EP.1-1
その町の門は、いつ崩れてもおかしくない角度で傾いていた。気だるそうな衛兵が門番を務めている。
グレイは門に近づき、観光で来たとだけ伝えると、簡単な荷物検査が始まった。
「この門が崩れたらアンタ、潰れちまうんじゃないか?」
荷物の検査中、暇になるだろうと感じたグレイは、つい衛兵に軽口を叩く。
「全くだ。」
低い声で、それも眉をひそめながら言うので、何か機嫌を損ねてしまったかと身構えたが、衛兵はすぐにこう続けた。
「毎日毎日カミさんにもそんな心配ばっかりされてる。だがな、俺は衛兵なんだぞ?怪物か悪党に殺される心配をしてほしいもんだよ。」
形式だけの検査だったらしく、衛兵も軽口を返し、荷物はすぐに返された。衛兵はこれ以上話すことは無いとばかりに、顎で中へ行けと合図する。
グレイは町ーかつて戦争の拠点として使われていたという砦町バルドに足を踏み入れ、まずは町の酒場を目指すことにした。今となっては砦としての機能はほとんど残っていないであろうこの町だが、崩れかかっているとはいえ、門や外壁が今も保存されているということは、相当腕のいい職人がいるに違いない。
突然、ポシェットがもぞりと動いた。何かが這い上がってくる感触に一瞬だけ身構える。次の瞬間、頭の上で甲高い声が弾けた。
「グレイ!聞いてるのかしら!?一体全体どこ行こうってのよ!」
「お前は荷物の中に戻れ。喋るハリネズミなんてどこに行ってもただでさえ目立つ上に、無駄に声がでかい。」
「あっっっっそ!そーゆーこと言っちゃうんだ!アタシの力が必要になってももう力貸さないから!べーーだ!」
ぷいっとポシェットに引き返そうとする小さな体に、ヤレヤレといった表情を浮かべつつ、グレイは返答する。
「酒場だ。町の情報と美味いものが1番集まる場所だろ。」
ハリネズミはそこが自分の居場所とばかりにグレイの頭のてっぺんに戻り、答える。
「ふーん。いつも通り変な物食べるつもりでしょ。」
「変な物ってなんだ!珍味だ!」
「なーにが珍味よ!シャドウドラゴンの被膜漬けだの岩跳びバッタの燻製だののことを言ってるわけ!?あんなのは変な物よ!食べ物ですらないわ!」
「いまでも保存食として役立ってるものを変な物扱いか!言ってくれるなお前は!!」
と、そんな口論を交わすうち、2人は酒場の入り口をくぐった。
酒場の中は、煙とポーションと酒の匂いが混ざった空気が混ざっている。まだ昼だというのに客は多い。
入り口付近ではカード遊びをする連中に、奥の方には鎧を着た衛兵らしき集団、そして多くの冒険者。
視線で店内を一周なぞりつつ歩き、グレイは酒場の1番奥にあるカウンター席に腰掛ける。マスターらしき人物にノンアルコールでおすすめの飲み物を注文した。
「酒場って騒がしいわね」
「そういうもんだ。慣れろ」
「外は毒の匂いがするし、ここはうるさいし。アタシ、いつ落ち着けるのかしら」
「文句があるならポシェットに戻るんだな。と、それよりもお前、ここから森の匂いが分かるのか」
「フフン!アタシは何だって分かっちゃうんだから!」
得意げなハリネズミを適当な言葉で褒めつつ、グレイは周囲の会話に注意を向ける。
解毒ポーションの値段が上がった。
毒の森でまた人が倒れた。
パーティーメンバーが逃げ出した。
少し耳を澄ませるだけで最近の町の事情がなんとなく分かるものだ。
そんな中で、引っかかる会話もあった。
「――素材は多い方がいい。鮮度が――」
低い男の声だった。
少し離れた卓の三人組。装備はそこそこ整い、汚れは新しい。おそらく森帰りだ。
「また行くのか?」
「足りねえんだよ。全然」
言葉の端に焦りが混じっていた。
が、さらに会話を聞こうとしたところで飲み物が出された。グレイは一旦思考を切り替え、杯を取る。
冷えた液体は酸味と甘みのバランスが良く、喉を一気に潤した。
あっという間に飲み干し、マスターに一礼してからグレイは席を立つ。掲示板へ歩き、1枚の紙を掲示板の端っこに張る。
張り紙曰くー
「便利屋グレイ」
「どんな依頼も請け負います」
紙を張り終え、酒場を去ろうとするグレイに、ハリネズミが声をかける。
「グレイ、食べ物はいいの?それとこの張り紙!やっぱり適当すぎるんじゃない?」
「食い物より気になるものができた。張り紙はー」
しばし瞳を閉じてから言う。
「これくらいでいいんだ。必要なヤツには、便利屋の名は必ず届く。それよりもー」
声の調子が1段落ちる。
「メモリー、今回は少し…面倒な匂いがする。お前の力が必要になるかもしれない。」
相棒にそう告げ、2人は酒場を去った。
ほぼ初投稿になります!便利屋グレイがこれからどうなるのか、気になる方は是非ブックマークや評価をお願いいたします!




