迷探偵パーシヴァルの事件簿
考えたら負けです。
ノリと勢いだけで書きました。
対戦よろしくお願いします!
男…パーシヴァル・ホイットロックは大きく息を吸い、言った。
「犯人はあなたです!」
そして勢いよく指差す。
その場にいた全員の視線がそこへ向く。
「ココア・マカロン13世!」
「シャーー!!!」
視線の先にいたココア・マカロン13世ことオスの黒猫ココアはパーシヴァルを威嚇した。
「いやないわ」
パーシヴァルの助手、ウェンディ・シャノワールは呆れた声を上げた。
「ね、猫がどうやって商工会議事録を?!」
「真面目に受けないで、商工会長!!」
疑問の声を上げる商工会長にウェンディが突っ込むが、パーシヴァルは不敵に笑った。
「それでは謎解きといきましょう!」
その日の商工会長のおやつは夫人特製のエクレアだった。
その匂いに釣られてココア・マカロン13世がやってきた。あー!長い!
ココアはエクレアに齧り付き夢中になって食べた。その時に、インク瓶を落としてしまったのです!皆さんが聞いた音はこの音でしょう!
驚いたココアは逃走。たまたまそこに訪れた夫人はインクで染まった議事録を見て汚損書類として処理をした!……….どうです?
「ココア!エクレア食べちゃったの?!」
夫人が声を上げた。
「だから太るのよ!」
えー、今そこ?と商工会長は半目で夫人をみた。
「猫にチョコはいかんと思うぞ」
ーーーああ、バカばっか
ウェンディは心の中で頭を抱えるのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「霧の都、ロンパリシティ。
文化の最前線であるこの街は、いつも事件がおきている。
そんな時力になるのが、我ら探偵というものだ!」
「…って誰に言ってるんです?」
見えない何かに向かって説明しているパーシヴァルにウェンディは紅茶を啜りながら呆れた声で尋ねた。
「メタな発言は控えたまえ、ウェンディ君」
それより僕の分の紅茶はないのかね?という彼に、ウェンディはテーブルの上のティーポットを指差す。
「キミ、最近僕に冷たすぎないかい?
……ああ、わかった!」
「何がです?」
「僕が好きすぎて素直になれない、いわゆるツンデレというやつだな!」
「おおっと手がすべったぁ!」
パシーンっ!と、ウェンディがどこからともなく取り出したハリセンが良い音を立てた。
窓の外を通りがかったココアが音に驚き、捕まえたスズメをポトリと落とす。スズメは命からがら逃げていった。頑張れ!スズメ!
「あの…入っても良いかね?」
その時、少し開いたドアから1人の紳士が顔を覗かせた。
良い服を着た恰幅のいい金持ちそうなおっさ…失礼、紳士。
「ドアベル鳴らしてくださればいいのに…」
ウェンディがポツリというと「鳴らしたんだが…」と紳士は返した。
ハリセンの音でかき消されたらしい。
「私はセブンス侯爵、君達に仕事を頼みたい」
依頼の内容はこうだった。
侯爵の家には多くの時計が飾ってあるが、必ず7分、時間が進むのだそうだ。
一つではない。腕時計、懐中時計など小さなものを除き、家中全ての時計だ。
初めは電池切れかと思い入れ替えたり、ネジを巻いたりもしてみたが、必ずズレる。
とにかく気持ちが悪い。
その謎を解いてほしいというものだった。
「なんだ、殺人事件ではないのか…」
「物騒なこと言わないでください!」
残念そうなパーシヴァルの頭手加減なしにウェンディは叩いた。
パーシヴァルも痛かったが、ウェンディも手が痛かった。やっぱり次からハリセンを使おう。
「もういっそのこと買い換えちゃえばよくないですか?」
気を取り直してウェンディ。
「買い換えましたとも!家中全て!それでも進むのです」
侯爵は当然のように答えた。ち、これだから金持ちは…。
「電波時計にすれば良いのに…」
「何かね?それは」
「気にしないで」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
とにかく現場を見てみようと、侯爵の馬車に乗り館へ向かった。
「わぁ、素敵!」
