表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

IQ300という設定のキャラクター

作者: みぎゃー
掲載日:2026/06/11

ある作家の物語の中に、IQ300のキャラクターが生み出された。

天才的な美貌にとてつもない身体能力を備えた彼女は

物語内で無双状態だった。


ある時、AIによりキャラクターの要素が抜き出され、

他の作家作品キャラクターとのコラボレーションが行われた。

相手は勇気と根性で危機を乗り切るタイプの主人公。

特別賢さが売りと言うわけでは無かった。


三賢理知みかたりちはIQ300で世界最高峰の大学院に通い、

飛び級を繰り返して17歳で博士号を取得、と言う設定だった。

123×123=15129とすぐに答えを出せるほどに賢かった。

更には科学者達が何年かかっても解けなかった問題を解き明かし、

時代の寵児と持て囃された。


一方で勇気タケルは理知と同じ年の17歳の青年。

特段際立った能力等は無いが、諦めない気持ちが売りの主人公だった。


ただ一つ、それぞれの作品の作者のステータスは大きく違っていた。

理知を生み出した作家は普通の高校生、タケルの作家はプロだった。


当然、キャラクターの知識や能力の上限は作家に左右される。

理知はIQ300とされながら、わからない事だらけだった。


二人が一緒に入れられた仮想空間の中で、

労働ストライキが起こりその解決がテーマとなった。


「え、労働ストライキ?

 何だろう、私、全然わからないや、それ・・・。」


理知は自分でも不思議だった。

IQ300、大抵の知的な問題であれば何でも解いて来た、

つもりであった。

それなのに今回の問題について、箸にも棒にもかからない。


一方でタケルは労働者達にインタビューを行った。

何故ストライキを行ったのか、どうすれば労働に復帰するのか。

彼は愚直に現場に足を運び、問題の本質を突き留めた。


「つまりは、政府が定めた業種別の最低賃金が足りていないんだ。

 そのベースとされている物価資料が5年も前から更新されず、

 そこに進んだ物価高。コレじゃあ不満も出るよね。」


理知は唖然とした。

自分にはどうするべきか全くわからなかった問題が、

タケルは根性で調べ上げて答えに辿り着いたのだ。


しかし課題はここで終わりでは無かった。

二人で直接大統領に会いに行き、この民意を届ける。

そして賃上げが行われるまでがゴールだったのだ。

それが叶わないまま期日が過ぎればゲームオーバーだ。


理知は考えた。


「大統領に会う為には、まずは、ええと・・・

 その下の副大統領・・・いえ、それも偉い人よね、

 ええと・・・どうすれば良いのかしら。」


タケルは路面に落ちていた新聞の切れ端を見た。

そこには『大統領執務室の清掃パート募集』があった。


「コレだ!

 コレに応募して、実際の仕事場所を見せて貰うんだ。

 その時に接触すれば話せるチャンスがある!」


コレは主人公補正と言われるものかも知れない。

しかしタケルには確かに、チャンスを掴む洞察力があった。


タケルは応募先企業に電話をかけ、

実際の仕事の上で気を付ける事を知りたい為、

現場を見たいと頼み込んだ。

事態はとんとん拍子で進み、理知は違和感を抱いた。


「IQ300の私が全く役に立てていない・・・。

 私って、天才じゃなかったの?

 どうしてタケル君に全ての手柄を奪われてしまうの?」


彼女は自らの設定に疑問を持ち始めた。

本当は輝かしい自らの過去なんて無くて、

それは作られたものでは無いのか。

自分は実際には単なる入れ物みたいな存在で、

そこにパラメータを割り振られただけでは無いのか。


「私なんて居なくても、タケル君だけで十分だよね。」


理知は酷く自己卑下をし、自らの価値を疑った。


「そんなワケねぇだろ!!

 理知と一緒だから、俺頑張れてるんだぜ!

