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見過ぎ令嬢は賭けの対象にされている  作者: もも野はち助


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29.見過ぎ令嬢は保護される

 突然、背後からクラウディアに抱きつかれたフロリスが驚きの声を上げる。


「……っ! えっ!? ク、クラウディア嬢!? 一体、どうし―――」

「い、違法……ハーブ……。第三、騎士団が……」


 息を切らしながら断片的に伝えると、フロリスは勢いよくクライディアの向かってきた方向へと目を向ける。

 すると、一瞬で表情が険しいものへと変わった。

 そして近くにいた金髪の青年に声をかける。


「パトリス!!」


 それとほぼ同時にパトリスと呼ばれた青年は、すぐに会場出口のほうへと走りだした。

 急に慌ただしくなった彼らに驚き、クラウディアが背後を振り返ろうとすると、いきなりフロリスに抱きしめられる。


「クラウディア嬢……ごめんね……」


 耳元で囁いた彼は、もう一人の薄茶色の髪をした青年にクラウディアを託す。


「ディアン! 彼女を頼む! 僕はパトリスの援護に向かう!」

「わかりました!」


 そう言ってフロリスも先ほどの青年の後に続き、会場出口に向かって駆けだした。

 恐らく二人はクラウディアを捕まえようとしていた第三騎士団の青年を追ったのだろう。

 その一瞬の出来事に呆然としていると、ディアンと呼ばれた青年が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「すみません……。自分たちは、まだ入団半年目の新人なので、フロリス先輩も追跡を任せることができなかったんです。だから、あなたの側を離れることは断腸の思いだったと思います」


 呆然としていたクラウディアだが、その話の意味を理解した瞬間、顔を赤らめる。

 すると、ディアンが苦笑しながら手を差し出してきた。


「エインフィート嬢、恐れ入りますが詳しい事情を伺うため、ガイルズ騎士団長のもとへご同行いただけますか?」

「は、はい!」


 手を取ると、ディアンは周囲を警戒しながらクラウディアを会場の出口までエスコートするように誘導する。

 その所作の美しさから、彼の育ちの良さが垣間見えた。

 恐らくクラウディアと同じ伯爵位の家の生まれなのだろう。


 そんな彼に守られながら会場を出ると、先ほど突き飛ばした警備の青年が同僚によって助け起こされていた。

 だが、彼はクラウディアの姿を目にした途端、大声を上げる。


「あぁぁぁー!! この女だ!! 俺をつき飛ばした不審者!!」


 次の瞬間、青年は同僚らしき人物から勢いよく頭を叩かれる。


「バカ!! 彼女は第二騎士団の副団長の妹さんだ!! 不審者なわけないだろう!?」

「えっ……? で、でもレゾが!」

「お前、騙されたんだよ!!」


 そう言って同僚の頭を叩いた青年は、真っ直ぐクラウディアたちのほうへ向かってきた。


「エインフィート嬢……。自分は第三騎士団所属のグナー・パシュートと言います。先ほど同僚があなたに無礼を働いたようで……大変申し訳ございません!」


 薄灰色の瞳を真っ直ぐに向けてきて頭を下げてきた黒髪の青年の名にクラウディアは驚く。

 なんと彼は、第三騎士団の前団長だったオルグリオの甥だったのだ。

 すると、隣のディアンが硬い声で彼に話しかける。


「グナー、ついにお前のところの団員が致命的なことをやらかしたみたいだぞ?」

「今日、ここでか?」

「ああ。詳細はこれから確認になるが……こちらのエインフィート嬢がそれを目撃したらしい」


 すると、グナーは気持ちを落ち着かせるように深く息を吐く。


「そうか……。やっとあいつらを裁けるのか……」

「今フロリス先輩とパトリスが、その問題の団員を捕縛しに向かっている」

「パトリスも? うちの団員、半殺しにされるんじゃないか?」

「大丈夫だ。あいつもこの半年で生け捕りにすることを覚えたから」

「はは……。それなら安心だ。被疑者に尋問できない状況が続くと厄介だからな……」


 力ない笑みを浮かべながら冗談めいたことを口にしたグナーは、再び真面目な表情でクラウディアに向き直る。


「エインフィート嬢、なにをご覧になったかわかりませんが、どうか我が騎士団の失態については、包み隠さず証言していただくようお願いいたします」

「は、はい!」


 真剣な眼差しで頼まれたクラウディアが、緊張気味に返答する。

 すると、グナーはどこか寂しげな笑みを浮かべた後、放置していた同僚のもとへ戻っていった。

 クラウディアたちも第二騎士団長のもとへと向かう。

 その際、ディアンたちの関係が気になったので軽く聞いてみた。


「あ、あの……ディアン様は、グナー様とお知り合いなのですか?」

「ええ。自分と先行で向かった金髪の同僚は、士官学校時代に彼と共に学んだ仲なので。それで、つい余計な会話をしてしまいました……」

「そう、でしたか……」


 恐らくグナーは入団前から、伯父のオルグリオが失脚する原因となった第三騎士団の不正を暴くために、副団長のセヴァンたちと今日まで奮闘しきたのだろう。

 ディアンが彼に先ほどの件を早々に伝えたくなる気持ちが、よくわかる。

 二年に渡り、全く尻尾がつかめなかった不正行為をやっと明るみにできそうなのだ。


 そんなことを考えながら歩いていると、少しだけ豪華な作りの扉が見えてくる。

 その前で止まると、ディアンが扉をノックした。


「ディアンです。入室してもよろしいでしょうか!」


 入室許可の声が兄クレストのものだったので、クラウディアの不安が少しだけ和らぐ。

 中に入ると、兄だけでなく四十代前後のがっしりとした体格の男性もいた。

 以前、一度だけ挨拶をしたことがあるクラウディアは、その人物が第二騎士団の団長ガイルズだと、すぐに察する。

 だが二人は、場違いな存在のクラウディアの姿に驚きの表情を浮かべた。


「なぜお前が、ここに? もしやなにか問題でも起こしたのか?」

「違います!」


 兄の酷い第一声にクラウディアは抗議の意味も込めて否定する。

 そんな兄妹のやりとりを目にしていたディアンとガイルズが苦笑した。


「報告いたします。どうやら副団長の妹さんは、第三騎士団の団員が違法ハーブを使用している現場を目撃されてしまい、フロリス先輩よりこちらで保護するよう指示がありました。該当の団員は先輩とパトリスが現在追跡中です」


