2.飛空船からの脱出
(ドォォン!! ガガガガ!!)
「う、うわあぁっ!! あ、アメル!! 戻って来てよ!! どうなってる?!」
絶え間なく爆発音が鳴り響き、上下左右に逆さまになりながら飛空船が揺れる。僕は、まだ戻って来ない眠ったままのアメルの身体を抱き締め、アメルの頭を衝撃から庇いつつ部屋を転げ回った。
「魔力炉から炎が! た、助けてくれ!」
「ダメだ! 制御出来ないっ! し、死にたくない!」
壁の向こう側から人間たちの悲鳴が聞こえる。あの変な生きものと貴族みたいな男の他にも人間が居たようだ。
「ぐっ! し、死ねば良いんだ。どいつもこいつも、に、人間なんて大嫌いだ!! ぐわっ!!」
僕らの父さん以外は──。そう想った時、飛空船が反転して僕とアメルの身体は天井に激しく打ちつけられた。
「うっ! うあぁぁっ!! ぐっ!」
ふと、目を閉じると、父さんと母さんの顔が浮かんだ。
「……あの日に帰りたい。母さんは、何処へ……死んでしまったんだろうか」
父さんと母さんの幻影が、火の手が回ったこの部屋の炎の中に消えていく。煌々と立ち昇る炎が噴き上げて、焼け焦げそうな熱風に包まれる。煙が充満し意識が朦朧とし始めた。
「あ、アメル……アメル! 目を覚ましてよ! アメル!!」
人間たちだけじゃなく、僕も死にそうだった。だんだんと空気が薄くなって、ヒリヒリと焼け付いた喉が締め付けられる。呼吸をしようとすると目眩がした。すると──。
「お兄ちゃん? しっかりして?」
「あ、アメル……」
──気がつくと、心配そうに僕を覗き込むアメルが居た。呼吸が楽になり、炎の熱さも感じなかった。
「青い光? け、結界?」
「うん。私の魔力に飛空船の魔力が流れ込むようにしたの。けど……」
「どうしたの、アメル?」
「墜ちるの、飛空船。誰も助からない」
けたたましい非常用のベルの金属音が飛空船内に鳴り響く。絶え間ない爆発音と人間たちの悲鳴が聞こえる。
一瞬、飛空船内が静まり返ったかと思うと、折れ曲がった船体が自由落下を始めた。僕らが居た部屋が炎に包まれて、あり得ないほど急な角度に傾いていた。
僕とアメルは青い光を放つ球状の結界の中で浮いていた。
「し、死ぬの?」
「物理防御の魔力結界。運が良ければ死なないよ。……力が流れ込んで来る」
──それから。ほんの数分にも満たない時間だろうか。僕とアメルは結界の中でお互いを抱き締めていた。
「アメル! アメル!!」
「……お兄ちゃん」
(ヒュウゥゥ……ゴゴゴゴゴゴ!! ドオォォン!!)
大きな地鳴りの様な音と爆発音──。一瞬の閃光が目の中を貫いて眩しく光る。それから、目の前が真っ暗になって、しばらく目を開けることが出来なかった。
時間にして、ほんの数秒ほどだったろうか。
遠くの方で何かが燃える音が聞こえる。木々が焼ける匂いだ。身体中に痛みが走り、温かい血液が僅かに動く指先に触れた。
「アメ……ル?」
朦朧とする意識の中、瞼を開くと煌々と燃え盛る炎の明かりに、倒れたアメルの姿が照らされていた。ここは、一体……。何処? 知らない森の向こうに浮かぶ夜空の星が、やけに綺麗に見えた。
「……アメル!!」
僕から手の届かない場所に吹き飛ばされて、アメルは倒れていた。けれど、風に乗った炎の熱さを感じる。重たい身体を引きずる。とても、とても長い距離に想えた。動かすたび痛みが身体を貫く。辿り着けない。
「ハァハァ……。アメル……うぅっ!」
──ツゥーと、森の冷たい土の上を温かい何かが滑るように僕の震える指先に触れた。
「血? アメルの? 温かい……」
その瞬間、アメルが少しずつ身体を震わせる様にして起き上がる姿を目にした。
「お兄ちゃん……生きてたね?」
「アメル!!」
それから、アメルは僕にふらふらと近づいて僕の傍で静かに横たわった。
「アメル、力が抜けて身体が」
「邪魔だよね、コレ。手と足の重りみたいな金属」
僕とアメルは、寝そべりながら手を取り合った。けれども、身体の回復が追いつかないくらい、アメルが言う〝重りみたいな金属〟に体力を奪われていくのを感じた。
「ハァハァ……ここまでなのかな」
「諦めちゃダメ」
僕とアメルは、息を切らせながら、手を取り合ったまま寝そべり──、静かに目を閉じていた。眠ることしか出来なかった。僕は、眠りに落ちる最中、うわ言のようにアメルに尋ねた。
「アメル……人間たち、あの変な生きものも……全部死んじゃったのかな」
「意識は見当たらないよ。何処にも。あ……」
その時──。
アメルの瞳が僕とは違う方向に向いた。
(ザッ……ザッ……)
枯れ葉を踏む音が耳もとに響いた。気配を感じた。さっきまでは誰も居なかったはずなのに。……アメルの指先が少し冷たくなっていた。