 一人じゃないから、ただそこに居てくれるだけでも

 俺が頑張る理由になるんだ。だから一緒に来てくれ。」


タケルの言葉に嘘偽りは無く、力強く理知の手を引いた。


そして二人は案内された場所へと向かった。

そこは大統領執務室のある建物の正面玄関だった。

迎えの送迎車がやって来て、二人を執務室まで案内した。


「ホラな、こんな場面、俺一人だったら絶対ドキドキしちゃうぜ。」


「私も正直、二人でも全然ドキドキしてるけど。」


二人は執務室に入り、そこで具体的な仕事の手順を聞いた。

そして偶然にも大統領は室内におり、絶好のチャンスだった。


「あの、俺大統領に憧れてて、少しで良いから話して良いですか。」


タケルは勇気を出して仕事の斡旋人に尋ねた。

返事をするよりも早く、タケルは大統領に話しかけた。


「あの、すいません!

 今、街では大規模なストライキが起きていて、その根本原因は、

 どうやら政府の最低賃金にあるようなんです!

 どうか、もっと細かな見直しをお願い出来ませんか!!」


大統領はタケルをチラッと見たが、すぐに机の上に目線を戻した。

そして一言。


「最もらしい事を言うようだが、キミは学歴は?

 何らかの研究機関の者なのか?

 どこの馬の骨ともわからない者の意見など、

 聞き入れられないな。」


そんな・・・と肩を落とすタケルに、

ここぞとばかりに理知が言う。


「あの、私!

 IQ300で17歳で飛び級で大学院の博士号取得していて、

 多くの未解明の定理も解いて来ました!!

 そんな私からも是非、お願いします!!」


大統領はしばらく机に目線を向けたまま、考えた。

そしてこう言った。


「本当なんだね?」


「もちろんです!!

 証明するものは何も無いけれど、私はそういう存在です!!」


すると大統領は不思議な程にすんなりと、その意見を受け入れた。


「よし、わかった。

 それでは最低賃金の件については審議にかけよう。

 いや、私がすぐにでも勅令を出しても構わない。」


理知は「やったぁ!」と喜んだが、タケルは少し不思議だった。


「何の証明も無くただ自称しただけなのに、

 どうしてすんなりと意見が通ったんだ?

 それなら俺が同じ事を言っても通ったのか?」


それに対して、大統領が答えた。


「良いかい。大切なのは設定だ。

 人はそれぞれに設定されたキャラクターを生きる。

 元気だったり臆病だったり賢かったり怠惰だったり。

 そうして世界のあらゆる条件・・・いわゆるスイッチは、

 そうした設定と共鳴した時に押されるんだ。

 例えば先ほどの私の場合だ。」


タケルはワケがわからなかったが、話を続けて聞く事にした。


「私の先ほどの場合の条件は『肩書ある若者からの進言』だ。

 ちょうど彼女がそのスイッチの条件に合致した為、

 私は条件を呑んだんだ。コレはあくまでパズルだ。」


理知がおそるおそる尋ねた。


「じゃあ、私が実際にはどうかとか、そういうのは関係無くて、

 あくまで設定が大事と、そういう事ですか?」


「ハッハッハ。

 考えてもみたまえ。一見すると相応の苦労の元にそれぞれの人間は

 それぞれのポジションにいるように見える。

 だがそれはそうした苦労の末にその地位を手に入れる運命なのだ。

 私がこの国で最も金持ちだったり、最も努力をしたと思うかね?」


「失礼ながら、もっと努力したり、お金持ちはいると思います。」


「うむ、正直で良いな。

 あくまで人間はそれぞれの設定されたキャラクターを生き、

 日々の様々なスイッチ条件を試している。

 とんでも無い太古の秘密というスイッチは、それを押せるだけの

 『秘密を解き明かせる能力』というキャラクターを待っている。

 全てはトライ&エラーだ。

 多くの者が挑戦し、敗れ、しかしいくつかは条件が合致して

 上手くスイッチを押す事が出来るのだ。」


大統領の言葉は二人に大きな衝撃をもたらした。

この世界に生きる人間は設定を持って生まれたキャラクター。

そして世界のあらゆる物事は条件付けされたスイッチ。

その条件に合致した設定が組み合わさった時にスイッチが押される。

大統領は、二人にそう教えたのだ。


「さぁ、ここまで世界の真理を伝えたからには

 君達を生かして帰すわけには行かないな。

 さぁ、IQ300のキミはこの事態、どう切り抜けるかな?」


大統領は懐から銃を取り出し、二人へと向けた。


「そ、そんな!

