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勇者と魔王の子。  作者: 破魔 七歌 


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15.白い霧と吹雪の中での戦い




 日の沈みかけた森──、漂う濃い霧が一段と冷気を増していた。辺り一帯が薄暗く、真っ白い霧に馬車で通って来た道も森もほとんど見えなかった。イリスの言っていたバレンテの街から吹き上げる風が、ビョオッと森に吹き荒ぶ。メネトの占いどおり雪が降り、僕らが乗っている馬車の中まで入り込んで来た。


「さ、寒い。さっきの声……魔物だよね? アメル?」


 僕は毛布の中で鼻先についた雪を震える手で払い除けて、アメルに尋ねた。


「空の魔物よ? 姿を現さないわね。魔物は魔族の祖先にして強い魔力を持つ。油断ならないわ」


 さっきまで笑っていたアメルの表情が変わる。馬車の中に緊張感が走り、誰も言葉を口にしなかった。


(ビョオォォッ!!)


 すると、嵐のように風が吹き荒び猛烈な吹雪が僕らを襲った。一瞬にして僕らの乗っていた馬車が、あっという間に雪に埋もれる。その最中、馬車の外に結界の魔法が張られて猛吹雪を弾くようにバチバチと音を立てていた。


〝……マグリットの者たちよ、彼の者の猛威は凄まじい。結界を張ったが、奴の魔力は我の上をいく。少々揺れるが、霧と吹雪を切り裂いて森を走り抜ける……〟


 スレイプニル──、イリスが言っていたマグリットの馬の魔物の声だろうか。その瞬間、ガクンと馬車が揺れて車輪が雪と地面をガガッと削るように走り出した。


「うわっ!」


 バランスを崩したのは僕だけで、他の皆は重心を低くして身構えていた。誰もが口を閉ざして、声を漏らさなかった。僕と同じ双子の妹のアメルでさえ。


「テフェル? 光の結界はまだなのか?」

「今、三層目まで結界の準備が整いました。私は後衛で皆さんをお守りするのが御役目。メネトさん、頼みましたよ?」

「良いだろう。目にものを見せてくれる。ヘイダル……自慢の大剣はどうした?」


 馬車が激しく揺れ動く中、目を閉じて額に杖をあてがったまま魔法使いのメネトが僧侶のテフェルに尋ねた。テフェルの身体には幾つもの光の層が見て取れる。メネトの言葉の後、ヘイダルはイリスを背にしてズシリと重い身体を屈ませ、大剣を盾のように突き立てて身構えた。


「マグリットの誇り高き騎士として我が剣とともに運命をともにする。誰も死なさん」

「ヘイダル、貴方も死んではなりませんよ? アキハのおかげでモレイラ街道の魔物は殲滅されたはずなのに。想定外ね?」


 ヘイダルもイリスも言葉を交わし終えると黙り込んだ。皆、目を閉じて、スレイプニルが牽引する馬車の中で息を潜めた。

 僕は──、相も変わらず何も出来ずにいた。ただ、守られているのが悔しかった。それなのに、皆のことが頼もしく想えて……仕方がないって心の中で自分に諦めていた。僕はアメルの手をギュッと握りしめた。情けない男だ。けれども、アメルのことだけは死んでも守るって心の中で呟いた。


(ピイィロロロロ……)


 霧の中で吹き荒ぶ嵐と吹雪が猛威を振るう。辺り一面、真っ白な景色に覆われていた。何も見えない。ゴォォッと風の音に紛れて、また美しい笛の音の様な張り詰めた音が鳴り響いた。それは、鳥の様な甲高い鳴き声にも聴こえた。アメルが言っていた空の魔物の声だ。


「ぐあっ!!」


 その瞬間、今度は尻もちをついて背中を打つほどの揺れに襲われた。スレイプニルが猛スピードで牽引していた馬車が突然浮き上がり、風とともに信じられないほど空高く宙空に舞い上げられた。目を閉じていた皆の表情が一斉に曇る。全員が激しく揺れ動く馬車にしがみついた。


「スレイプニル──、結界を強めて空中でもバランスが取れる様に魔力を維持してちょうだい……」


〝──承知した……〟


 馬車の外で竜巻のような吹雪がゴオォッと音を立てて唸る。イリスは崩れた体勢を立て直すと、座ったまま目を閉じて微動だにしなかった。両手に握るイリスの金の大きな十字架が、はめ込まれた赤い魔石とともに輝き、魔力を発している。すると、スレイプニルの声が聞こえて、馬車の揺れがおさまった。放り出されなかったけれど、僕はアメルとぶつかり合って、そのまま立てずにいた。


