五十一話
聳え立つ巨大な門、その城壁には劉備、関羽、張飛の三人が立っていた。
いつの間に…と思うもここは敵の拠点で裏道や近道などがあって当然だろう。
「よくぞここまで辿り着いた！だが、しかし！！この門は抜かせぬぞ！帰るなら今のうちだ！…そうか、ならば！矢を放て！」
此方が帰らないと意思表示をすると少し悲しそうな表情を一瞬作るが号令を発した。
向こうも手心を加えてくれたらしい。
しかし此方も引く気はない！
「カノ、ノブシゲ、矢返しだ！ハンベエ、一曲頼む！マサムネ、風竜で城門を抉じ開けてくれ！ーーハル！」
「あいあいー！〈原初乃焔〉！〈虚偽乃焔〉！」
ハルの手から白と黒の炎が溢れ出す。白は味方に、黒は城壁を越え敵陣に。身体が暖かくなっていく。
「助かるぞハル殿！ノブシゲ殿、練習通りに！」
「うふふ、きっとうまく行きます～！」
「では「連動魔法〈矢返し〉(です～)」」
俺が飛ばした指示により、カノとノブシゲの土属性の連動魔法〈矢返し〉が発動する。数千の矢が反り返った壁をUターンするかのように敵陣向けて襲い掛かる。
「ハンベエ殿！今のうちに！」
「うい～☆いっくよ～！〈恋は合戦〉！！あなたと落とした～♪」
マサムネのサポートを受け矢返しの上に乗り上げたハンベエの歌が始まる。
ハンベエの振り付けに合わせ竹槍ダンサーの進化体、杖舞者が踊り始めた。
ハンベエの固有スキル〔魅惑の偶像〕は味方に高揚状態を付与、敵に一時硬直、魅了のバッドステータスを付与させる。
敵陣の気が緩んだその隙にマサムネが風竜を城門に直撃させる。
矢返しの下に二メートル程の穴が開きそこからマル、ノブヤス、ノブタダが魔獣達を引き連れ破壊された城門に雪崩れ込んだ。
少し遅れてジョン、アン、メアリー達も突撃する。
俺も急ごう。
そう思って一歩前に進もうとした時、足元の石に躓く。
俺の左頬があった場所から一本の矢が後ろから前に通過していく。
「ぬぅ…外したか。」
「敵の従者…武将か？」
「如何にも。儂は黄忠、弓しか取り柄のない老い耄れよ。この老い耄れに倒されてはくれんかね、総大将殿？」
全身から冷や汗が吹き出す。
もし躓いてなかったら俺はどうなっていた？
ーー死？
嫌だ、死にたくない。
俺は恐怖から逃げる為に鬼丸を抜き構える。
「俺は死なねえ！二度も死んでたまっかよ！」
俺は我武者羅に駆け出す。
黄忠が次々と矢を射ってくるが無茶苦茶に魔法を乱れ打ち何とか凌ぐ。
あと三歩…俺の刀が届く距離だが、黄忠は俺を近づけさせない様に最低限の動きで矢をつがえ射ってくる。
糞…無茶苦茶だな、この爺さん。
隙も何もあったもんじゃない。
隙…そうか！
ぶっつけ本番だけど…頼む、成功してくれ！
「王の采配発動！指定:ジャンヌ・ダルク、森蘭丸！」
「御屋形様！」
「マスター、お呼びかしら？」
「ぬぅ…新手か？儂一人にゃちと荷が重すぎるのう。」
「逃がすか！〈バーストミサイル〉！！」
「ぐぉあッ！見事…なり」
ふぅ…何とか勝てたか。
キングスオーダーでマル達を呼び出して相手の意表を突き、最大魔法ブッパで勝つ。
俺は一人で勝つことに拘りすぎていた。
けど違ったんだ。
ヴラドとの戦いの中で死にかけて覚醒したこの力もまた俺の中に眠っていた力だ。
俺は一人じゃない、マルやジャンヌ達が居るんだ。
仲間との絆も俺の力である。
それを無視し続けるなんて出来るものか。
「すまない、マル、ジャンヌ。だがお陰で勝てたよ…！」
「御屋形様…血が！」
マルが血相変えて俺の左腕を掴む。
あぁ、流れ矢がかすったのか…
『獅剛、男ってのはよ、女を心配させちゃいけねえ。怪我の一つでもこさえたらこう言ってやれ！』
何故か十三歳の時に亡くなった爺ちゃんの言葉を思い出す。
黄忠が爺さんだから？
んなの関係無いだろうに。
だけど、思い出してみると破天荒な爺さんだったけど、優しくていつも一緒に怒られてくれてたな…
死ぬ前日まで、若い女の尻追い掛けてたなんて今でも信じられねえよ。
最低だけど最高の爺ちゃんだった。
そんな爺ちゃんが遺してくれたこの言葉を俺は忘れない。
「『へへッ、こんなの掠り傷だ。気にすんな！』」
「御屋形様…」
「マルちゃん、私が治すから。主よ、お力を…」
あー、なんかカッコつけた割にあっさりと傷を治されていく…
ジャンヌには感謝しかないが…
俺の恥ずかしさはどうすれば？
心の傷も癒してくれませんかねー？
ダメか…はぁ…
