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第5話

その後、虎太郎は小高が通っていたと思われるキャバクラやスナックの情報までくれた。


「お父さんが消えてしまって大変な中、色々とありがとうございました!」

リオが立ち上がって礼を言うと、虎太郎は意味ありげにリオの顔をじっと見つめた。

「……何か?」

リオがきょとんとすると、虎太郎はすぐに目を逸らして「い、いえ」と言った。


「今日は本当にありがとな。結構助かったぜ」

匡も礼を言って立ち上がった。

「それじゃ、また何かあったらよろしくね」

久保も立ち上がる。

虎太郎は三人をマンション出口まで案内すると、少し深呼吸をしてから顔を上げた。

「まっ……また来てくださいね!特に……リオさん」

「えっ、僕……いや、私ですか?」

咄嗟に女のフリをするリオの手を、虎太郎が両手で優しく握る。

「えっ、ちょっと、あの……」

驚いて手を振り解こうとするリオだが、虎太郎はその手にぐっと力を込める。

「僕、リオさんのこと……いつでも……待ってますから!!」

虎太郎は力強くそう言うと、唖然とするリオに何かを渡した。電話番号とメッセージアプリのIDが書かれたメモだった。

「あ……ど、どうも……」

リオは戸惑いつつも小さく頭を下げた。


「匡さんと久保さんも、また何か聞きたくなったら来てくださいね!僕も何か新しい情報あったら連絡するので!」

虎太郎は最後にそう言うと、三人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

外はすっかり日が暮れていた。


「なんつーか、人の幸せなんて外側からはわからないもんだな。あんな立派なタワマンの最上階に住める人間なんて絶対幸せだと思ってたけど……」

匡が呟くと、久保もうんうんと頷いた。

「金はあるに越したことはないけど、あるから幸せってわけではないんだよね。本当に、人間なんて外側からじゃ何もわからないよ。しかもあのマンション、悪い霊がうじゃうじゃいるね。ありゃー住人にも悪影響だわ。一応虎太郎くんの部屋にはこっそり御札貼っといたけど、あの量じゃあんま効果ないかもなあ」

「えっ……霊いたんですか?」

リオがわざとらしく匡の腕にしがみついて怖がる仕草をする。

「あちこちにいたよー。土地が悪いというより、住んでる人に着いてきたやつが呼び込んじゃってるんだろうね。でも、小高らしき霊はいなかった。死んではいないってことだろうね」

久保はそう呟くと振り返り、夕焼け空の中に聳え立つマンションを見つめた。


匡は改めて虎太郎からもらったメモを見返してみた。

小高が消えた理由を探すなら、小高を恨んでいそうな人間を探すのが手っ取り早い。

虎太郎も小高に対して恨みを抱いていたが、相手を消すほどの恨みとは言えない。

虎太郎は小高に対する恨みをぶつけながらも、まだ親子の情に囚われているようだった。妻もまた、小高の実家の金をアテにしているというのが本当ならば恨んでいたとしても消そうとまでは思わないだろう。


つまり、虎太郎や妻以上に小高を恨み、小高がこの世から消え去ることを望んでいた人物がどこかにいるということだ。

そしてその人物に力を貸した超能力者、或いは魔法使いがいる。

「ん?匡様、何か考え事でも?」

真剣な顔付きの匡に気づいたリオが尋ねる。

匡は少し考えてから、リオと久保のほうを向いた。


「俺、これから虎太郎に教えてもらったキャバ嬢に会って話を聞こうと思う。あいつ、ご丁寧に小高のお気に入りだった女の名前まで教えてくれたし、もしかしたら息子も知らない話が聞けるかもしれないしさ」

