異世界への片道切符
「……ああ、俺はやっと憧れの異世界への切符を手に入れた」
そう、彼は呟いた。
エリート街道を走り続けたが途中で失速、現実の辛さを感じ、2次元に逃避。
高校を途中から休み続け、親のどこか憐れむ視線に耐え、只々アニメやネット小説に身を重ね……更にはそれを実現しようとする程度には、所謂厨二病も悪化していた。
そんな時だった。都市伝説「合わせ鏡をするとき、異世界への片道切符を手に入れる」をある日、ネットサーフィンで見つけ、「異世界転生」に憧れていた彼は飛び付いた。
そして、だ。
「鏡を三枚斜め45°に合わせ…ボタンを特定の順番で押す……ああ……『そして、これが最後のチャンスです、後悔しないなら、4階で降りないで下さい。少し経てば、白服の女性が乗って来るはずです。決して顔を見ないで下さい。そして、1階のボタンを押して下さい。すると、1階で止まらないはずです』うん、後悔はしない。装備品も万端。さあ、行くか、異世界へ!」
そして、ボタンを彼は押した。すると突如、ボタンの色が変わり、窓から見える景色が、コンクリート壁や鉄骨から、なんとも言い難い何かとなり……
「……ああ、俺はやっと憧れの異世界への切符を手に入れた」
そして、彼、伊坂誉は意識を失った。
眼が覚めると、そこは焼け野原であった。
「着いたか…良し、荷物オーケー、俺は無事か。あのネット記事は本当だったんだな。しかし、転生と言えばチートスキルやらステータスだろ。ま、やってみるか。ステータス!」
反応しない。
「ステータス!」
何も、起こらない。
「おいまじかよ……あれ?メールだ」
『もし貴方が今なんらかの方法でこのメッセージを読んでいるならば、それは……何らかの手段で次元を乗り越えた時でしょう。もしかすると、『カミカクシ』かも知れません。そして、創世主の私でも、それに関しては干渉できない取り決めとなっております。しかし、心ばかりの助言だけなら可能です。
まず一つめは、『元貴方の世界の人間は脆い』
二つめは、『あなたがたには思考能力がある』
三つめは、『全ての知識を利用せよ、神は干渉しない、さあ、我が次元の優秀さを見せ付けよ』
これだけです。貴方の活躍に期待しております」
ところで、だ。さっきから血の匂いがするんだが。
周りを見渡すと…
腹から内臓を垂れ流して歩くエルフの男。
下半身が炭になった死体。
何かの破片が腕に刺さって苦しむ女。
火がついて泣き叫ぶ少女。
それを消そうとして足首のない事に気付くドワーフ。
馬に乗って走ってくる騎士。
野戦病院らしきテントを張る兵隊。
ポーションを配るシスターらしき女。
「……おい!そこのお前、大丈夫か!」
さっき馬に乗っていた騎士の様だ。取り敢えず誤魔化すか。まだよく分からないし。
「防壁を張ったから俺は無事だ!」
あれ?周りの様子が…
「おい、お前、魔法使いか!皆の者!こいつに優先的に物資を回せ!なあ、お前も手伝え」
これは……いきなりのフラグか。いきなりだが、異世界知識を活かしますかね!
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