第二十九話 【朱里視点】
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
とある女子高で突如、獣の遠吠えに似た雄叫びが響きわたった。
「み、溝口さん、だ、大丈夫ですか?保健室行きますか?」と担任に訊かれ、「大丈夫です」と一言いって、『ふんっ』と鼻を鳴らしそっぽを向いて自分の席に着いた。
これが喜ばずにいられるかつーの、あのクソ生意気な女をぎゃふんと言わせたうえに、景とデートの約束までこぎつけられた。
急いで、スキル【デートに誘うと告白】を取得しておいて良かった〜、これで念願叶って景をうちのものにできる。それを考えてうちは、『ニヤリ』と微笑むと、両肘を机について、掌に顎を乗せ足を組んだ。
ここまでの道のりは本当に長かった。最初は景をうちだけのものにしたいと思って、全員を遠ざけるため公衆の面前で告白させたのに⋯⋯『ふうぅーっ』と深い溜息が溢れでてしまった。
まさか、人格から風貌まであんなに変わちゃうなんて思いもしなかったよ、結果全員近寄らなくなって、そのせいでうちまで近寄れなくなる誤算⋯⋯
そのあともなかなかチャンスが訪れなくてやきもきしてたけど、スパイ【日下部春樹】を潜らせておいたおかげでチャンスをものにできた。誤算だったのは、あの忌々しいクソ女が現れたこと、うちは力いっぱい拳を机に叩きつけた。
景の本当の姿を見抜いたのは、褒めてやりたいと思うけど、まさかあそこまで仲良くなるなんて⋯⋯絶対に許せない、景はうちだけのもので誰にも指一本触れさせるわけにはいかない。
感情が高ぶり机を『バンッ』と叩いた勢いでついつい立ち上がってしまうと、教室内の視線を一身に浴びる。うちは『チッ』と舌打ちをして着席した。
「溝口さん、びょ、病院に⋯⋯」
「行くわけないでしょ!!」
うちはそう言って、鋭い眼差しを担任に向けた。担任はポケットからハンカチを取り出し額から流れ落ちた汗を拭って背を向ける。
落ち着け、うち落ち着け⋯⋯
そう言って自分の感情を抑え込む。
結局最後に勝つのはどうせうちに決まってる。わかってはいたけどLOVE♡GAMEも出現したしね!
虚空に腕を伸ばして、ホログラムディスプレイを操作した。
この運命値⋯⋯これが高いか低いかは判断できないけど、うちらは元々結ばれる運命、このGAMEすらも利用して景をうちだけのものにしてやる。そのためにも日曜日のデートは絶対に失敗できない。そう思って、力強く拳を握りしめる。
絶対に成功させて、あの女の前で景とあんなことや、こんなことをしてる様を見せびらかしてやるんだから⋯⋯「フフフッ、アーッハッハッハッ」
「み、溝口さん、なにか楽しそうですね?びょ⋯⋯」
「行かないって言ってんでしょ」
「で、ですよねー」そう言うと担任は、黒板に体を戻し肩を落として、なに事もなかったかのように授業を再開した。
兎にも角にも、日曜のデートを成功させて、景と結ばれるために今からプランを練りに練っておかなくちゃね。
うちはその日から、景を手中に収めるために断固たる決意を持ってプランを完成させた。
そしてデート当日を迎える。