 ディアンの話にクレストとガイルズが同時に眉間に皺を寄せる。


「ラディ、今の話は本当なのか?」

「は、はい……。実は化粧室に立ち寄った際、急に不思議な香りがしたので気になり、その香りを辿っていたら発生場所と思われる部屋の扉が突然、開きまして……。中から大量の煙と共に第三騎士団の騎士服を着ている方が出てきて……」


 そこでクラウディアは部屋に連れ込まれかけた状況を思い出してしまい、自身の両肩を軽く抱きしめる。

 その様子を目にしたクレストが不快そうに片眉を上げた。


「もしかしてお前……そいつに襲われかけたのか?」

「だ、大丈夫です! 煙が充満している部屋に連れ込まれそうになりましたが……。必死で抵抗したら、わたくしの頭部がその方の顎にぶつかり、その隙に難を逃れることができましたので!」


 その話に不謹慎にもガイルズとディアンが噴き出しかけ、慌てて咳で誤魔化す。

 だが、兄は妹の軽率な行動に両目をつり上げた。


「お前は!! 今回は無事だったからよかったものの、もし捕まっていたらどうなっていたか分かっていているのか!? なぜ一人でその変な香りの出どころを調べようとした!?」

「い、以前ウィリアーナ庭園で嗅いだことのある香りだったんです!」


 クラウディアの話にクレストとガイルズは、同時に顔を見合わせる。


「ではその香りは、ウィリアーナ庭園でもしていたということか……?」

「は、はい。その際、フロリス様もご一緒でしたが、気づいたのはわたくしだけだったので、そこまで気には留めませんでした。でも、本日また同じ香りがしたので、つい気になって……」


 気まずそうにクラウディアが話すと、団長のガイルズが深いため息をつく。


「なるほど。どうやら第三の連中は、ウィリアーナ庭園を違法薬物の取引場所にしているようだな……」


 その解釈にクラウディアは、フロリスが口にしていたある言葉を思い出す。


「そ、そういえばその時、庭園内には第三騎士団員の姿が多く目につきました! そのことでわたくしが怯えていたら、フロリス様が『ここにいる団員は剣など持ったこともない商家の生まれの男性が多い』とおっしゃっていて……」


 クラウディアの話で大体の状況が見えてきたクレストは、第三騎士団のその動きに呆れ果てる。


「決まりだな。最近、第三がシュクリス侯爵家の息のかかった商家の人間を入団させていることは把握していたが、それは違法薬物の闇市場を作るための隠れ蓑として騎士団を使おうとしていたわけか」


 その恐ろしくも大それたシュクリス侯爵家の画策にクラウディアは唖然とする。

 すると、ガイルズが頭痛をこらえるように眉間を押さえる。


「この分だと、総責任者のシュクリス侯爵の病気療養中という話のも怪しいな……」

「ええ。病気ではなく、薬物中毒で引きこもっている可能性も考えられます」

「はぁー……。つい最近、隣国間でデカい顔をしていた薬物売買組織を取り締まったばかりだぞ? 今度は国内の……しかも王家が手を焼いている侯爵家の取り締まりか?」

「そうなるでしょうね。ですが、グランツ殿下は嬉々として奴らを取り締まると思いますが」

「殿下は、本当にシュクリス侯爵家の人間を嫌っておいでだからなぁ……」

「あの侯爵家を好きな人間なんて、甘い汁を吸っている人間ぐらいしかいないでしょう」

「この間の大捕り物の後始末が終わって、やっとまともに家へ帰れると思ったのに……」

「私は帰りますよ。身重の妻が心配なので。団長は残業を頑張ってください」

「クレスト。お前、本当に揺るぎないな……」


 第二騎士団のトップでもある二人のその会話にクラウディアとディアンが苦笑いを浮かべる。

 すると突然、室内にノック音が響き渡った。

 クレストが入室を許可すると、先ほど先行で飛び出したパトリスという金髪の青年が、無表情で入室してくる。


「報告いたします。先ほど第三騎士団所属のレゾ・ブレナンと、アロガン・リュゼの二名を違法ハーブ使用の現行犯で捕縛いたしました。ですが……」


 なぜか口ごもるパトリスに全員が注目する。


「証拠となるそのハーブが見つからない状況です」


 その報告に室内は一瞬で静まり返った。

今回出てきた『パトリス』と『ディアン』という名にピンときた方は、かなりのはち助作品通!(笑)

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瞬殺された断罪劇の後、殿下、
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 出版社:アルファポリス
レーベル:レジーナブックス

★鈍感スパダリ王子✕表情が乏しい令嬢★
この二人のジレジレ展開ラブコメ作品です。

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― 新着の感想 ―
ちっ証拠隠滅したか…… 多分室内にまだお仲間が居たんだろうな 何処かに落ちてないかな~?クラウディアの鼻なら見つけられる気もするけど…… 流石に麻〇犬みたいな真似はさせられない あんな危ない目にあった…
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