「痛たた……。アメル?」

「来る……。お兄ちゃん、衝撃に備えて!」


 僕がアメルとぶつかり合った額を擦っていると、アメルは痛がる様子も見せずに視界ゼロの真っ白な空を睨んだ。


〝皆さん、ごきげんよう。死ぬが良いわ……〟


 声の瞬間、人間の女の顔をした巨大な怪鳥が翼を広げて突然、僕の目の前に現れた。そして──、鋭く尖った足の鉤爪でスレイプニルの馬車の結界を、いとも容易く引き千切った。


(バリバリバリッ!!)


 引き裂かれた結界に電光が走り雷鳴が音を立てて光る。稲妻が走り、破られた結界の外から竜巻とともに猛吹雪が入り込み馬車の中で暴れ狂う。人間の女の顔をした怪鳥の口が開かれ、恐ろしい魔力の塊が光とともに撃ち出されようとしていた。


「聖なる天空の光よ!! 我らを守り給えっ!!」


(ドドドドドッ!!)


 怪鳥が口の中から発射した氷の魔力の塊が、絶え間なく僕らに向けて放たれた。言葉よりも速く、誰よりもその瞬間に前へと飛び出したのは、僧侶のテフェルだった。


「ぐっ!! あ、あぁ……!!」

「テフェル!!」


 その最中、テフェルが悲鳴を上げメネトが叫んだ。怪鳥の放った巨大な氷の連続射撃にテフェルの一層目の光の結界が、バーン!と激しい音を立てて打ち破られた。やがて、その凄まじい破壊力と衝撃に、二層目の結界にまでビビが入って光の結界が突破されそうだった。


「ぬぅっ! テフェル殿の結界がっ!!」

「くっ! ただの魔物にしては、あり得ない魔力だわ!!」


 怪鳥の放つ魔力とテフェルの光の結界が──、ぶつかり合って凄まじい光を放っていた。ヘイダルは大剣を突き立てたままイリスを背にして動けずにいた。攻め立てる魔力と竜巻と吹雪が激しく逆巻いて、イリスの長い髪が逆立つように靡いていた。


〝フフ……。見つけたわ? 哀れな人間の勇者と我らが神から産まれた二人の子……〟


 人間の女の顔をした怪鳥が──、その唇に張り付いた氷を蛇のような舌先でペロリと舐め取った。一瞬、口から白い息を煙のように吐き出して、巨大な氷の魔力射出が止まった。ギョロリと光るその魔物の目が、僕とアメルを見て笑った。


「哀れじゃないわ! 私とお兄ちゃんは人間の子……。誇り高き勇者! お父さんの子でもあるんだからっ!!」


 アメルの叫ぶ声に皆が静まり返った。沈黙する中──、アメルがハァハァと息を切らせながら、テフェルの放つ光の結界の真後ろで魔物の顔を睨みつけていた。震える両手をかざしたテフェルの二層目の結界には亀裂が入り込み、バチバチと音を立てている。

 アメルの言葉の後、竜巻と吹雪の吹き荒ぶ音が消え去り──、僕たちの馬車は一瞬の静寂に包まれた。


「え?」


 馬車がグラリと一瞬、直角に傾いたかと思うと……。僕の身体だけが、馬車から宙空へと飛び出し上空から投げ出された。馬車に掴まったアメルと皆の僕を見つめる顔が、どんどん遠ざかって離れていく。僕は、真っ逆さまになりながら地面へと落下し始めていた。


「うわぁぁっ!! アメル! アメルッ!!」

「お兄ちゃんっ!!」


 一瞬の出来事だった。落下の瞬間、空が見えてアメルの声だけが聞こえた。けれども、僕の背中の服が何かに引っ掛かり──、今度は猛スピードで急上昇をし始めた。そして、僕とは逆に……アメルとスレイプニルと皆が乗っていた馬車が地面へと真っ逆さまに落下していくのが目に見えた。


 〝二兎追う者は一兎も得ず……。キルス様の御言葉どおりに、まずは貴方から……〟


 キルス──?! その名前とともに僕の頭の中で、人間の女のような甲高い魔物の声が響き渡った。


「あ、あぁ!……アメルーッ!!」


 



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