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4.見過ぎ令嬢は夢見心地

 ふと、目を覚ましたクラウディアは、先程の夢のような状況から、急にガタゴトと居心地の悪い状況に陥っていることに顔を顰めた。

 すると、何故か兄クレストの姿が隣にあり、今日一番の白い眼を向けてくる。


「お兄……様……? えっ? わ、わたくし、一体……」


 もしや先程の奇跡のような展開は、ただの夢だったのでは……。

 クラウディアが落胆しはじめると、兄が鼻息とも思えるほどの盛大なため息をつく。


「フロリスと婚約前提で付き合うことになったそうだな」


 その瞬間、クラウディアは物凄い勢いで兄の両腕をガシリと掴む。


「あ、あれは夢ではなかったのですかっ!?」

「痛いっ! 放せっ!」


 掴みかかってきた妹の手をクレストは両手を後ろへ回すように振り払った。


「も、申し訳ございません! その、あまりにも非現実的すぎる奇跡のような展開だったので、もしや自身の妄想かと……」

「お前は妄想の中で気絶することができるのか?」

「気絶? そ、そういえば……わたくし、何故馬車に? 先程までフロリス様とご一緒に会場のバルコニーにいたはずなのですが……」


 そう言って沈思しはじめた妹に再び兄が盛大なため息をつく。


「お前はフロリスからの交際を受け入れた直後、歓喜のあまり気絶したのだ!」

「ええっ!?」

「しかも、その気絶したお前を会場内にいた私のところまで、あいつが抱えてきたというオマケつきだ!」


 その瞬間、クラウディアの顔色が一気に青ざめる。


「ま、まさか……その状況は……」

「そうだ。会場にいた全員にフロリスに抱きかかえられたお前の姿は目撃されている」

「ひぃっ!!」

「しかもご丁寧にあいつは、お前を託す際にこれから一カ月間、婚約を前提に交流する許可をお前から得たので、よろしく頼むと宣言していった」

「ひぃぃぃぃー!!」

「『ひぃぃぃぃー』じゃない!! その令嬢らしからぬ反応はやめろ!! 大体、お前は交流するにあたって奴とまともに会話ができるのか?」

「そ、それは……」

「できるかどうかわからないのに受けたのか!?」

「その……フロリス様の庇護欲をそそるような儚げな表情に見入ってしまい、つい承諾を……」


 その妹の返答を聞いたクレストが、先程よりもさらに盛大なため息をつく。


「お前は……。これから一カ月間、フロリスとどう交流するつもりだ! 今回、感極まって気絶したのだぞ!? 今後もまともに会話ができるとは思えない!」

「で、ですが フロリス様も第二騎士団でのお仕事があるかと思いますので、正確にはお兄様と同じように二日間ある公休の一日をわたくしの為にお時間を割いてくださるのかと……」

「先程、気絶したお前を託してきたあいつから毎週二日間の有給申請を受けた」

「えっ?」

「つまり今月のあいつは公休の二日間と有給申請した二日間で、週休四日という状態になる。もしこの休みを全てお前との交流に回した場合、お前達は週に四日も会うことになると思うのだが?」


 その兄の話にクラウディアの口元が徐々に引きつりはじめる。


「お兄様は……その有給申請をすんなり受けられたのですか?」

「上司として有給申請を受理するのは当然だ! そもそもあいつは、毎回有休を捨てることが多く、何度も注意していた立場で受理しないわけにはいかないだろう! ちなみに奴は、昨年全く手をつけていなかった有休全部と、今年支給された有休の三分の二を申請してきた」


 すると、再びクラウディアは兄の両腕に縋るように掴みかかる。


「ど、どうしましょう! 毎週四日もフロリス様とお会いできるなんて……。わ、わたくし幸せ過ぎて、死んでしまいそうです!」

「そうか。ならば、そのまま逝って構わないぞ」

「お兄様、酷い……」

「後先考えずにフロリスからの申し入れを安易に受けたお前のほうが酷い!」


 再び妹に掴まれた両腕をクレストが鬱陶しそうに外す。

 そして苦悩するように片手でこめかみ辺り軽く抑えはじめる。


「そもそもフロリスはこんな状態のお前と、どうやって交流を深めるつもりなんだ……」


 その兄の呟きに妹が同意するように押し黙る。

 クアウディアは、交流どころか三年間もフロリスに声をかけられずにいたからだ。

 そのことはフロリスも周知のはずなのだが。


「それは、わたくしも……同じ疑問を抱きました」

「なるほど。一応、お前のほうは奴と交流中に自身が奇行に走るかもしれないという自覚はあるのだな」

「奇行……。お兄様は先程から妹のわたくしの扱いが酷すぎると思います!」


 ムッとしながら抗議をしてみるも、兄にサラリと聞き流がされてしまう。


「ではフロリスを前にしても奇行に走らないと言い切れるのか? 恐らくお前は、茶席を設ければ無言のまま奴を不必要に凝視し、観劇に行けば劇の内容そっちのけで奴の反応を観察し、買い物に行けば自分のほしい物よりも奴に似合いそうな物を無意識に物色して、奴がそれらを身に着けた姿を妄想し、一人でニヤニヤしているのではないのか?」