匡の言葉に久保はすぐに賛成した。

「それいいね!ちなみになんてキャバクラなんだっけ?」

「えーっと、クラブシトロンガール?ここからそう遠くない飲み屋街にあるらしい」

メモを見ながら匡が答えると、久保が何かを思い出したように手を叩いた。

「シトロンガールか!そこ行ったことあるよ、仕事で」

「仕事で……!?お前元黒服か何かか?」

「いや違う違う。霊が出るからってお祓いの依頼が来たことがあるんだよ。それ以来オーナーとはよく連絡取り合ってるんだ」

「マジかよ!それならお前アポ取れたりするか?」

「任せて!電話してみるよ!」


キャバ嬢に会うと決めたらしい匡に、リオが不安そうな表情を向ける。

「まさか匡様、キャバクラ行くんですか?」

「うーん、外で話せればそっちの方がいいが、店に来てくれと言われたら行くしかないよな……」

「じゃあ僕も一緒に行きます」

匡が呆れた目をリオに向ける。

「いや、さすがに無理だろ。お前未成年だし制服姿だし」

「ええっ、それじゃ僕だけ仲間外れってことですか!?酷いですよ匡様!!僕も連れてってくださいよ!!」

リオが匡の周りをうろちょろしながら我儘を言っていると、電話を終えた久保が満面の笑みで親指を立てた。

「どうやら小高お気に入りの娘は今日出勤予定らしいよ!事情を話したら店に来てくれれば話していいってさ」

「マジか!じゃあ行くしかねーな。でもよく考えたらキャバ嬢っていくら事件絡みとはいえ、警察でもない連中に客の情報ベラベラ喋っていいものなのか?」

「その点は大丈夫じゃないかな?話せることだけ話してもらえればって言っといたから」

「なるほど」

匡と久保の間にリオが割って入る。

「ちょっと!僕を無視して話を進めないでくださいよ!!僕はどうすればいいんですかーっ!!」

リオが匡の服を掴みながら叫ぶ。

「だから、お前を連れて行くのは無理だ!先に事務所に帰ってろ!」

冷たく言い放つ匡に、リオがしょんぼりと肩を落とす。

「匡くん、それはさすがに冷たすぎない?この夜道を女子高生ひとりで歩かせるのはいくらなんでも危ないよ」

久保が心配そうにリオを見ると、リオもここぞとばかりに煽り始めた。

「そうですよ!久保さん、もっと言ってやってください!こんな可愛い子をひとりで帰らせるなんて……」

「その点は心配いらねーよ。そいつ男だし腕っぷしなら俺より強いから」


匡の暴露に久保が硬直する。

「えっ……男?本当に?冗談だよね?」

「あ、そっか。久保さんは僕が男だって知らないんでしたね」

リオはそう言うと、何の躊躇いもなくセーラー服のボタンを開け、上半身を晒した。

「ご覧の通り男ですよ」

「う、嘘だろ!?ま、待って本当に!?うわあ!!脳が混乱する!!」


顔と身体を交互に見ながら混乱する久保を見ながら、匡は呆れたようにため息をついた。


「そういうわけだからリオは先に帰ってろ」

そう言って歩き出そうとする匡にリオが縋り付く。

「ちょっと匡様!!僕も連れてってくださいってば!!」

「だからそれは無理だって!!」


再び言い争いをする匡とリオに、久保が何かを思いついたように人差し指を立てる。

「そうだ!リオくんさ、男の子の格好して行けばいいんじゃないかな?年齢は適当に誤魔化せばいいんだし、お酒さえ飲まなければ大丈夫だよ。ね、匡くん」

久保の提案に匡は少し不満そうな顔をしたが、目をキラキラさせて嬉しそうに笑うリオに負け、渋々頷く。


「……わかったよ」


「わあっ!ありがとうございます匡様!久保さんも、ありがとうございます!」

よほど嬉しいのか、リオはスカートが捲れるのも気にしないで跳びはねている。

匡は小さくため息をつくと、ビシッと人差し指を立ててリオを指差した。

「しかし、その肝心の服はどうするんだ?まさか今から事務所まで取りに行くわけじゃないよな?」

「ああ、それなら大丈夫です!匡様の服があるので!」

そう言ってリオがずっと肩から下げていた紙袋を指差す。リオのその言葉で、匡は自分が今日ずっと男子高校生スタイルで行動していたことを思い出した。

途端に恥ずかしくなり、顔を手で隠しながら消え入りそうな声で言う。

「……リオ、やっぱお前が街華の制服着てくれ。俺は元着てた服に着替える」

「ええっ?なんでですか?まあいいですけど……」


***


三人は虎太郎にもらったメモを頼りにマンション近くの商店街を歩き出した。


「お兄さん達!ガールズバーどうすか!?」

「お兄さんイケメンですね〜!コンカフェ興味ありませんか!?可愛い娘いっぱいいますよ!今ならチャージ料無料っすよ!」

「お店決まってます?飲み放題二千円ですよ!どうですか!?すぐ案内できますよ!」


しつこく絡んでくる居酒屋のキャッチを華麗にスルーしながら久保が呟く。

「軽く調べたら、小高と関根は飲み仲間だったらしいんだよね。しかも学生時代からの知り合いだとさ。もしかしたら関根も同じキャバクラ通ってたかもしれないね」

「マジ?どうやって調べたんだよそんなの」

「さっき小高のフルネームで検索したらSNSが出てきたんだ。そこに関根と飲みに行った投稿があった。公開されてた投稿はそれだけで、他は多分友人限定とかにしてるから見れなかったけど」

