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勇者と魔王の子。「世界が僕たちを殺すなら勇者と魔王の血を引いた天使みたいな妹の可愛さだけは守りたい」  作者: 破魔 七歌 


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3.命を狩るもの







「瘴気の中に魔力が二つ? 子ども? 人間とも魔族とも言えない。おかしな生きものだ。見た目は私たちと変わらないのに」


 枯れ葉を踏んで近づくその声に、ゾクリ──と、悪寒がした。身震いがする。人間の女だ。匂いで分かる。それも、かなり強い。太刀打ち出来ない。

 炎が燃え盛る森の影の中で、その立ち姿が如何に恐ろしいかを悟った。しなやかな身体つきなのに隙が無い。胸って言うのがアメルよりも大きくて突出している。長い髪は一つ括りに束ねられていて、戦闘に適した革の様な素材を身にまとっている。きっと、あれは魔物の身体から作られたものだ……。

 そして、何より怖かったのは──、人間とは思えないくらい魔力が研ぎ澄まされていて、身体中をグルグルと巡らせていたのが分かったからだ。


「あ、あ……」

「お兄ちゃん、喋っちゃダメ。殺されちゃう」


 人間の女の方を見ていたアメルが僕の耳もとで囁いた。振り向くと、ジッとアメルが澄んだ瞳で僕を見ていた。


「瘴気の中で、何とも無いのか。殺す……か」


 女が腰に携えていた小太刀を抜いた。森を焼く炎の明かりにナイフより一回り大きな形をした刃が光る。そして、それは僅かに振動しているのが冷たい空気の様に肌に伝わった。


「怖いか? 直に楽になる。天国とやらにいくが良い……」

「うっ……ぐくっ!!」


 冷たい目をしていた。生きものを殺すのに躊躇わない目。それが、煌々と燃え盛る森の炎を背にして、黒い影の中に白く映って見えた。なんて……恐ろしいんだ。


(ガサッ──!!)


 ──その時、夜空と女の顔を見上げていた僕の視界の中で、アメルの身体と匂いが影のように触れた。温かなアメルの匂い──、まるで僕の心臓とアメルの心臓が重なり合うように……僕はアメルの鼓動を感じていた。


「?!!」

「殺せると思った? 舐めないでほしいわね?」

 

 瞬間──、アメルの指先から流れていた血の一滴が、女の首もとを貫いた。


「なるほど……血を操る魔法か」

「消えた?!」


 言葉を置き去りにした残像が、夜空に消え去り──、アメルの言葉が耳もとで響いていた。鋭い刃の閃光が稲妻のように走り、暗闇の空を斬るように光った。


(シュパァッ!!)