「な、何故最後のお買い物部分は、そんなにも具体例が出てくるのですか!?」

「実際に今回のドレスを購入する際、お前がそういう動きをしていたからだ!」

「うぅ……」


 密かに楽しんでいた妄想癖を暴かれ、項垂れる妹に兄がフンと鼻を鳴らす。


「そのような状態で、お前は本当にフロリスと人間的な交流ができるのか? お前の中で奴は美術品のような鑑賞対象だろう」

「な、なんて失礼な! フロリス様に対してそのような扱いをしたことなどございません!」

「違うのか? 三年間も『ただ見つめるだけ』で満足していたのお前の行動は、そのように解釈されても仕方がないと思うが?」


 兄の言葉でフロリスには、三年間の自分の行動がどのような映っていたかを考えたクラウディアは、思わず言葉を失った。

 またしても押し黙った妹にクレストが、今日何度目か分からないため息をこぼす。


「無自覚だったとはいえ、お前が過剰にフロリスを眺めていたことは事実だ。この三年間、お前は奴を一人の男としてではなく、美術品を鑑賞するように眺め楽しんでいたと思われても仕方がない状況だろう」

「そ、そんなことは!」

「お前にそのつもりがなくても三年間も見つめ続けられたあいつが、どう感じるか考えたことはあったか?」

「…………っ!」


 兄から厳しい言葉を放たれたクラウディアが声を詰まらせる。

 その反応から妹が、今まで自身の行動が相手にどのように映るかを考えていなかったことにクレストが、盛大に呆れる。


「もし少しでもその自覚があるのなら、今後の交流を切っ掛けに今までの行動を改めろ。今の状態では、鑑賞対象としか見られていないあいつが憐れすぎる」

「…………」


 いつも以上に兄から辛辣な言葉を浴びせられたクラウディアは、何も言い返せない。

 美術品鑑賞……そんな目をフロリスを見ていたつもりなど一切なかった。

 純粋にフロリスの見た目や雰囲気、やわらかい物腰や仕草、声の低さや口調、彼を形成する全ての要素が自分にとって好ましいと感じていただけで、理想の男性という憧れの視線を向けているだけだった。


 しかし兄の指摘によって、自分が見た目でしかフロリスを評価していなかったことに改めて気づく。

 同時に交際を申し込まれた際、彼が口にしていた言葉もよみがえってきた。


 『外見だけでなく、私の全てを好ましいと感じていただきたいのです』


 その言葉には、クラウディアが外見しか見ていないと指摘しているようにもとれる。

 すなわち今回『婚約を前提として』という言葉をフロリスが添えたのは、『内面部分も知った上で好きでいられるのか』という部分を問われている可能性もある。


 その可能性を考慮した際、クラウディアはある仮説を導き出す。

 今回交際を申し込まれたのは、三年間も不躾な視線を送られることに限界を感じたフロリスが、敢えてクラウディアに内面を知れる機会を与え、その行為をやめさせようとしているのではないかと。


 確かに今までフロリスの外見部分しか見ていなかったことは事実だ。

 だからといって、彼の内面部分を知ろうとしなかったわけではない。

 知りたくても、そこまで踏み込む勇気が出せなかっただけである。


 もし今回『もう自分に好意を抱くのはやめてほしい』という訴えを含む交際の申し入れだったとしたら、自分はどうのように対応するのが正解なのだろうか。


 仮にそのような意図が込められた申し入れだったとしても、この先クラウディアがフロリスに対して減滅することなどない。

 むしろ交流によって彼の内面を知ってしまえば彼への好意は高まり、今以上に不躾な視線を送ってしまうだろう。


 それでは彼が望んだ結果にはならない。 

 そもそも紳士的なフロリスが、そのような策略めいた理由で交際の申し込んできた可能性を考えてしまっている時点で、クラウディアはかなり偏った思考に陥っている。


 だが、四年間も不躾な視線を送り続けてきた自分にフロリスが好意を抱くという状況をすんなり受け入れられるほど、彼女の頭の中はお花畑ではない。

 この場合、応えることができない恋心に取り憑かれてしまったクラウディアを憐れんだフロリスが、やんわりと諦めを促そうと交際の申し入れをしてきたと考えるのが自然な流れだ。


 たとえその考察が正解だったとしても、クラウディアにとっては大歓迎の状況である。

 同情心からの救済で提案された交際だったとしても、一時的に憧れの男性と恋人関係になれるのだ。

 フロリスの『婚約を前提として』という言葉に『お互いに意にそぐわない部分があれば婚約には至らない』という意味合いが含まれていたとしても、一瞬でも彼の隣に並んで歩ける好機を見逃すほど、クラウディアは愚かではない。


 交流後に婚約に至らなかったとしても、その思い出は自分にとって一生の宝となる。

 それだけでも十分すぎるほどの幸福を手に入れることができるのだ。


 この時のクラウディアは浮かれすぎていたからか、かなり前向きな考えしかできていなかった。

 その幸福な思い出を手に入れるためには、これからフロリスと交流時に自身も努力しなければならないことがあることをすっかり失念していた。

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