「へえ、よくわからんけどすごいな」


商店街から細い路地に入る。そこはキャバクラやガールズバーが並ぶ飲み屋街になっており、派手な服装の女性と客らしき男性が腕を組んで歩いている。

虎太郎に教えてもらった店は、その路地の半ばにあるビルの一階にあった。


赤と黒を基調とした店内。天井には大きなシャンデリアがぶら下がり、その豪奢な内装はまさに異世界のようだ。

「いらっしゃいませ!」

入店してすぐに、ホスト風の外見のボーイが明るく声をかけてきた。

「すみません、先程電話した……」

「ああ!レミさんとユウカさんとお話したいと言ってた方ですね!すぐご案内いたします。こちらへどうぞ!」


ボーイに案内され、店内へと進む。

「今回は事件に関わるお話との事なので特別にVIPルームをご用意いたしました」

「え、そんなのいいのか?」

匡が戸惑うと、ボーイが笑顔を向けた。

「いいんですよ!なんせ久保さんの頼みですから!」

匡が振り向くと、最後尾を歩いていた久保が笑いながらピースしている。

ボーイの話によると、久保はかつてこのキャバクラと系列店に居着いていた数体の地縛霊を祓ったことでオーナーからいたく気に入られているらしい。

「霊のせいでなかなかお客さんが来なくて困っていたので、久保さんには本当に感謝しているんですよ!あれから質のいい女の子もいっぱい入ってきてくれたので」

そう言ってボーイが無邪気に笑った。


席についてしばらくすると、小高のお気に入りだったという二人のキャバ嬢・レミとユウカがやって来た。

レミはストロベリーブロンドの髪をゆるく巻いて纏めており、ユウカはアッシュグレーの入った黒髪を巻いてハーフアップにしている。一見するとタイプの違う二人だが、すらっとした手脚とそれに見合わないほどの豊かな胸が、小高がどのような女性を好んでいたのかを物語っているようだった。


「小高さんの話が聞きたいっていうから厳つい警察みたいな人が来るのかと思ったら、すっごくカッコいいお兄さんでびっくりしちゃった〜!」

そう言ってレミが匡の隣に座ろうとしたその瞬間、匡とレミの間に割り込むようにリオが座った。

腕を組み、足を組み、普段の可憐なメイド姿からは想像のつかない態度の悪さだ。

「おいリオ、どういうつもりだよ」

「匡様に悪い虫がつかないように見張ってるんですよ」

リオがレミを睨みつける。もちろんそれはリオなりの宣戦布告のつもりだったのだが、レミは何故か顔を赤くしている。

「ねえねえ、名前なんていうの?」

レミがリオに擦り寄る。

「僕?リオだけど」

冷たく答えるリオに、レミが目をキラキラ輝かせる。

「リオくん……こんなドSの王子様みたいなお客さん初めて……!!」


レミがこんな反応をするのも無理はない。

普段のリオは美少女にしか見えないが、今は髪をいつもより低い位置で結び、街華学園の男子制服を私服風にアレンジして着用している。まさに中性的な王子のようなビジュアルである。

想定とは違う方向にいってしまったが、リオからすればレミの興味が匡から逸れただけで充分だ。

ユウカは久保のことが気に入ったようで、戸惑う久保に楽しそうに絡んでいる。


「えーっと、小高さんについて話せばいいんだよね?参考になる話はあんまりできないけど私も小高さんが消えた事件のことは気になってたから……とりあえず、お酒飲みながら話そっ!私も何か飲みたい!」

レミにねだられ、匡が作り笑いを向ける。

「あーいいよ、なんでも好きなもん飲んでくれ。リオはウーロン茶でいいか?」

「はい。僕はお酒じゃなければなんでも」


ドリンクが運ばれてきたところで、早速レミが話し始めた。

「初めて小高さんが来たのは、あたしがキャバ始めて一ヶ月くらい経った頃だったかな。なんか、関根って人におすすめされて来たとか言ってた」

「関根?」

リオが尋ねると満面の笑みでレミが頷く。

「関根さんは、あたしの先輩をいっつも指名してた人。あたしは話したことないし、あんま会ったこともないんだけどねえ」

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