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勇者と魔王の子。  作者: 破魔 七歌 


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8.アキハの容態と魔法の光






「あ、アキ……ハ」


 窓辺から差し込む朝の光とは対照的に──、お爺さんが扉を開けると、薄暗い部屋の片隅に置かれたベッドの上でアキハは眠っていた。口もとには見たこともない器具が取り付けられていた。静かに流れる空気の様な音がする。

 ベッドの傍には黒い服とベールで顔を隠した人間が一人。女だ。だけど、何か嫌な感じがする。手のひらから光の様なものを放ち、それがアキハに向けられていた。呪文の様な言葉が唱えられていて、僕にはそれがとても不快だった。


「あ、村長さん?」


 それと、もう一人。女だ。同じように黒い服とベールに顔を隠した人間の女が、椅子から立ち上がってクムリのお爺さんに近づいた。


「容態はどうだ?」

「それが……何とも言えないのです。損傷した部位が激しくて。詠唱による治癒で命は取り留めていますが」

 

 女が、ベール越しにお爺さんを見ながら僕を見ているのが分かる。嫌な奴だ。特に身体に纏っている薄い光の膜みたいなのが。


「……貴方は、もう大丈夫なの? とても酷い怪我をしていたけれど。包帯を取り替えましょうか?」

 

 僕を心配してるのか? 何だか、傷痕がムズムズしてきた。痛痒い。この人間の女が、手のひらから出るあの変な魔法の光を僕にも当てたんだろうか。アキハがくれた薬の方がよっぽど効き目が良かった気がする。アキハは、あの光を受けても何ともないんだろうか。人間には効くのか?


「い、いえ。それより、アキハは助かるんですか? ぼ、僕に薬をくれて……その、助けてくれたんです」


 僕はそう言って俯きながら、咄嗟に小さなクムリのお爺さんの後ろに隠れた。それでも、女がマジマジと僕を見つめてくる。視線を感じた。僕はアキハを助けてくれるように、僕なりに念を押して女に尋ねたつもりだった。


「そうね。貴方には魔物から抽出された高濃度の薬液が使用されていたわ。とても高価なものよ? 上級冒険者──、アキハさんならきっと、必ず回復すると想うわ」


 ……どうだろうか。きっとこの女は半分嘘をついている。アキハの薬は確かに良い薬だった。女は、変な魔法でアキハを助けようとはしているけれど、不安なんだ。けれども、僕を安心させようとしているのか? ベール越しに透けて見える表情と口調に、女が強がって言っているのが分かる。


「もう一人の女の子は?」

「寝てるよ」


 僕は部屋の壁の方に、そっぽを向いて女に答えた。アメルのことを女に聞かれたくはなかった。信用出来ない。

 アキハは薬をくれた。クムリのお爺さんは朝ご飯とお布団を与えてくれた。けれども、女は助けるフリをして不愉快なあの変な魔法の光を僕に当てようとしたのかも知れない。けど、包帯を巻いてくれたのか? でも、傷口を看てくれたのは本当のようだ。分からないけれど……。とにかく、あの変な魔法の光は嫌いだ。


「そう……少し安心したわ」

 

 女の心細いような頼りない声が後ろから聞こえた。アキハとアメルのことが心配で不安なのか? 嘘は言っていない気がした。


「不安だよ……。アキハのことが」

 

 僕は壁の方に向いたまま、女に聞こえるように呟いた。アキハを助けてもらいたかった。助けて欲しかった。人間のアキハに、あの魔法の光が効いて欲しかった。僕には、どうすることも出来なかった。今は、あの変な魔法の光と黒服とベールのこの人間の女たちを信じるしかなかった。


 すると、今まで黙っていたお爺さんが、窓の明かりの方を向きながら腰に手を当てて話し始めた。


「アキハはサリバドールの村を魔物から守るために、マグリット王国から遣わされた一級の冒険者なんじゃ。簡単には、死なん。ジグムントが国を上げて魔大陸に侵攻して以来、魔物が多くてな。アキハは何人もの村人の命を救っておる。今は神の御加護があることを祈るばかりじゃ」


 村長であるクムリのお爺さんは、「よろしく頼む」と言ってから、人間の女にお辞儀をして部屋から出て行った。僕もコクリと頷くようにして、チラリと人間の女を見た後、お爺さんの後ろをついて部屋から出て行った。

 窓のない薄明かりの階段を降りる途中、お爺さんがポツリと俯きながら呟いた。


「昨夜のジグムントの飛空船の墜落事故は、モレイラ山脈を超える途中で空の魔物たちに襲われたからなんじゃと、村の者たちが噂をしておる。迷惑な話じゃ……」


 僕はドキリとして心臓が飛び出るような想いがした。気まずかった。本当の理由は、僕とアメルのせいだって言いたくなかった。お爺さんには申し訳ない気がした。襲って来たあの男と変な人形たちとジグムントっていう国の人間たちが皆悪いんだって思った。考えたくはなかった。


「暗黒の時代……か。平和だった頃が遠く懐かしく感じるわい」


 お爺さんがピタリとアメルが居る部屋の前で止まり、溜め息を吐いた。それから顔を上げて、コンコン!と扉を叩いた。

 ──返事がない。僕はお爺さんの代わりにそっと部屋の扉を開けて覗いた。

 すると、小さな木の机の上に置かれていた僕とアメルの二人分の朝食が無くなっていた。よく見ると、ベッドの上でアメルが元気よく起きている。……お盆ごと二人分の朝食をお布団の上に乗せて綺麗に平らげていた。朱色の長い髪を掻き上げて、エメラルドグリーンの瞳を輝かせながら、アメルはモグモグと手づかみで無我夢中で食べていた。


 僕がアメルをジッと立ったまま見つめていると、アメルはようやく僕の視線に気がついた。


「あ、お兄ちゃん。もしかして、まだ食べてなかった?」

 



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