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勇者と魔王の子。「世界が僕たちを殺すなら勇者と魔王の血を引いた天使みたいな妹の可愛さだけは守りたい」  作者: 破魔 七歌 


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5.燃え盛る森の炎の中で






「あっ、ぐ……!!」


 ──動けない。男の冷徹な目が僕とアメルを見ている。冷や汗が身体中を伝い落ちる。手足がまるで凍りついたように冷たい。止まらない心臓の鼓動が警告を発している。今すぐ逃げろと。

 男は一瞬で僕らを追い越し、目の前に立っていた。開胸していた不気味な胸の触手が傷口の奥で尚も蠢いているように見える。辺り一面は炎の海で、木々が音を立てて倒れ始めていた。


「魔力を感じさせないなんて、まるで生きものじゃないみたい」

「勇者と魔王──二柱の神の子。憐れな忌み子たち……人間でも魔族でもない。しかし、その存在は唯一無二にして完璧だ。私とは違う」


 アメルの言葉に、男が破れた衣服を気にも留めず、髪を掻き上げた。額と顔の半分に受けた深い火傷の痕が露わになる。その指の先端には、虫の様に蠢く細長い針金の様なものが突き出ていた。


「竜使い……薬師の女性には同じ人間として気の毒なことをした。心が痛む。君たちが大人しく私について来てくれれば、助けてあげられるのだが?」


 男が後ろを振り向き、アキハが倒れた方を見ている。早くしないと、アキハが焼け死ぬ。

 致命傷──。さっきの光景が頭をよぎる。アキハは、もう助からないのかも知れない。僕は冷たくなった自分の手をギュッと握り締めた。身体中が今にも焼け焦げそうなほど炎が身近に迫っていた。逃げたい気持ちとアキハを助けたい気持ちとが交錯する。何故だろう。身動きすら取れないのに。

 けれども、まだ、アメルの手が僕から離れずにいる。アメルの手が、冷たい僕の手をギュッと握りしめてくれていた。

 

「殺そうとしたくせに? 飛空船の中で、あの変な生きものでもない屍みたいな人形に殺されかけたんだけど?」

「すまない。我々のような出来損ないは、純度の高い魔力には意図せずに反応してしまうようだからね。そのために、魔力拘束具をつけていたのだが?」

「あぁ、手と足にはめられたコレ? 重いんだけど。早く取ってくれないかな?」

「私を殺しても?」

「やるしかないでしょ?」


 ──そう、アメルが男に言い放った瞬間。アメルは僕の手を離して叫んだ。


「お兄ちゃん、逃げてっ!!」


 ゴォォ……と、燃え盛る炎の中、一本の木が横倒しになり──、僕とアメルの間に倒れた。


(ドオォォンッ!!)


「アメル!!」


「ならば……」


 男の吐いた息が、深く低い声とともに燃え盛る炎の中でゴオォォッと唸る風とともに響いた。男の指先から走る血管の様な鋭い針の触手が炎の壁を裂くようにすり抜ける。それは──、僕の目を串刺しにして貫くほどに思えた。


「うわっ!!」


(ガキィィン!!)


 目を閉じて地面に伏せた瞬間、何かが金属音のように激しい音を立てて弾いた。


「血液を金属の鞭に変える魔法。貴方は誰にも触れられない」

「魔力拘束具をつけて尚、その力。是非、持ち帰りたいものだ。しかし、限界を越えて魔力を消費すれば命に関わる。離すが良い……」


 震えながら目を開くと──、男の指先から伸びた細い血管のような針が、炎と僕の目の前でアメルの魔力を帯びた血液の鞭に絡め取られていた。


「瘴気の中なら、お母さんが力を貸してくれる。拘束具の力と相殺出来るから」

「力比べか? 君の大事なお兄さんは、あの人間の女を助けに行ったようだが?」

「お、お兄ちゃん?! お兄ちゃんの馬鹿っ!」


 僕は──、何も出来なかった自分の身体を呪った。アメルを助けられない身体、アキハを助けられない身体……男に屈した弱い心と身体。どうすることも出来なかった僕自身の身体──。


「う、うわあぁぁっ!!」


 馬鹿みたいに泣き叫んで走った。何かにすがるように、振り払うように……泣きたい気持ちと自分を呪う気持ちで、僕は足掻くようにして炎の中を走って走って、走って──。無我夢中だった。アメルの代わりに死ねなかった自分と、アメルを信じて言い訳にした自分がいた。

 

 ──気がつくと、僕はアメルを見捨てたのか、アキハを助けたかったのか……燃え盛る炎の中で横たわるアキハの姿に立ちすくんでいた。

 アキハは僕に気づいたのか、僅かに口を開いた。


「に、逃げなかったのか……?」

「あ、アキ……ハ」

「うぐっ! ハァハァ……。妹は……どうした?」

「僕は……僕は……」

「大丈夫だ。くっ! お、お前の……妹なら」

「アキハは、し、死ぬの?」

「かも知れないな。身体が、動かない……。傷口に薬液を」

「アキハ!」


 炎が渦巻く中、アキハが水性魔法の魔力結界に身を包み……僅かに息をしていた。僕は震える手でアキハの腰から薬瓶を取り出した。小瓶の中の液体が揺れる。炎で身を焼く熱さよりも、アメルを置いて来てしまった自分の弱さと、目の前のアキハが死んでしまう苦しさに、胸が焼かれるようだった。


「あ、あ……アキ、ハ」

「早く、逃げろ。なのに、助かり……たい。すまない……。私は、お前を……守りたかった」

「アキハ、今すぐ傷口に薬液をかけるから。待ってて!」

「うっ!!」





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