くんだけども)」
母親は呆れ顔。今はこの話はしないでおこう。
「でもその人、本当にちゃんとした人なの?パパ知ってる?」
「あ、ああ。名前はな。ニュース記事で。会社の偉い人なんだろうよ。だがなんでお前がそんな人から高価な物をもらうんだい」
心配する母も口を出す。それは当たり前だ。赤の他人から高額な物をもらうなんて、普通はないだろう。
この回答にはこころも困った。拉致られたことと、ホテル街へ連れていかれたことを言えば、警察沙汰になる可能性もある。
「あー、なんていうか、たまたま?そう、たまたま!携帯壊れた時にいたから!」
嘘は言ってない。
「とにかく、明日返してきなさい。携帯なら今度パパが買ってやるから」
父はそう言うと、煮つけの里芋を箸でつかみ、口へ運んだ。これ以上言う気はないらしい。
「はーい……」
こころもこれ以上色々聞かれても困るので、素直に言うとおりにすることを選んだ。
部屋に戻るとこころは充電していたスマホを触る。日中はネットやアプリなどを一通り触っていたのだが、その便利さ、アプリの面白さに感動していたところだ。明日すぐに返してしまうのが惜しいが、父に同じものを買ってもらおうと思った。
そして、明日返しに行くということは、悠貴に会うということ。アポをとるため、再び電話をしなければならない。
「はー…、気が重い」
1件だけある着信履歴を見つめながら、こころはため息をつく。
家族や友達以外に電話をするという行為は、なかなかどうして、緊張してしまうのだろう。まして、あまり連絡を取りたくない相手ならなおさら。
10分ほど画面とにらめっこしていたこころだが、意を決して通話ボタンを押した。
が、
「出ない……」
相手が出ないことに軽くホッとする。と同時に、アポが取れないのはまずい。その後も3度ほどリダイヤルしてみるが、やはり出ない。気づけば時間は夜10時近く。
「寝てるとしたら、相当おじいちゃんだぞコレ」
小さな悪態を吐きながら、こころはふと思い出した。皇悠貴が社長だということを。
こころはそのままスマホで「皇悠貴 社長」と入力し、検索した。
「お、あるじゃ~ん」
それはとある会社のサイトだ。なんの会社かわからなかったが、悠貴が社長をやっている。つまりここへ行けば悠貴がいる。そう考えが行きついたのだ。明日、ここへ向かえばいい。楽観視したこころは早々に寝支度を整え、明日に備えた。