「う、ぐぐ……馬鹿なっ!!」

「命の時間が延びる魔法だよ? お姉さんの刃は届かない」


 ──何が起きたのか? 瞬きをした僕は一瞬、アメルの首筋のうなじに流れる長い髪と青い光を見た。

 さっきの青い光の結界に似た何かが、圧縮されて光の粒を放ち、咄嗟に僕を守るように覆いかぶさったアメルの首もとで女の刃を食い止めている。


「お兄ちゃん? お母さんのおかげだよ?」

「え?」

「瘴気、飛空船の魔力炉──、私だけの魔力じゃない……」


 そう言うと、ハァハァと息を切らせながらアメルは、僕を守るように覆いかぶさったままニコリと笑った。


「ぐっ! ぐぐ……。埒が明かないな……」

「意外と素直ね? ハァハァ……諦めたの?」

「フッ……。身体に残された魔力は、もうほとんど無いのだろう? 魔族は共闘しても、命を互いに庇い合うなんてことはしない。ましてや自己犠牲など」

「甘いね、お姉さん? 演技だとしたら?」

「強がらなくても良い。それくらいは、分かるつもりだが?」


 女は見抜いているのか、ハァハァと息苦しそうなアメルを見下ろしてから、カチャリと刃を納めて立ち上がった。


「お前たち、兄妹か? 私もいつまでもお前たちに構うほどの時間は無い。それよりも……」


 女は、森の炎が風とともに広がり木々が焼け落ちていく様子を見つめていた。


「良いだろう。不思議だが、人間寄りの生きものとして解釈しておく。だが、下手な真似はするなよ? 立てるか?」


 そう言うと、女は腰に携帯していた小さな鞄の様な容れ物から、薬の様なものを取り出した。


「止血と組織の回復を促進する薬効がある。コレをお前たちに渡しておく。見たところ、酷い傷だが致命傷にはなっていない。助かるだろう。しばらく動くな」


 女は、しゃがみ込んだまま僕とアメルの目を見ていた。フッと女が笑うと僕の手に薬瓶を握らせた。女の手は温かくて何故か不思議な気持ちになった。


「あ、ありがとう……名前は? 何ていうの?」

「お兄ちゃん?」

「アキハだ。ここから森を南に下るとサリバドールの村がある。私の魔力の痕跡を辿れば行けるが、無理はするな?」


 それだけ言い残すと、ポンポンと僕とアメルの頭を撫でて──、アキハは森の奥の焼け焦げた匂いのする炎の明かりの中へと消えてしまった。


(ゴオォォォォ……)


 炎が森を焼く音が聴こえる。けれども、さっきまでの人間嫌いだった僕の心が、ほんの少し温かくなっているのが不思議に想えた。


「お兄ちゃん? まさか……」

「いや、何でもないよ」

「人間だよ? あ、食べちゃうには勿体ないってこと?」

「あ、アメル?」


 食欲──。アメルは、魔族寄りの血が濃いってことなのかな。母さんの血が。けど、僕は──。

 ──確かに、失くしたくないとか、そう言う気持ちに近いのかも知れない。それが、アメルの言う〝勿体ない〟ってことなのかは、今はよく分からなかった。


 それから僕は、寝転んでいた森の土と枯れ葉の上からガサッと起き上がった。薬瓶の蓋を開けてから中にあるヌルヌルとした薬を、横になっているアメルの傷口へとペタペタと塗り込んだ。アメルの身につけていた薄い衣が、ボロボロになっている。

 しばらく、気持ち良さそうにアメルは目を閉じていた。すると、今度はアメルがムクリと突然起き上がって「それ、貸して?」と言った。


「今度は私がお兄ちゃんの傷口にお薬を塗ってあげるね?」

「あぁ、すまない」

「さぁ、横になって」


 アメルは自分の能力で止血出来ただろうけど──、そんな風に想いながらも、アメルに言われるがままに横になって寝転んだ。森の土がヒンヤリとしている。やっぱり、飛空船の時から無茶してるアメルが心配だった。それと、森の炎が広がる様子と熱風が吹き荒れるたび……さっきのアキハって人間のことが少しだけ気になった。


「ねぇ、アメル?」

「なぁに? お兄ちゃん」

「あのアキハって人間、死んじゃうのかな?」

「お兄ちゃんも? なんか、ゾワゾワするよね?」


 そう。僕らに特有のゾワゾワする嫌な感じは、時々起こる。それは、大切な何かとか大事なものが壊れる時。父さんと母さんの時みたいな、何か──。


「……助けに行かなきゃ」

「ふーん? そうなんだ?」

「い、いや……別に」

「そうだね。勿体ないもんね?」


 僕が身体を起こすと、アメルが何かを感じ取ったのか──、耳を澄まして一点を見つめていた。アメルの朱色の長い髪が、ゴォゴォと吹き荒れる熱風に靡く。塞がり始めた傷口が、やけにヒリヒリと熱く感じた。


「アメル?」

「人間──、あの男が生きてる。こっちに近づいて来る。あのアキハって人間が向かった森が焼ける方角から」

「え? 人間も全部、死んだんじゃ……」

「あの人間、普通じゃないよ。何か隠してる。気配は人間と同じなのに」





 


 





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