 条件を呑んでくれるんじゃなかったのかよ!」


「ふふ、賃上げはどちらにせよ行う予定だった。

 ただキミ達は知り過ぎたんだ。

 まぁコレもいわゆる『スイッチ』だったのさ。

 悪く思うなよ。」


極度の緊張状態で、場は時間が止まったようだった。

しかし、理知が動いた。


大統領の机の最下段をおもむろに引き出し、

その中から重々しいスイッチのようなものを取り出した。

大統領が取り乱す。


「あぁ、それは・・・!!」


理知は少し心拍数を上げながら、早口で言う。


「コレ、核のスイッチよね。

 もちろん大統領だけの一存では発動しないと思う。

 だけどコレを押したとなったら、警報が鳴るんじゃない?」


理知は一瞬戸惑った後、ボタンを押した。


すぐに館内の全警報が鳴り始めた。

直後にSPや近くに居た者達が大統領執務室内に入って来た。


「大統領、押されたのですか、核のスイッチを!!」


理知はタケルの手を取り、混乱の中で扉から走り出た。


「おい、お前何であんな事を・・・!」


「設定だとかよくわからないものに縛られるくらいなら、

 その設定を超えた事をするしか無いと思ったのよ!

 決められた運命なんてまっぴらだわ!!」


二人は走り続けた。

心臓が痛くなったが、お尋ね者になってでもとにかく、

まずはこの館内から出なくてはならない。

コケて躓いてもすぐに起き上がり、とにかく走った。

そうしてようやく入口の扉が見えて来た。

やっと出られる!その時だった。


「ようこそ、子供達。」


そこには、大統領がいた。


「ど、どうして・・・?

 まさか、先回りをして走って来たと言うの?」


「コレも『スイッチ』さ。

 キミ達がたとえどれだけ予想外の行動に出ても、

 結局は殺されてしまう設定なのさ。」


大統領が銃を構える。

やはり、設定には逆らえなかった。


・・・。


・・・。


・・・・・・・。


その瞬間、大きな地響きと爆音が轟き、空が一瞬で黒く染まった。


「え、な、何が起こったの?」


「伏せろ!!」


突然物凄い爆風が吹き荒れ、大統領が吹き飛ばされる。

二人もいくらか飛ばされたが、咄嗟に身を屈めた為最小限で済んだ。


「一体、何が起こったの!?」


起き上がり、理知が尋ねた。

するとタケルはシャツの中からあるものを取り出した。


「それは・・・核ボタン!?」


「あぁ、執務室に来るまでの車の中で、こっそりとカバンを漁っていてさ。

 そしたらコレを見つけたんだ。

 主人公補正?って言うのかよくわかんねぇけど、

 コレは持っておかなくちゃって思ってさ、つい盗んじゃったんだ。

 二つが押された時に起動するっていうスイッチだよな、コレ。」


「凄い・・・そんな偶然・・・」


「いや、コレも『設定』かも知れねぇぜ?」


「・・・・・・・・・。」


二人は2秒後に、それぞれの元の物語の世界に戻された。

記憶は消され、またそれぞれの物語に順応する。


しかしあの世界で二人に本来用意されていた『設定』は、

知恵と勇気を駆使しながら最後には恋愛に落ちるものだった。

どうやらまだ世界の『設定』は、人と人が出会い、

その結果に起こる『奇跡』というものは計算出来ないようだ。


それでも今日も世界は『設定』に忠実に回り続け、

多くのバグやエラーを生み出し続けているのだった。


そしてこれを読み気付いてしまったあなたの元にも、

『設定』は問いかけている。

更なる真理の扉を開ける為、奇跡を起こすかどうかを。


-end.-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