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三十二話 映画を観に行こう

 少なからず僕にも責任がある、そう思ってまずはその場の空気を和ませようと話を切り出す。「映画、朱里映画見に行くんでしょ?何見に行くの?」


 僕が慌てて訊いてみると、朱里が携帯を突き出してきた。それは、漫画が映画化されたもので、僕を少なからず理解していないと選べない作品だった。内容は確かこんな感じだ。


 【幼少の時にお父さんを亡くし、母子二人で暮らしていたが、いつの頃からかお母さんが暴力を振るうようになる。


 そんなある日、その日もお母さんから暴力を振るわれていると、頭の中で糸が『ピンッ』と切れる音が確かに聞こえ、気が付くとお母さんを殴りつけていた。別に嫌いだった訳でもないし、憎んでもいなかったと思う。

 

 殴った場所の体が歪み凹み、血が噴き出し飛び散る。それでも何度も何度も殴りつけていた。


 室内に金切り声が響き渡り、母さんは床に倒れ込んだ。僕は膝を付き、髪を掴んで殴り続ける。罪悪感、理性崩壊、恐怖⋯⋯様々な負の感情が巻き起こる。僕の目からは大粒の涙が溢れ落ちていたが、その手を止めることができない。(何をしてるんだ、今すぐやめろ、めちゃくちゃ痛がってるじゃないか、苦しんでいるじゃないか⋯⋯僕はいったいどんな顔をして殴っているのだろうか?)


 いつの間にか、さっきからうるさかった心臓が静かになっていた。僕の中から負の感情が消え去り、その行為に対する興奮からか、心が踊り身悶えしていた。


 拳と体の至る所に血がベッタリと付着している。滴る血が床に広がり、まるで赤い絨毯が最初からそこに敷いてあったかのように見えた。


 そしてその時は唐突に訪れた。今の悲鳴が断末魔の叫びだったのだろうか?掴んでいた髪から伝わってくる頭の重さが変わり、目の前には糸の切れた操り人形のようなものが横たわっていた。


 それからその子供は人を殺める行為が忘れられず、殺人鬼となり人々を恐怖のドン底に落とし入れたのだが、ある探偵との出会いが運命を変えていく】


 みたいなミステリーサスペンスだったと思う。


 「朱里早く行こ!これめちゃくちゃ観たい!」そう僕が言うと、朱里は顔を上げて『パアッ』と明るい表情を見せた。


 「でしょ〜~?(蒼、キスマークの借りはすぐに返してやるからね)」


 朱里が不敵な笑みを浮かべた事に気付く事なく、僕は歩き出す。


 「あ、映画館ってどこだっけ?」


 そう言って振り返ると、朱里がギャグ漫画のようにずっこけていた。


 『テレテレッテッテッテー』


 景と朱里のレベルが上がった。

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