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第3話

「へ?」

振り向くと、グレーのスーツにオレンジのネクタイを着用した青年が立っていた。

年齢は匡と同じくらいだろうか。

前髪を中央で分けた明るい茶髪に、橙色の澄んだ瞳。そして匡に負けず劣らずの美形。

見たことのない顔だが、青年は確かに匡とリオに声をかけたのだ。


「何してんの二人共!オレ、ずっと二人のこと探してたんだよ!」

青年が笑顔で駆け寄り、匡とリオの手を握る。匡が戸惑っていると、青年が匡の耳元で

「ここはオレに話を合わせて」

と囁いた。


「久保くん、この子たちは知り合いかい?」

どうやら浦郷はこの青年を知っているようだ。

青年は匡とリオの手を握ったまま、浦郷に笑顔を向けた。


「はい!あれ?言ってませんでしたっけ?僕の他に探偵が二人来るって」

「さあ、聞いてないな」

「あ、そうでしたっけ!これは失礼しました!彼らは僕の探偵仲間で、生徒に変装していろいろ調査してたんですよ〜」

「あ、そうだったの?」


よくわからないが浦郷が青年の言葉を信じかけている。

匡とリオはパッと表情を変えると、ここぞとばかりに話し始めた。


「そうなんです!俺たちは探偵なんです!いや〜、本当は先に先生方に挨拶をしておく予定だったんですが、1-Bの学級委員にどうしても先に聞いておきたいことがありまして!」

「そ、そうなんですよ!やっぱりこう、生徒達から話を聞くなら生徒の格好をしていた方が色々と話してもらえるので!!」


匡とリオのやや苦しい言い訳に、浦郷は納得したように頷いた。

「そうだったのか。それはすまない事をしたね。捜査ご苦労様です」

「ありがとうございます」

浦郷は手を振りながら元来た方へ戻っていった。


「よ、よかったぁ〜」

リオが安心したように胸を撫で下ろす。

匡は隣でニコニコしている青年にペコリと頭を下げた。

「どこの誰か知らないが、本当に助かった。ありがとう」

青年は相変わらずニコニコしたまま、ヘラヘラと両手を振った。

「気にしないでよ!君達がオレの仲間だって気づいたから助けただけだし」

「仲間って……?」

もしやこいつも魔法使いなのか?と匡が怪しんでいると、青年が笑いながら続けた。

「だって君達も、教師が突然消えた件について調べに来たんだろう?それならオレと君達は仲間だよ」


青年は思い出したように名刺を取り出すと、匡にそれを差し出した。

「改めまして、オレの名前は久保流人(りゅうと)です!よろしくね」

渡された名刺には、『流星心霊探偵事務所 久保流人』と書かれている。

「へー、心霊探偵事務所かあ……心霊!?」

匡が名刺を二度見する。

「心霊探偵事務所って、あれですか?霊能力で事件を解決する的な……」

リオが怪しみながらも尋ねると、久保は頭をポリポリ掻いて笑った。

「あーまあそういう依頼もあるっちゃあるけど、基本的には探偵は探偵、霊関係は霊関係でそれぞれ分けてやってるんだ。二足の草鞋ってやつかな。ま、最近はほぼ霊関係の仕事メインなんだけどね!」

久保曰く、元は普通の探偵事務所だったが、せっかくの霊感を活かしたいとの事で霊能力者としての活動も始めたらしい。


「俺は超能力便利屋の匡だ。こっちは弟子のリオ」

「リオです!僕は匡様の恋人で……」

「さらっと嘘をつくな!!」

匡がリオを制止する。

「超能力便利屋?初めて聞いた。まさか二人は超能力者なの?」

「あーまあそんな感じだな」

匡が笑いながら返す。

流石に魔法使いであることは初対面の人間には明かせない。

「超能力者か〜!今まで霊能関係の仕事してて色んな能力者に会ってきたけど、超能力者は初めてだなあ。もしかしてスプーン曲げとかできる感じ?」

「超能力者のイメージが古すぎるだろ」

匡が呆れたように言うと、久保が

「ところでさ、この後何か予定とかある?もし暇だったらお茶しない?学校内で立ち話じゃ邪魔になっちゃうし」

といきなり提案してきた。

改めて周囲を見回すと、生徒達が匡とリオを見てイケメンだの可愛いだのと騒ぐ声が聞こえてくる。久保もその女子受けするルックスからかなり注目を浴びているらしく、既に数人の女子から連絡先を聞かれたらしい。


「確かに、ここじゃ目立ってしょうがねーな。落ち着いて話もできないし」

「ですね。僕も男子の視線にうんざりしてきました。まあ、こんなに可愛いので仕方ないといえば仕方ないですけど……」

廊下に設置された鏡を見ながらリオが呟く。

久保はちらりと廊下の時計を見ると

「昼休みも終わるし、とりあえず外出よっか!確か学校のすぐ側に喫茶店があったよ」

と言って笑った。


三人は街華学園高校のすぐ近くにある古そうな喫茶店に入った。店内にはハチワレ模様の猫がおり、赤いベルベットの椅子の上で丸くなっている。レトロな雰囲気の店内に流行りのJ-POPメドレーが流れているのがなんともミスマッチだが、昼時にも関わらず店内は空いており心地良い空気が流れていた。