ウェンディがはしゃぐ。
「はっはっは、キミも女の子だったんだな!」
そんな彼女をパーシヴァルが笑った。
「張っ倒すわよ」
侯爵は思った。依頼する相手間違えたかも…と。
侯爵の館の部屋数は多い。
確認作業をしてだけでもうんざりした。
調べた結果、時計そのものはごく普通の電池式……ものによってはぜんまい式もので特に変わったところもなかった。
が、とにかく数が多い。
「家の中で歩くだけで万歩計欲しくなるわ」
「持っています」
ぜいぜいと肩で息をしているウェンディに後ろから声をかけたのは、1人のメイドだった。
思わず「ひぃ」と声が出てしまった。
メイドが万歩計を取り出す。
ただいま午後2時、9999歩。
「なんかめっちゃ悔しいもの見せられた気分」
「私もでございます」
メイドはそう言って、万歩計を一回振った。
ジャスト10000、満足。
「いやいやいや、それダメなやつ」
「一歩くらい変わりません」
このメイド、なかなかやる。
「それはともかく、あなたは?」
ウェンディが尋ねると
「見ての通りの通りすがりのメイド、名前をメアリーと申します」
お手本のように頭を下げメアリーは名乗った。
「メアリーさんですね?」
ウェンディはメモ帳を取り出し記入した。
そして名乗る。
「私はウェンディ、時計の進む現象の調査に来ました」
「……っ!?」
瞬間、メアリーは息を呑んだ。
「…調査、で、ございますか?」
ウェンディの瞳がキラリと光る。
「何かご存じで?」
「い、いえ、私などが話せるとこはなにも…」
急に歯切れが悪くなった。
「じ、事件と思われることはなにもないと思います。それでは、私は仕事があるので」
そして一礼するとメアリーは逃げていった。
「めっちゃ怪しいなー」
その背中にウェンディはつぶやいた。
ふと気づいた。パーシヴァルがいない。
そういえばメアリーに会った時にはすでにいなかった。
「あのポンコツ探偵どこ行ったのよ!」
思わず本音がでたがここには誰もいない。大きな掃き出し窓を開け放ち中庭を見れば、小さな黒い影が横切っていった。あれは…
「ココア?ここにも出入りしてるの?」
事件現場に必ずいる猫、ココア。
そのココアを追いかけて、吊りズボンの男が走ってきた。
「猫、見なかったか?」
男が尋ねる。「壁を乗り越えて出て行きました」というと、男はふぅと汗を拭った。
「アンタ、探偵さんだろ?俺はエドモンド、庭師だ」
「私はウェンディです。」
ところで、なんで猫を?と尋ねるとエドモンドはあのバカ猫は…と続けた。 「庭のツツジを食べようとしやがるんだ」
あれは猫には毒だとエドモンド。
「ココア、ほんとに見境ないな…」
「ほんとにな」
「ところでエドモンドさん、この館の時計がなぜか進む現象について何か知りませんか?」
ウェンディが尋ねると、エドモンドは息を呑んだ。目が急にキョロキョロと泳ぐ。
「俺は知らん。何も見とらん」
さあで、仕事に戻らねーとと、エドモンドはさっていった。
「うわぁ、怪しさ全開」
それにしてもどこへ行ったパーシヴァル!
お前主役だろ!探偵役だろ!とイライラしながらウェンディは館を歩き回っていた。
探索パートって探偵と助手が一緒に見て回るものじゃないの?
つか、お屋敷なのに案内つかないとか、不用心じゃない?
ウェンディのイライラが頂点に達しようとした時、
「よぉーし、次は負けないぞ!」
聞き覚えのあるはしゃぎ声が聞こえた。
すぐそばの扉だ。
「パーシーーーーー!!!!」
怒鳴りながら扉を開けると
「やりぃ!僕の勝ち!」
「やるな!少年」
そこにはボードゲームに興じる…というか秒で負けているパーシヴァルといかにも貴族という身なりの少年がいた。
「………」
ウェンディは言葉を失った。
「ああ、ウェンディ君、紹介しよう。彼はアーサー少年。セブンス侯爵の一人息子だ」
「アーサーです。よろしく」
2人はボードゲームから目を逸らすことなく紹介する。
ウェンディは怒鳴りたかった。
ハリセンでぶっ叩きたかった。
だが、坊ちゃまの前でそれはできない。
「くぅ…」
鬼悔しい。
「そんなことより、調査はすすんでるかね?