「あ、いちばん奥の席空いてる!あそこにしよう!」

久保がそう言って窓際のいちばん奥のテーブルへと向かう。

「……匡様、この久保さんって方、信用して大丈夫なんでしょうか」

リオが匡の耳元で囁く。

「わかんねーけど、まあピンチを救われたのは事実だし、ひとまず信じてみてもいいんじゃないか?」

「……確かにそうですね」


***


「あなたたち、随分とハンサムね〜!そちらのお嬢さんも美人さんだし、なんだか芸能人が来てくれたみたいだわぁ」

年配の女性店員が飲み物をテーブルに置きながらニコニコと微笑んだ。

「これはサービス。よかったら食べてね」

そう言ってテーブルの中央に籠を置く。

中には透明のフィルムに包まれた一口サイズのチョコレートがどっさり入っていた。

「ごゆっくりどうぞ〜」

そう言うと、女性店員はそろそろとカウンターに戻っていった。


匡は運ばれてきたアイスティーにガムシロップを入れると、それをストローでかき混ぜながら咳払いをし、口を開いた。

「まず今回の事件についてなんだが、俺らは小高の詳しいプロフィールすらまだ知らない。久保が何か情報持ってるなら教えてほしいんだが……」

匡がそう言うと、久保は手提げ鞄からクリアファイルとノートを取り出した。

「オレも仲良い警察の人からちょこっと聞いただけで、まだ家族構成くらいしか知らないんだけどね」

久保はそう言ってアイスコーヒーを飲み干すと、店員を呼び止めておかわりを注文した。

「えっと、小高は奥さんと息子さんと三人で暮らしてるらしいよ。息子は東京の高校に通う高校二年生で、あとは小高の両親が資産家の大金持ちってことしかわかってないなあ」

「トラブルとか人の恨みを買ってるとかそういう系の話はないんですか?」

リオがサービスのチョコレートを食べながら尋ねると、久保もチョコレートに手を伸ばし三個ほど掴んで自分の前に置いた。

そのタイミングで久保が注文したアイスコーヒーがテーブルに置かれた。余程喉が渇いていたのか、再びそれを一気に飲み干す。

「そこまではオレもわかんないんだよね〜。ただ聞いた話だと、奥さんや息子さんとはあまり仲が良くなかったらしいよ。詳しいことはわかんないけど」


匡はテーブルに置かれたクリアファイルに手を伸ばし、そこに挟まっていた小高の写真を手に取った。

飲み会で撮られた写真だろうか。片手に瓶ビールを持ち、教師仲間と思われる人物と肩を組んで笑っている。

「この小高って奴、写真見た感じだといかにも偉そうな感じだよな。なんつーか、今まで何もかも順調にやってきましたーみたいな」

匡が呟くと、久保もうんうんと頷いた。

「多分、自分が恵まれた環境で育ったから世の中には努力だけではどうにもできないこともあるって知らないんだろうね。出来の良い生徒には優しくして、そうじゃない生徒には上から目線で偉そうな態度って聞いたし、女子なんかは可愛い子とそうじゃない子だと全然対応が違うってさ。生徒が言ってたことだからどこまで本当かわかんないけど、気に入ってる女子生徒にはテストの内容こっそり教えたりしてたらしい。本当だとしたらヤバすぎるよね」

そう言ってから久保は、手を上げてコーヒーのおかわりと店オススメのアップルパイを注文した。匡とリオもせっかくだからとデザートを追加注文する。


「そういえば、この件で小高の家族はどうなったんですか?やっぱり警察にいろいろ聞かれて大変なんでしょうか?」

リオがチョコレートを口に運びながら尋ねると、久保が小さく頷いた。

「奥さんは大変だったっぽいよー。毎日毎日取材の嵐!まあ息子さんなら暇かもしれないけど」

久保がそう言ったタイミングで、コーヒーとデザートが運ばれてきた。

バニラアイスが添えられたアップルパイは思いの外大きく、久保が目を輝かせている。

ミルフィーユを注文したリオは

「……僕もアップルパイにすればよかった」

とぽつりと呟いた。


「とりあえず、一度小高の息子から話聞くのがいちばんかもな。あとは関根のことも後で調べてみないと」

匡がコーヒーゼリーを食べながら呟く。

「じゃあ、この後にでも三人で息子さんの所行ってみる?小高の息子さんなら携帯の番号教えてもらったし、住所もわかるよ!」

久保がそう言うと、匡とリオは顔を見合わせて頷いた。

「そうですね、ここは久保さんに従って息子さんに話聞きに行きますか!久保さん、息子さんに電話してアポ取れますか?」

リオの提案に、久保は力強く頷いた。

「任せて!とりあえずオレ先に外に出て電話しとくから!あとオレ金忘れたからお会計よろしくね!」

久保は伝票を二人の前にピシッと置くと、胡散臭いウインクを飛ばして店の外へ出ていった。ドアに付いたベルがカランカランと鳴る音が、二人を嘲笑っているようだった。


「……あいつ、いつかぜってー高級中華料理奢らせるぞ」

「……そうですね、匡様」


匡は伝票を強く握りしめながら大股でレジに向かった。

ガラス張りのドア越しに、久保が外で電話しているのが見えた。

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