おおっと、少年、それは卑怯ではないかね?」
ゲームから目を離さずにパーシヴァル。
お前がいうな、だ。
「ええ、メイドと庭師にお会いしました」
「ああ、メアリーとエドモンドだね。面白いでしょ?」
と坊ちゃま。パーシヴァルと同じく、ゲームから目を離さない。
「ええ、大変、個性的な方たちでした」
「個性的か、君には負けるだろう?」
挟まってくるパーシヴァル。
「パーシー、後で覚えてなさい」
「あらあら、アーサー、探偵さんに遊んでもらってるの?」
ウェンディが今にも歯軋りをしそうな時、後ろから柔らかな声がした。
「あ、母様」
そこでやっとアーサーは顔を上げた。
母様と呼ばれた女性はパーシヴァルとウェンディを見て、カーテシーをしてみせた。
「わたくし、セブンスの妻、アーサーの母のローラと申します。お見知り置きを」
それを受け、パーシヴァルも紳士の礼をとる。
「これはこれはご丁寧に。僕はパーシヴァル、パーシヴァル・ホイットロックと申します。こちらは助手のウェンディ・シャノワール」
「まあ、ホイットロック!では貴方はあの有名な名探偵シャルモンテ・ホイットロックの?!」
「シャルモンテは僕の祖父に当たります」
ーーー誰よ、それ、知らんがな
ウェンディは心の中でつぶやいた。マジで知らん。
だが、ローラは嬉しそうに笑い、「そろそろお茶の時間ですの。ご一緒にいかがかしら?」と誘ってきた。
テラスに設置されたテーブルに、執事のロバート(ローラ夫人が紹介してくれた)がティーセットを並べていく。
「エクレアでございます」
ーーーまたエクレアかっ?!
最後に置かれたそれにウェンディは叫んだ。
よくよくエクレアと縁がある。
これでもココア・マカロン13世がきたら前回の再現だ。
「わたくし、これに目がないの」夫人は笑う。
「僕も好きだよ」と坊ちゃま。
「僕も好きだ!」
ついでにパーシヴァルがエクレアを頬張りながらいうと「あんたはどうでも良い!」と頭を平手で叩いた。
「ところで夫人は時計の針の件についてどう思いますか?」
気を取り直してウェンディは尋ねた。
「どう思う…ですか…」夫人はしばらく考え
「アーサーが担任に叱られなくなりました」
と、どうでもいいことを口にした。
「なんで?」
「僕、朝弱いんだ」
「名前はアーサーなのにね?……っ!」
くだらないことをいうパーシヴァルの脛をウェンディは蹴飛ばした。ちょっとはしたないがローラ達からは見えないのでセーフ。
「つまり、困ってることはない……と」
「僕も今それを言おうと思ってたところだよ」
ウェンディがまとめると、パーシヴァルが横から口を挟んだ。
「ええ。あ、主人は正確な時間がわからなくてイライラしているようですが……」
ローラ夫人が付け加える。
確かに、困っているからこそ依頼に来たのだろう。
「僕ね、先生の幽霊の仕業だと思うんだ」
アーサーが突然、そんなことを言い出した。
「なんでそう思うんだい?」
パーシヴァルは驚く様子もなく、むしろ興味深そうにアーサーへ顔を向ける。
ーーー優しいというか、子供の話なら何でも聞くのね、この人。
ウェンディがそんなことを思っている間にも、アーサーは話を続けた。
「この前の話なんだけど……」
夜中にトイレへ起きたとき、庭の方から『ズズッ……ズズッ……』と、何か重いものを引きずるような音を聞いたらしい。
「わたくしは気のせいだと言ったんですが……」
「確かに聞いたんだもん!」
アーサーは頬を膨らませて抗議する。
「ちなみに、その先生とは?」
パーシヴァルが尋ねる。
「担任のマーガレット先生」
「ん? さっき叱られなくなったというのは、お亡くなりになったからですか?」
そうなるとまた話が変わってくる。
ウェンディは息を呑んだ。
「先生は生きてるよ」
「幽霊じゃないやん!」
そして思いっきりツッコんだ。
とにかく庭で何か引きずる音がしたとの証言を受けて、パーシヴァルとウェンディは庭へとやってきた。
庭師のエドモンドが良い仕事をしているようですきれいに整っている。
ある一点を除いては。
「バス停?」
「スクールバスのようだね」
首を捻るウェンディにパーシヴァルがいう。
「しかしなぜこんなところに…」
スクールバスを利用しているのはこの家ではアーサーだけだ。しかし彼は何も言ってなかった。
「ウェンディ君、君の手帳を見せてくれるかね?」
何か気づいたことがあるのか、パーシヴァルが手のひらをむけてきた。
「いいですけど…返してくださいね」
ウェンディは仕方なしにそこに手帳を乗せた。
「なるほど、見えてきたぞ、この謎が!」
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
探偵もののお約束というやつで、広間に関係者全員が集められた。
怪訝な顔をしたセブンス侯爵、
あらあらと笑うローラ夫人
「絶対幽霊だよ!」と主張するアーサー坊ちゃま
なぜこんなことになったのかわからない執事のロバート、キョロキョロしているメイドのメアリー、青ざめた庭師のエドモンドに…
「しゃーーーー!!!」パーシヴァルを威嚇しているココア・マカロン13世…
「なんでココアが?!」
「関係者だからだろう?」
「ツツジ狙って侵入してきた野良猫よ?!」
パーシヴァルは咳払い一つ。
「みなさんお集まりありがとうございます」
朗々とまるで舞台役者のように喋り出す。
「時計の針が勝手に7分進んじゃう事件の謎が解けました!」
ーーー改めて聞いてもカッコ悪いな…
「犯人は…」
テレビであったら関係者全員の顔が変わる代わるアップになるような間を置いて…
「犯人はあなたです!」
「しゃーーーーーっ!!」
指を突きつけた先にいたのは威嚇しているココア・マカロン13世…
「パーシー!今回はどう考えてもココアちゃんは全然全くこれっぽっちも関係ないでしょう!」
「いやいや違うよウェンディ君。僕が指しているのは…」
「私、ですか?」
執事のロバートだった。
「あ、よくあるちょっとでただけの脇役が実は犯人だったオチ?」
ウェンディがいうと、ノンノンノンとパーシヴァル。
「私がいったい何をしたというんですか?」
「時計の針のいじったんでしょ?」
そのままのツッコミ
「そんな、無理ですよ、館中の時計をいじるなんて…」
「ええ、ですから、正しくは、あなたを含めた使用人全員ですね」
「「………っ!!」」
メアリーとエドモンドは息を呑んだ。
この館の人間はアーサーが可愛くて仕方がない。しかし、目下の悩みは彼の寝坊癖だ。
毎日のように教師に怒られていた。
ローラ夫人もそれには心を痛めていた。
そこで使用人一堂は考えた。
時間をずらして終えばいいんじゃないかと。
ついでにバス停も少しずつ少しずつ動かして館の庭まで引き込んだ。
「なんでバレないのよ」
ウェンディのツッコミは無視した。
そのおかげでアーサーは遅刻をしなくなり、叱られることがなくなった。
「…と、そういう訳だよ」胸を張りパーシヴァルが言うと、
「でも、なんで7分?」とウェンディ。
「旦那様のお名前がセブンスなので」
またダジャレか!
こうして事件は幕を閉じた。
「やっぱり気持ち悪いので直してくれないか?」
セブンス侯爵の真っ当な意見は聞き入れてもらえなかった。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「なあ、ウェンディ君」
なんの脈絡もなくパーシヴァル。
「何よ、パーシー改って…」
「僕は…僕は…」
ウェンディの方を掴み熱を帯びた瞳で彼女を見つめ…
「眠い!君のふくよかな膝をかしてくれ!」
パタリと彼女の膝を枕にして横たわった。
「ああ柔らかい!」
「パーシー!!」
今日もウェンディの怒鳴り声が響く。
ロンパリシティの小さな事務所はあなたの訪れを待っている。
対戦ありがとうございました。
ロキソニン、効きますか?




